日本がハマスやタリバンをテロ組織のリストからはずした?【ファクトチェック】

日本がハマスやタリバンをテロ組織のリストからはずした?【ファクトチェック】

「日本がハマスやタリバンをテロ組織のリストからはずした」という言説が拡散しましたが、不正確です。掲載基準の変更で公安調査庁のリストからハマスなどが外れたのは事実ですが、基準の再検討がされているほか、様々な資料に今も掲載されています。

検証対象

2023年11月29日、「BREAKING: Japan has removed Hamas, Taliban from the list of terrorist organizations.(速報:日本がテロ組織のリストからハマスとタリバンを削除した)」という英文のポストがX(Twitter)で拡散した。2023年12月4日現在、このポストは約316万回の表示回数と約1.5万件以上のリポストを獲得している。

画像

検証過程

公安調査庁サイトからの組織名の削除

現代東アラブ地域の政治に詳しい青山弘之・東京外大教授の2023年11月29日の記事によると、青山教授が確認した時点で、公安調査庁サイトの「世界のテロ・武装組織等」の項目に54のテロ・武装組織が掲載されていた。ただし、以前はリストにあった183の組織名などが削除されており、その中にタリバンやハマスも含まれていたという。

現在は青山教授が指摘した54団体のリストも非掲載になっているが、アーカイブサービスWayback Machineで2022年版のリストを確認すると、確かに「タリバン」や「ハマス」(HAMAS)の組織名がある。

掲載基準の変更 「誤解を招いたので削除」

公安調査庁のウェブサイトによると、公安調査庁は国際テロリズムの実態把握のために1993年から「国際テロリズム要覧」を作成しており、2023年9月に2023年版を発行した。

公開ページの冒頭には現在、こうある。「公安調査庁ウェブサイトに掲載していた『主な国際テロ組織等、世界の国際テロ組織等の概要及び最近の動向』と題するウェブページについては、政府の立場について誤解を一部招いたことから、当該ページは削除しました」

日本ファクトチェックセンター(JFC)は公安調査庁に問い合わせた。

渉外広報調整室によると、国際テロリズム要覧から抜粋し、当該ページに掲載していたテロ・武装組織などのリストは「11月24日に削除した」という。現在、テロ組織のリストなどについては2022年版を参照するようにウェブサイトを通じて呼びかけているという

リストに掲載する組織の基準は何か。前年の「国際テロリズム要覧2022」は、国連安保理制裁委員会が指定した組織や、米国が外国テロ組織(FTO)に指定したもの、EU理事会で指定を決めたものなどを掲載。最新の「国際テロリズム要覧2023」は制裁委の指定をもとに掲載したという。

ハマスとタリバンは要覧2023には掲載されていないが、それぞれ「2022年の国際テロ情勢」、「地域別テロ情勢(イスラエル及びパレスチナ)」と「地域別テロ情勢(アフガニスタン)」には記述があるという。

小泉法務大臣「正しい道に戻る方策を」

2023年12月7日の参議院法務委員会(国会中継動画)で、小泉龍司法務大臣は、ハマスがリストから消えた理由を問われ、答弁している。

小泉法務大臣は2022年版について、国連安保理制裁委が指定した63団体と、米国やEU理事会が指定している169団体をもとに作成していたと述べた上で、テロ組織の認定基準への問い合わせが相次いだことを指摘し、こう回答している。

「基準を明確化しようと、なるべく公的なものに依拠して、(掲示数が)少なくなってもきちんとした客観的な基準に基づいて選別をしようとした。安保理テロ制裁委員会が指定した63団体のみを掲示する結論に至った」

公安調査庁と同様の説明だ。また、今後の対応についてはこう述べている。

「ハマスは、日本国政府が(資産)凍結の対象にしている組織だから、それが外れるというのは明らかにおかしいので、いま大至急で整理しながら、正しい道に戻る方策をとろうとしている」

警察庁が国際テロリスト等財産凍結法に基づいて作成する資産凍結対象リストは2023年12月現在も、ハマスやタリバンを「公告国際テロリスト」として掲載している。

判定

ハマスやタリバンが「国際テロリズム要覧2023」のリストに掲載されていないことは事実だ。だが掲載基準の変更によるもので、テロ組織として日本の資産凍結対象であることに変わりはなく、他の資料には今もテロ組織として明示されている。また、要覧の再検討もなされている。したがって、「日本がハマスやタリバンをテロ組織のリストからはずした」はミスリーディングであり、不正確と判定した。

検証:高橋篤史、鈴木刀磨
編集:古田大輔、藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)