エッフェル塔、ルーブル美術館が炎上する動画?【ファクトチェック】

エッフェル塔、ルーブル美術館が炎上する動画?【ファクトチェック】

フランス、パリにあるエッフェル塔やルーブル美術館が炎上する動画が拡散しました。本物のように見えますが、誤りです。動画はAIなどで編集されたものです。

検証対象

2024年1月21日、エッフェル塔が炎上する動画がTikTokで拡散した。エッフェル塔の第二展望台から火が出ている様子が9秒にわたり映し出されている。

投稿は1.3万件以上シェアされ、いいねの数は19万件を超える。

2024年1月15日、X(旧Twitter)では「パリのルーブル美術館で火災」という動画付き言説が拡散した。動画には、ルーブル美術館のルーブルピラミッドが煙をあげて炎上する様子が映っている。

動画は日本でも拡散し、「あまりにもショック」といったコメントの一方で「悪質」という指摘もある。

検証過程

エッフェル塔の動画は編集されていると明記

エッフェル塔の現在の様子はイタリアのVisioRay社が運営するSkylineのインターネット上のライブカメラを通して確認することができる。2024年1月30日現在、日本ファクトチェックセンター(JFC)が確認したところ、エッフェル塔に燃えた跡などはない。

拡散した動画をGoogle画像検索すると、5か月前に投稿された同じ動画が見つかる。動画のタイトルには「#vfx」「#cgi」のハッシュタグが付き、コメント欄では投稿主が「これはVFXです」と説明している。VFXとは「視覚効果」の意味で撮影した映像に後から編集を加えたものだ。

欧州のニュース専門局ユーロニュースはファクトチェック記事を配信し、編集された映像が実際の火災として受け止められており、「ミスリーディング」と判定している。

ルーブル美術館の動画はAI生成

ルーブル美術館の公式HPを確認すると、現在通常通り営業している。

Xで拡散した動画のリプライ欄を確認すると、投稿主が「動画は画像生成AIで生成され、画像からビデオを生成する別のAIを通してビデオ変換されました」と投稿している。

改めて動画を確認すると、下部に映っている車両のフロントライトが次第に離れ、車輪部分は大きく広がるなどAI特有の不自然な形跡を確認することができる。

判定

エッフェル塔やルーブル美術館が炎上する動画が各SNSで拡散したが、いずれも誤り。動画はAIなどで編集され、いずれも炎上していない。

あとがき

エッフェル塔やルーブル美術館などの世界的な名所が火事になれば、世界中のメディアが大きく報道します。火災の動画がSNSで流れてきても、報道を確認すれば騙されることはありません。

今回の映像が衝撃的なのは、非常にリアルだということです。以前のAI生成の動画であれば、不自然な描写が多くて見分けやすかったのですが、技術の進展でスマートフォンに流れてくる動画の真偽を目で確認することは難しくなっています。出典元の確認や他の情報源との比較は必須となっています。詳しくは検証の4ステップをご参照ください。

検証:木山竣策
編集:古田大輔

判定基準などは、JFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、XFacebookYouTubeInstagramでのフォロー・拡散をよろしくお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録は、上のボタンかこちらからどうぞ。

また、こちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)