最高裁が外国人への生活保護は違法と確定? 判決は「対象となりうる」【ファクトチェック】

最高裁が外国人への生活保護は違法と確定? 判決は「対象となりうる」【ファクトチェック】

「外国人への生活保護は2014年に最高裁で違法判決が出て確定している」といった主張が複数拡散しましたが、誤りです。外国人への生活保護をめぐる2014年7月の最高裁判決は、外国人は生活保護法の対象である「国民」には含まれないものの、自治体の裁量によって保護の対象となりうると示したもので、外国人への生活保護を違法だと確定したわけではありません。この主張は過去に何度も拡散し、誤りだと指摘されています。

検証対象

2025年2月中旬、外国人への生活保護について、「2014年に最高裁で違法判決が出て確定している」などといった主張がXで複数拡散した(投稿1投稿2投稿3)。

「最高裁第2小法廷 千葉勝美裁判長〝生活保護法が保護の対象とする「国民」に外国人は含まれない〟初の判断」とテロップの入ったニュース画面のスクリーンショットを添付している投稿もある。

これらの投稿には「ずっとおかしいって思っていました」「まともな感覚の最高裁判事がいてくれた」などのコメントがつく一方で、「旧厚生省の通達や自治体の裁量による行政措置を違法認定していません」などの指摘もある。

検証過程

永住外国人の生活保護に関する最高裁判決とは

拡散した投稿が参照する判決とは、2014年7月18日の最高裁判決を指していると思われる。

この判決は、裁判所Webサイトにある裁判例検索には掲載されていない。しかし、法務省訟務局「訟務重要判例集データベースシステム」や民間判例データベース、法律雑誌などで「外国人は生活保護法に基づく保護の対象とならない」と判断した判決文だと確認できる(最高裁第二小法廷平成24年(行ヒ)第45号、LEX/DB25504546、訟務月報61巻2号356頁、判例地方自治386号78頁など)。

また、「永住外国人の生活保護認めず 最高裁が初判断」(日経新聞)、「生活保護法『永住外国人は対象外』 中国人女性の逆転敗訴が確定」(ハフポスト)などの見出しで報道されている。

訴訟の背景

この裁判は、日本の永住権を持つ外国人が大分市に生活保護受給の申請をしたところ、同市の福祉事務所に却下されたため、その却下の取り消しを求めて大分地裁に提訴したものだ。

大分地裁は外国人の主張を認めなかったため、外国人側が控訴した。二審の福岡高裁は、永住権を持つ外国人は生活保護法を準用した保護の対象となり、経済的に困窮した事情があった今回の事案では、生活保護申請を却下すべきではなかったと判断して、却下を取り消す判決を出した。

これに対し、大分市が最高裁に上告。2014年7月18日の判決が出た。なお、判決文によると、この外国人は2011年10月、別の申請に基づいて生活保護の措置が開始されたという。

生活保護法に基づく保護の対象ではない

2014年7月18日、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は、福岡高裁の判決を破棄し、外国人は生活保護法に基づく保護の対象にはならない、とする判決を下した(以下「本判決」)。

「生活保護法は、1条及び2条において、その適用の対象につき『国民』と定めたものであり、このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう『国民』とは日本国民を意味するものであって、外国人はこれに含まれない」「現行法令上、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない」などを理由として挙げた。

生活保護法は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めた憲法25条に基づいて、生活に困窮した国民を自治体が保護するよう義務付けた法律だ。

つまり、本判決は、生活保護法に基づく保護の対象である「国民」に、永住権を持つ人も含めた外国人は含まれないと示した。ここまでを見ると、拡散している投稿は正しいように見える。

「事実上の保護の対象になり得る」

しかし、本判決では「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る」とも示している。

1954年5月8日、旧厚生省社会局長から各都道府県知事にあてて「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」との通知(以下「昭和29年通知」)が出された。生活保護法による保護の対象でない生活が困窮する外国人についても「当分の間、生活に困窮する外国人に対しては日本国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うもの」などとしている。

つまり、本判決が出る以前から、生活保護法による保護の対象ではない外国人に対しても、自治体の裁量で生活保護を支給していた。

本判決でも、昭和29年通知を「生活に困窮する外国人に対し、生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に、それとは別に事実上の保護を行う行政措置として、当分の間、日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続により必要と認める保護を行うことを定めたもの」と認定した。

このため、2014年7月18日の最高裁判決は「外国人への生活保護を違法と確定した判決」とは言えず、外国人は生活保護法に基づく保護の対象ではないものの、自治体の裁量として従来から続けられてきた事実上の保護の対象になり得ると判断したものだ。

外国人の生活保護に対する政府や自治体の見解

昭和29年通知に対しては、2009年に民主党の参院議員だった加賀谷健氏(故人)による「現在も有効か」との質問主意書に対して、当時の麻生内閣が「現在も有効である」と答弁した。

また、2022年には神谷宗幣参院議員(参政党)の質問に対し、当時の岸田内閣が本判決を引用しながら「生活に困窮する外国人に対しては、人道上の観点から、生活保護法による保護に準じた保護が行われている」と答弁した。昭和29年通知については「通知にいう『当分の間』とは、具体的に特定の期間を想定しているものではなく、現在においても生活に困窮する外国人が一定程度存在していることから、昭和二十九年通知を見直す状況にないと考えている」と答えている。

拡散した情報に似た内容の市民からの問い合わせに対して、「昭和29年通知に基づいて人道上の見地から実施している」などと回答している自治体もある(島根県大阪市広島市)。

過去に何度も拡散し、「誤り」と検証済み

「外国人への生活保護が違法との最高裁判決が出た」という主張は、これまでに何度も拡散し、複数のファクトチェック団体が検証して全て「誤り」と判定している。

BuzzFeed Japanは2016年2019年の2度にわたりファクトチェックした。元地方議員やまとめサイトによって拡散した主張を取り上げ、いずれも厚労省に取材した上で「誤り」と判定している。InFactは2020年に検証し、最高裁の判決は「外国人に対して事実上の行政措置として生活保護を実施することは否定していない」として「誤り」と判定した。

判定

「外国人への生活保護は2014年に最高裁で違法判決が出て確定している」との主張は誤り。最高裁判決は、外国人は生活保護法の対象である「国民」には含まれないものの、人道上の観点から、自治体の裁量によって保護の対象となりうると示している。

検証:リサーチチーム
編集:宮本聖二、古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

「安倍元首相が日本の年収を下げていた」という文言とともにグラフ付きの画像が拡散しましたが、誤りです。グラフで年収が下がっていると強調されている時期は小泉純一郎政権です。第一次や、第二次安倍政権発足以降の年収はともに上昇傾向にありました。 検証対象 2025年10月27日、「【悲報】安倍晋三、凄まじい勢いで日本人の平均年収を下げていたことが判明wwww」という画像つき投稿が拡散した。 10月30日現在、この投稿は削除されているが、同じ画像を使った投稿が拡散している。 検証過程 画像のグラフは 画像のグラフをGoogleレンズで検索すると、2011年3月2日に「ITmedia ビジネスオンライン」が投稿した「コツコツお金を貯める人が、減っている理由」という記事がみつかる。拡散したグラフは、この記事に添付された内容と同じだ。 記事は「1998年を境に日本の平均年収が減少し、コツコツと貯金する人も減っている」と書いている。拡散したグラフは「ビジネスパーソンの平均年収(横軸は年、出典:年収ラボ)」というタイトルで記事内で紹介され、1998年以降にビジネスパ

By 木山竣策
南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アフリカなど10か国の在留資格を持つ外国人の再入国を禁止するかのような言説が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画は2021年末、松野博一官房長官(当時)が、新型コロナウィルスの水際対策について説明しているものです。 検証対象 拡散した言説 2025年10月27日、「それが当たり前 今までの石破や岩屋のクズぶりが 分かる🤣‼️」という文言付きの動画がXで拡散した。 動画には「10カ国が対象 在留資格持つ外国人 再入国を禁止」とあり、首相官邸で松野官房長官が内容を説明している。 検証する理由 10月29日現在、投稿は3800回以上リポストされ、表示は89.7万件を超える。 投稿には「これ昔の動画ですよね?」「よくこんな数年前の動画持ってきたね」等の指摘もあるが、「今来ている外国人も減らしてください 子を産み選挙権を与えたら日本は終わります」「移民受け入れ反対運動を決行された全国の皆様もきっと喜んでいると思います」など同調のコメントが多数ある。 検証過程 動画は2021年の新型コロナ対策に関するニュース 拡散した動画は52秒で、NNNの

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
大阪は6人に1人が中国人? 府内1.1%、市内1.9%【ファクトチェック】

大阪は6人に1人が中国人? 府内1.1%、市内1.9%【ファクトチェック】

「大阪は6人に1人が中国人」という投稿が拡散しましたが、誤りです。大阪府に就労や勉強などのために訪れ、中長期にわたり滞在する中国人の割合は人口の約1.1%(2025年6月末時点)、大阪市と比べても、市内に住民登録している中国人は市の人口の約1.9%(2024年末時点)で、いずれも6人に1人(約16.7%)からはかけ離れています。観光客の人数を考慮しても「6人に1人」は程遠い数値です。 検証対象 拡散した投稿 2025年10月19日、「大阪は6人に1人が中国人。本当にやばい」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月29日現在、投稿は2.2万回以上リポストされ、表示は335.4万件を超える。 投稿には「6人に1人は言い過ぎ」「いったいどんな統計ですか?」などの指摘の一方で、「6人に1人⁉️ キショ!大阪の日本人はよくそんな環境を耐えてますね」「この状況を許している維新の大阪府は、公明党とは違った意味で親中派なのであろう」など同調するコメントが多数ある。 検証過程 引用元動画は9月27日の移民政策反対デモと見られる 拡散した投稿は、別ア

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)