NATO軍が日本に駐屯を検討している?協議しているのは連絡事務所【ファクトチェック】

NATO軍が日本に駐屯を検討している?協議しているのは連絡事務所【ファクトチェック】

「NATO軍が日本に駐屯を検討している」という情報が拡散していますが、誤りです。北大西洋条約機構(NATO)が日本政府と協議しているのは東京への連絡事務所の開設で軍隊の駐屯ではありません。

検証対象


「NATO軍、日本に駐屯を検討」という見出しがつけられたまとめサイトの記事が拡散された。(例1例2)。この記事は主にツイッターで拡散され、リツイート・引用リツイートが2400回、表示回数が127万回を超えたものもある。

画像
画像

リプライ欄には、「露の攻撃目標が増えるだけ」「ま、来たら日本はどこにも攻撃されなくなるから、いいんでない?」というコメントが寄せられている一方で、日本に置かれるのはNATOの連絡事務所であることを指摘するコメントもあった。

検証過程

外務省欧州局政策課が2023年4月に作成したNATO概要によると、NATOとは北アメリカやヨーロッパ、トルコなどの31カ国が加盟する集団防衛組織。日本は加盟しておらず、「パートナー国」という位置づけだ。北大西洋条約第5条には「欧州又は北米における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国 に対する攻撃とみなす。締約国は、武力攻撃が行われたときは,国連憲章の認める個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び 維持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び共同して直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を援助する」と規定されている。

NATOウェブサイトにある「What is NATO?」の「⑤Working Structures」で「military committee」をクリックすると「NATOには常駐軍はほとんどない。北大西洋理事会が作戦に同意して、加盟国は自発的に軍事力を提供する。作戦が完了すると、これらの軍隊は自国に戻っていく」とある。なお、NATO加盟国のアメリカの軍隊は日本に駐留している。

例1、例2のツイートに添付されているリンクを開くと、それぞれツイッター速報News  Everydayといういわゆるまとめサイトのページに飛ぶ。ともに「NATO軍、日本に駐留を検討」という見出しをつけて、共同通信のニュース記事をコピペしているという同じ構成だ。

共同記事は2023年5月10日付で配信され、NATOが日本に連絡事務所の開設を検討していると報じている。「NATO軍が日本に駐屯を検討している」とは書いていない。また、NHKなどその他の報道機関も「NATO軍が日本に駐屯を検討している」とは報じていない。

判定

まとめサイトに添付されているニュース記事を確認すると、「NATOが日本に事務所を開設しようとしている」と書いてある。その他の報道機関の記事を見ても、「NATO軍が日本に駐屯を検討」という情報を確認することはできない。「NATO軍が日本に駐屯を検討」という情報は誤り。

あとがき

日本ファクトチェックセンター(JFC)はこれまでにも、まとめサイトの誤りを指摘しています。ニュース記事の内容を捻じ曲げ、「煽り見出し」にすることで拡散を狙うまとめサイトは、もともとのニュースとはかけ離れた内容を伝えることが多く、JFC以外にもこれまでに多くの人たちから誤りを指摘されています。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)