ウクライナのブチャがたった2週間で元に戻った?【ファクトチェック】

ウクライナのブチャがたった2週間で元に戻った?【ファクトチェック】

「4月にロシア軍によって大打撃を受けたと言われるウクライナのブチャ。たった二週間で元に戻る」という文言とともに、戦争で攻撃を受けた街の写真の背景に、攻撃の跡がない綺麗な街の様子を映し出す動画が拡散しています。しかし実際には、背景にあるのは半年かけて綺麗になった街の様子で、「2週間」は不正確です。

検証対象

2022年11月15日、Twitterで「4月にロシア軍によって大打撃を受けたと言われるウクライナのブチャ。たった二週間で元に戻る。マジック!」などと記した動画付きのツイートが拡散した。

動画は、戦争で攻撃を受けたとみられる建物や街の写真の背景に、攻撃の跡がない同じ場所の様子を映し出している。

画像

リプライやリツイートには、「茶番劇だもん」「戦争自体が嘘だと思ってます」というコメントがある一方で、この動画が何を表すのか、真偽の判断に迷うようなコメントも見られた。

検証過程

動画の8秒辺りで出てくる建物のスクリーンショットを撮り、Googleの画像検索をかけたところ、ポーランドのファクトチェック団体DEMAGOGの記事が見つかった。

画像
画像

記事は、ポーランド語で「グリーンスクリーン(合成した映像)で戦争?」というコメントが付いたフェイスブックの投稿動画を検証しており、今回のJFCの検証対象と同じ内容だとみられる。記事では「投稿者がブチャでの犯罪は自作自演であるという主旨で投稿しているようだが、これはオリジナルの映像を、別の文脈で使ったものだ」と指摘している。

オリジナル映像を投稿したのは、スポーツジャーナリストを名乗るJuliaPalkoのInstagramアカウント。投稿日は2022年10月16日で、ブチャがあるキーウ州への攻撃が始まった2022年3月から約半年が経過している。投稿には「ウクライナ人は、占領者が壊したものを再建し続けている」というコメントが付けられている。

2022年4月16日のBBCの記事によると、ブチャの復旧作業が始まったのは占領から解放された4月。記事では、住民が家を再建し始めた様子が書かれている。2022年5月7日の読売新聞にも、ブチャが解放された4月から1か月が経ち、住民が復旧に向けて動き始めている様子が書かれている。

動画はInstagramのウクライナ公式アカウント「ukraine.ua」やTwitterのウクライナ国防省公式アカウント「Defence of Ukraine」でも共有されている。投稿されたのは、それぞれ2022年10月16日と17日だ。

「ロシアがキーウ地域から追い出されてから半年が経過しました。ウクライナ人は混乱を片付けています」「4月上旬にロシアの侵略から完全に解放されたキーウ地方は、被害を受けた建物や施設の修復が急速に進んでいる例の一つです」とコメントしている。

判定

以上のことから、動画は4月から半年間かけて再建されたキーウの街の様子で、「2週間で元に戻る」は不正確。

あとがき

ウクライナで起きている戦争被害が自作自演であるとする言説は多くあります。しかし、第三者の立場にある国連人権理事会の委任を受けた独立調査委員会も、実際に現地を訪れ、ウクライナで戦争犯罪があったことを発表しています。

戦争に際して、動画に実際とは異なる文章を付けて誤った印象を与える誤情報、偽情報が多く存在します。注意が必要なケースの一つです。

検証:金子祥子
編集:藤森かもめ、古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)