(動画)パレスチナの病院で被害を訴える医師は女優?【ファクトチェック】

(動画)パレスチナの病院で被害を訴える医師は女優?【ファクトチェック】

イスラエル・パレスチナでの武力衝突をめぐり、「病院で被害を訴えている医師の動画は女優」という言説が拡散しましたが誤りです。疑いをかけられた女優と医師は別人だと判明しています。

検証対象

2023年11月14日に、X(旧Twitter)で次のような画像付き投稿が拡散した。

「人々に病院に行くことや🇵🇸から逃げることを思いとどまらせた『アル・シファ病院』のパレスチナ人医師のビデオが話題になったことを思い出してください。彼女はイスラエルの女優であることが判明しました、彼女の名前はHannah Abutbulです」

画像

この投稿は11月22日現在、128万回以上の表示と、3.1万件以上のいいねを獲得している。

拡散した「パレスチナ人医師のビデオ」とは、メガネを掛け、マスクを顎まで下げた医療関係者風の女性が「病院を襲撃したハマスが燃料と薬品を盗んでいる」などと語り、病院からの退避を促している動画だ。パレスチナ・ガザ地区にあるアル・シファ病院からの投稿とされ、2023年11月以降、複数の投稿が拡散した(投稿例)。

画像

検証対象の言説は、この動画に出てくる女性が実はパレスチナの医師ではなく、イスラエルの女優Hannah Abutbulさんであると指摘している。つまり、パレスチナの医師であるとイスラエルの女優が演技する情報操作ではないかという指摘だ。

日本ファクトチェックセンターはこの動画に出てくる「パレスチナの医師」とイスラエルの女優Hannah Abutbulが同一人物かを検証した。

検証過程

まず、同一人物であると指摘を受けたHannah Abutbulさんは、Instagramで「映像は私ではない」と否定している。

画像

彼女が所属するイスラエルのメディアAishもInstagramで言説を否定する声明を次のように発表している。

Aishは、従業員の一人であるHannah Abutbulが「ガザの看護師に扮した俳優として出演している」との誤った非難をソーシャルメディア上で受け、衝撃を受け、悲しんでいます。
検証の結果、Hannahはこのビデオに登場する人物ではなく、彼女もaishもその関連団体も、このビデオの制作や公開のいかなる面とも一切関係がないと、私たちは断言できます。

BBCのファクトチェック部門BBC VerifyのShayan Sardarizadeh記者は事実を確認するためにHannah Abutbulさん自身に取材をし、次のようにXに投稿した。「イスラエルのインフルエンサーであるHannah Abutbulが、ハマスに反対する発言をするアル・シファ病院の看護師だと誤解させる映像がネット上で晒されている。先ほどHannahと話した。彼女はビデオの女性ではない」

画像

米ABC NewsのEmmanuelle Saliba記者も本人に取材してXに投稿した。「2つ目の確認。私も彼女と昨日、電話で話した。声が一致しない。彼女は関与を否定している。Hannahは、ビデオに映っている女性を見つけて、汚名をそそぎたいと言っている」

画像

ギリシャのファクトチェック機関ELLINIKA HOAXESも同様に検証して、別人だと結論づけている。

判定

本人や所属元の公式アカウントが否定し、複数の記者が別人だと報告している。よって誤りと判定した。

検証:本橋瑞紀、木山竣策
編集:藤森かもめ、宮本聖二、古田大輔

イスラエル・パレスチナに関するファクトチェック

イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり大量の誤情報/偽情報 検証方法を解説【ファクトチェックまとめ】
イスラエル・パレスチナの武力衝突に関連し、大量の誤情報/偽情報が世界的に拡散しています。互いの憎悪を煽るような投稿もあり、混乱に拍車をかけています。日本ファクトチェックセンター(JFC)がこれまでに検証した事例とともに、対応策をまとめました。 ※新たな検証があれば記事を更新します(最終更新2023年11月17日)。 対立煽る誤情報/偽情報 間違った情報に関して、一般的には「フェイクニュース」や「デマ」という言葉が使われることが多いですが、その内実は複雑です。 真偽が不確かな情報で社会が混乱する「情報汚染」を情報の意図と正誤で3つに分類すると、図のようになります。「誤情報:意図的ではないが誤っている」「悪意ある情報:意図的だが誤っていない」「偽情報:意図的に誤っている」の3つです。 ロシアとウクライナの戦争がそうであるように、イスラエル・パレスチナをめぐっても、大量の誤情報/偽情報/悪意ある情報が拡散しています。情報汚染は対立を煽り、混乱を悪化させます。発信元の確認や他の情報源との比較をするようにしましょう。 誤情報/偽情報の検証方法 大量に流れる情

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら。

もっと見る

経済学者・成田悠輔氏「逮捕」は偽ニュース 日経を装う偽サイトが拡散【詐欺注意】

経済学者・成田悠輔氏「逮捕」は偽ニュース 日経を装う偽サイトが拡散【詐欺注意】

2026年8月下旬から、経済学者の成田悠輔氏が手錠をかけられて連行されたとする偽の記事が確認されています。成田氏は、過去に同様の広告について「フェイクニュース」とXで否定しています。 Xのプロモーション機能で拡散した「日経記事」風のページ Xのプロモーション機能を使った投稿で、成田氏の顔写真と共に「詳しい情報をお探しの方はこちらからどうぞ」などといった投稿が多数投稿されている(例1、例2)。投稿したアカウントの一部は凍結されている。 リンク先に飛ぶと、2026年9月16日付けの日経新聞の記事のような体裁をしている。ロゴやナビゲーションメニューなどは、実際の日経電子版とほぼ同じデザインだ。 しかしURLは「glasscheese.click」で、日経新聞(https://www.nikkei.com/)とは関係のないドメインだ。日経サイトには同じ記事が存在しない。 通常の記事にはない表現、突然の投資文言 見出しは「放送から37分後、手錠をかけられて連行された。録画は深夜0時までに削除された」。本文は「22時15分、実業家の成田悠輔がテレビ朝日のビル前で

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
沖縄県知事選/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

沖縄県知事選/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

沖縄県知事選の投開票から1週間。偽・誤情報だけでなく、誹謗中傷や一方的な内容のAIディープフェイク、動画などが話題となりましたが、勝敗を左右したというデータはいまのところありません。欧州では子供たちのSNS利用を制限する動きが広がっています。 今週のファクトチェックまとめです。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月27日(日)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 9月27日(日)開催分日本ファクトチ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
都がモスク建設に補助金? インバウンド対応の祈祷室と混同か【ファクトチェック】

都がモスク建設に補助金? インバウンド対応の祈祷室と混同か【ファクトチェック】

東京都がイスラム教のモスク建設に補助金を出しているかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。都は外国人旅行者のニーズに対応するため、「祈祷室」の整備に補助金を出す制度はつくっていますが、ウェブサイトで「モスク建設を支援するための都の補助金はありません」と明確に否定しています。 検証対象 拡散した言説 2026年9月8日、「東京都が超ヤバい!イスラム教のモスク建設に!補助金!」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 9月18日現在、投稿は1.5万回以上リポストされ、表示は47万件を超える。 投稿には「どんどん外国人が集まり、東京都の日本人が重税に泣かされる運命になるね」「ほんとに都民は怒った方がいいよ」など真に受ける反応が多いため、検証する。 検証過程 都「モスク建設支援の補助金はない」 拡散した投稿は、都がモスク建設の補助金を出しているかのように主張している。投稿は小池百合子都知事の画像を添付しているが、補助金の根拠は示していない。 「東京都 モスク 建設 補助」でGoogle検索すると、都産業労働局の「インバウンド対応力強化支援事業

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
アジア開発銀行・神田総裁の「なりすまし」が多発 警察庁「(神田総裁が)個別にSNSで投資を指南することはありません」【詐欺注意】

アジア開発銀行・神田総裁の「なりすまし」が多発 警察庁「(神田総裁が)個別にSNSで投資を指南することはありません」【詐欺注意】

アジア開発銀行(ADB)総裁・神田眞人氏になりすましたアカウントによる投資詐欺の被害が出ています。警察庁が「(神田総裁が)個別にSNSで投資を指南することはありません。公式アカウント以外は全て偽物です」と注意を呼びかけています。 警察庁「SNS型投資詐欺に注意」 2026年9月14日、警察庁は公式Xアカウントで、神田氏のなりすましによるSNS型投資詐欺への注意を呼びかけた。 添付画像には、以下のように手口の詳細が紹介されている。 ①バナー等広告などからLINEの投資グループに誘導される ②神田氏やそのアシスタントになりすましたLINEアカウントから投資を勧められ、指定した口座に振込を要求される ③偽の投資アプリをダウンロードさせられ、アプリ上では利益が出ているように表示 ④出金時に手数料を要求され、その後連絡が取れなくなり、被害が発覚 ADBも注意喚起 ADB駐日代表事務所は、ウェブサイトに「ADBや神田総裁の名前を使って投資等を勧誘するサイトにご注意ください」とバナーを掲示している。 ADBはウェブサイトの「ADBの名を騙る詐欺にご注意(B

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月27日(日)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 9月27日(日)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です。 講師養成講座(オンラインで90分)を受講いただいた後、修了課題を提出された方には、教室や職場などで利用可能な教材の提... powered by Peatix : More than a ticket.Peatix 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)