石丸伸二氏の選挙演説に集まった群衆の画像?【ファクトチェック】

石丸伸二氏の選挙演説に集まった群衆の画像?【ファクトチェック】

2024年の東京都知事選で、石丸伸二候補の街頭演説に多数の人が集まる画像が拡散しました。しかし、その中には合成画像で事実ではないものも含まれていました。

検証対象

2024年7月5日、石丸氏の街頭演説の様子が合成画像だとする投稿拡散した。投稿には「また!合成!」という文言と共に、演説をする石丸氏の後ろ姿と大勢の観衆が渋谷に集まる画像が添付されている。

2024年7月11日時点で約4200件以上リポストされ、表示回数は272万件を超える。

石丸氏の演説画像はSNSで複数投稿されている。陣営の公式アカウントからのものもあれば、そうではない一般のアカウントからの発信もあり、上記の画像など一部については「聴衆が合成では」と指摘する声があがっていた。

ネット上に投稿された全ての画像について検証することは不可能なため、日本ファクトチェックセンター(JFC)はまず、上記の画像について検証した。

検証過程

画像検索すると「Queen」がヒット

検証対象の画像はどこで撮影され、誰が投稿したのか。Google画像検索を使うと、イギリスのロックバンド「Queen」のコンサート画像がヒットした。画像を比較すると、画面左側の観客の姿が一致している。

投稿された画像は画質が荒くてわかりにくいが、元画像とともに拡大して見てみると、映っているのは外国人でコンサートで盛り上がっている様子であることがわかる。

石丸氏の部分は上野駅での街頭演説

石丸氏の姿はどこで撮影されたものなのか。演説画像などを発信するXアカウント「【公式】石丸伸二 後援会」の過去画像を確認すると、2024年6月22日に投稿された上野駅での街頭演説の様子が一致した。

画像の投稿者「もちろんフェイク」

Google画像検索を使い拡散した画像と完全一致する画像を検索すると、7月3日に投稿したアカウントがみつかる。

画像を投稿したアカウントは自ら「もちろんフェイク」と明言していた。

しかし、7月5日以降、同じ画像が別のアカウントに転載されたり、リポストされたりしていく中で実際の演説画像と誤解したり、また、石丸陣営が合成画像で多数の聴衆を捏造していると批判したりする人も出てきた。

判定

拡散した画像は2024年6月の演説の様子と、海外のロックバンドの観客の画像を合成している。よって、この画像に関しては実際の演説の様子ではなく、誤り。

あとがき

この画像は合成ですが、多数の聴衆が集まっている石丸氏の演説画像の全てが合成というわけではありません。また、この画像に関して石丸陣営による捏造という批判も誤りです。

画像の検証は元画像を探したり、合成の痕跡や生成AIによる作成の特徴を探すデジタル・フォレンジックと呼ばれる手法を使ったりする必要があります。

推測や思い込みだけで「捏造に違いない」と発信することは、その発信自体が誤りである危険性を常にはらみます。

また、悪意なく冗談で合成写真などを作ったとしても、今回のように拡散していく中で「本物」と誤解されたり、陣営側への批判に繋がったりすることもあります。選挙などの重大な局面では特に注意しましょう。

JFCでは、画像の検証手法を学ぶ講座を公開しています。

JFCファクトチェック講座5:画像の検証 GoogleレンズとTinEye
偽情報/誤情報で多いのが写真や動画を使ったものです。ツールの活用により、改変や捏造が簡単になったことや、もともとの意味とは異なる翻訳をつけてミスリードするものもあります。まずは画像を検証するために知っておくべき手法と便利なツールの利用法を解説します。 画像で騙す2つの手法 対策はオリジナル探し 「画像があるから事実だ」などということはありません。画像は簡単に改変ができるし、違った文脈で使えばミスリードするからです。 改変やミスリードへの対策として有効なのが、オリジナル画像を発見して比較することです。改変部分が見つかったり、全く違う文脈で利用されていることがわかったりします。 ここでも重要なのは検索の技術です。画像に映り込んでいる人物や背景から検索キーワードを想像し、期間を狭めて検索していくことでオリジナルの画像にたどり着くことができます。 ここでは、それよりも簡単にオリジナル画像を見つけられるツールを、日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例にして紹介します。 Googleレンズを利用する これはJFCが2023年4月に配信した「反原発デモ

また、YouTubeで動画でファクトチェック学ぶ連続講座も配信中です。画像の検証については、7月中旬に公開する予定です。参考にしてください。

検証:木山竣策
編集:宮本聖二、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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