自国民の奨学金の予算70億円、外国人留学生の予算180億円?【ファクトチェック】

自国民の奨学金の予算70億円、外国人留学生の予算180億円?【ファクトチェック】

2022年以降「自国民の奨学金の予算70億円、外国人留学生の予算180億円」という言説が何度も拡散していますが誤りです。70億円は給付型奨学金制度創設時の予算であり、現在は大幅に増額されています。

検証対象

2024年5月21日、「自国民の奨学金の予算→70億、外国人留学生の予算→180億」という言説が拡散した。投稿には2022年6月の参議院決算委員会で小野田紀美氏が留学生、学生支援について語る動画が添付されている。

2024年5月31日現在、このポストは3500件以上リポストされ、表示回数は65万件を超える。投稿について「日本人に無関心な日本政府」というコメントの一方で「デマ情報に注意」と指摘する声もある。

検証過程

動画は2022年6月の参議院決算委員会の様子

拡散した動画は2022年6月13日に開かれた参議院決算委員会で、自民党の小野田紀美参議院議員の質問と文科省の増子宏高等教育局長(当時)や岸田文雄首相が答弁している様子だ。

この動画や、動画の一部を切り取ったスクリーンショットは繰り返し拡散している。2022年7月には、早稲田大学政治経済学部のジャーナリズム・メディア演習(瀬川ゼミ)のゼミ生が発信するWebマガジン「Wasegg」が「『日本人への奨学金予算が70億で国費留学関係の予算が180億円』というテロップがつけられた小野田紀美参院議員(自民党)の発言に関する画像」についてファクトチェックをし「ミスリード」と判定している。

今回は最新資料と共に改めて検証する。

給付型奨学金とは

参院決算委員会で小野田議員は「日本人の奨学金の給付型、これの予算が70億」と話している。給付型奨学金とは「経済的理由で大学・専門学校への進学をあきらめないよう、2020年4月からスタートした新制度で、世帯収入の基準を満たしていれば、成績だけで判断せず、しっかりとした『学ぶ意欲』があれば支援を受けることができる」というもの(日本学生支援機構)。

日本人学生の奨学金予算70億円は?

拡散した動画では小野田議員が「日本人への奨学金予算が70億で国費留学関係の予算が180億円」と指摘したように編集されている。

しかし、国会会議録を確認したところ「日本人への奨学金の給付型、これの予算が70億で、国費留学関係の予算が180億だった(中略)これは今は変わっているか」と質問していた。文科省の増子高等教育局長(当時)は、給付型奨学金について「2017年度決算額は指摘のとおり70億円。2020年4月に開始した高等教育の就学支援新制度により支援対象者は大幅に拡充して、2020年度決算額は1585億円、2022年度の予算額は2525億円だ」と答弁している(参議院 決算委員会 2022年6月13日)。

つまり、小野田議員が発言した70億円という質問の部分のみが切り取られ、その回答である「2022年度の予算額は2525億円」という重要な箇所が拡散した言説には抜けている。

財務省広報誌「ファイナンス」で2024年度予算を確認したところ「授業料等減免:2,864億円、給付型奨学金:2,573億円、地方分も合わせて5,908億円(2024年3月号24ページ)」と書いてあった。投稿が指摘する70億円は、給付型奨学金制度が創設された2017年度当時の予算であり、その後、増額されていることがわかる。

外国人留学生の予算180億円は?

「外国人留学生の制度」とは国費外国人留学制度の予算とみられる。同じ決算委員会で、増子高等教育局長(当時)は外国人留学制度について「2017年度の決算約180億円だったところ、2020年度の決算額は155億円、2022年度の予算額は184億円だった」と述べている(参議院 決算委員会 2022年6月13日)。

2017年度の決算額は約180億円であり、2022年度の予算額も184億円であることから、ポストが指摘する「外国人留学生の予算180億」は、ほぼ正確。

判定

ポストの予算額はいずれも2017年当時のもので、その後、日本人学生の予算額は増えている。よって誤りと判定した。

あとがき

過去に拡散した動画や言説が再び投稿され、数字が一人歩きしてしまうケースもあるため注意が必要です。動画や言説のキーワードをGoogleなどで検索すると、過去のファクトチェック記事や実際の資料を確認することができます。

検証:木山竣策
編集:宮本聖二、藤森かもめ、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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