米上院選、人口 700 人未満の町で民主候補が1100 票を獲得した?【ファクトチェック】

米上院選、人口 700 人未満の町で民主候補が1100 票を獲得した?【ファクトチェック】

2022年11月に実施されたアメリカ上院議員選挙で、「人口700人未満の町で民主党候補が1100票を獲得した」という不正を疑わせるようなツイートが拡散しました。しかし、これはデータの記載ミスが原因で、実際には人口を超えるような票の獲得はありませんでした。

検証対象

2022年11月14日、元北海道議会議員の小野寺まさる氏がTwitterで「[アップデート2]人口 700 人未満のニューハンプシャーの町でどのようにしてマギー・ハッサンが1100 票を獲得したのか?」という記事を引用し、「これが本当ならば、アメリカでは選挙自体が茶番である」と投稿した。

画像

引用元の本文を確認すると、正確には1100票ではなく1106票獲得したとあった。

小野寺氏のツイートは1000RTをこえ、「得票率100%超え、有り得んわ」「やりすぎてバレるいつものヤツ」といったリプライがある。

「人口 700 人未満のニューハンプシャーの町でマギー・ハッサンが1100 票を獲得」したのか検証する。

検証過程

ニューハンプシャー州は2022年の上院の選挙結果を公開している。これによると、問題となった同州コーアス郡コロンビア(Columbia, Coos gov)におけるハッサン氏の得票数は、検証対象で指摘があった1106票ではなく、106票となっている。

選挙直後の公開データではハッサン氏の得票数が1106票となり、人口以上の得票があるという指摘が拡散した。これに対してアメリカのファクトチェック機関PolitiFactが11月14日に公開した記事で、「州政府が1106票というデータは単純なタイプミスによる間違いだったことを認め、修正した」と報道。また、コロンビアでの票数が変わっても、ハッサン氏が再選したという選挙の結果に影響はないとも指摘している。

小野寺氏がツイートで引用した地元ネットメディアGraniteGrokの記事は2022年11月14日以降に更新されて[アップデート3]となり、コロンビアの投票総数に関して、タイプミスによる間違いの修正に関するプレスリリースを掲載していた。

判定

マギー・ハッサン氏がコロンビアで1106票を獲得したというのは、選挙運営側のタイプミスによる間違いで、正しくは106票。よって、「人口 700 人未満のニューハンプシャーの町でマギー・ハッサンが1100 票を獲得」は誤り。

あとがき

公的機関の発表でも、間違えていることはあります。その後に修正されていることに気づかずに誤った情報が拡散し続けることもあるので、最新の情報を確認する必要があります。

検証:杉江隼
編集:古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)