オジマンディアス(ファラオ)に発行されたパスポートの画像?【ファクトチェック】

オジマンディアス(ファラオ)に発行されたパスポートの画像?【ファクトチェック】

「オジマンディアス(ファラオ)に発行されたパスポート」だとする画像つきの言説が拡散しましたが誤りです。過去に何度も拡散した画像で、本物のパスポートではありません。

検証対象

2024年2月28日、「オジマンディアスの遺体は今エジプトにあるんだけど、カビの除去でフランスに移送されたことがあって、そのときに正式なパスポートが発行された」として、ミイラのような顔写真やエジプトの国章を印刷したような画像が拡散した。

オジマンディアスとは古代エジプトの王(ファラオ)であるラムセス2世の別名だ。

2024年3月7日現在、このポストは6300件以上リポストされ、表示回数は160万件を超える。2024年2月29日に、ポストの投稿主がリプライに「この画像はどうやら実物ではなく、それの情報によって再現されたものだ」と釈明する追記をしている。

検証過程

この画像をGoogle画像検索すると、2018年ごろから繰り返し拡散している画像であることがわかる。

例えば、2018年10月1日に投稿されたアフリカに関するニュースを発信するFace2Face Africaの英文記事では、検証対象と同じで、より鮮明な画像が「Heritage Daily によるラムセス 2 世パスポートのモックアップ」として紹介されている。よく見ると、画像の左下(赤丸部分)にHERITAGEDAILY.COMという文字を確認できる。

Heritage Dailyはサイトの自己紹介で「歴史家、考古学者、ライター、研究者からなるチーム」で「世界遺産に関するコンテンツを提供している」と記している。考古学や人類学に関する記事が並ぶ中に「ラムセス2世のパスポート」という記事があり、検証対象の画像を掲載している。

記事は、1976年にラムセス2世の遺体が真菌の増殖を防ぐ処理のためにパリに運ばれ、その際に「エジプトのパスポートが発行された」と記している。

ただし、パスポート画像についてはHeritage Dailyが作成したもので「画像はイメージ。実際のパスポートは公開されていない」という説明がついている。つまり、この画像自体は本物のパスポートではない。

パスポートは発行されたのか

この画像は本物ではないが、実際にファラオのミイラにパスポートが発行されたのか。Heritage Dailyの記事には「フランスの法律では、フランスへの入国と移動には有効なパスポートが必要」「現地の法律を遵守するために、エジプト政府はファラオにパスポートを発行した」と書いている。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は当時やその後の記録でパスポートに触れたものを探した。

The New York Timesの1976年9月のアーカイブ記事は、ミイラがエジプトからパリへ運ばれたことを伝えているが、パスポートについての記述はない。その他にも、「ミイラ移送でパスポートが発行された」という主張の根拠は見つけることはできなかった。

一方で、少なくとも2004年や2010年の段階でパスポートが発行されたという言説が拡散していた(例1例2)。

パスポートに関するファクトチェック記事も複数存在した。それぞれ、「パスポート発行の根拠はない」「パスポートの画像は誤り」などと判定している(例1例2例3)。

AFPの2020年公開のファクトチェック記事では、Heritage Dailyの執筆者にも取材している。 Marcus Milligan氏はAFPの取材に「イラストは2018年に作成した」と答えている。

さらにパスポート発行の可能性について、ルーブル美術館は「根拠がない」と回答。フランスのトゥールーズ第一大学キャピトル校の公法教授マチュー・トゥゼイユ・ディヴィナ氏も「フランスの法律では、生きていない人間に対するパスポートの義務はない」と語ったと記している。

判定

パスポート画像は、アーティスト作成のイメージ画像であり、「オジマンディアスに発行されたパスポートの画像」という言説は誤り。パスポートが発行されたという言説も根拠がなく、誤りの可能性が高い。

あとがき

今回の検証では「パスポートの画像」という言説は誤りと判定できましたが、パスポートが発行されたかどうかははっきりしませんでした。このように検証対象をどう定義するかによって、判定の仕方が変わってくる事例がファクトチェックには多くあります。

「⚪︎⚪︎が存在する」ということを証明するには、一つ事例を見つけるだけで良いですが、「⚪︎⚪︎が存在しない」を証明するためには、あらゆる可能性を否定する必要があり、難易度が高くなります。そのため、今回はAFPの記事などを詳しく紹介し、根拠がないだけでなく、発行されていない可能性が高いことを示すことにしました。

検証:鈴木刀磨、住友千花
編集:藤森かもめ、宮本聖二、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、XFacebookYouTubeInstagramでのフォロー・拡散をよろしくお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンからどうぞ。

また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

民主党政権下では株価が7000円台だった?日経平均株価が8000円を切ったのは自民党政権【ファクトチェック】

民主党政権下では株価が7000円台だった?日経平均株価が8000円を切ったのは自民党政権【ファクトチェック】

「民主党政権下で株価が7000円台だった」との主張が拡散しましたが、誤りです。日経平均株価の終値が、バブル崩壊以降で最安値となる7054円98銭をつけたのは2009年3月10日で、この時は自民党政権です。民主党が政権を握っていた2009年9月16日〜2012年12月26日で株価が8000円を切ったことはありません。 検証対象 2024年10月15日、「民主党政権は失敗のデカさがレベチなんだよ。株価7000円台とか想像できるか?」などと主張する投稿がX(旧Twitter)で拡散した。 投稿は10月22日時点で1500件以上のリポストと80万件以上のインプレッションを獲得している。投稿には「民主党政権を知る世代の人たちはさすがに立憲民主には入れないよね?」「民主党政権時は就活100社200社って人もザラだったからねぇ」などのコメントが付く一方で、「株価7000円台になったのは2009年の3月。民主党政権になったのは9月から」といった指摘もある。 2024年10月21日には「リトマス」がこの言説を検証し、「誤り」と判定している。 検証過程 日経平均株価とは

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
総選挙/偽情報対策にメーカーや研究機関が連携/イベント案内も【今週のファクトチェック】

総選挙/偽情報対策にメーカーや研究機関が連携/イベント案内も【今週のファクトチェック】

総選挙です。政党の公約や候補者に関する偽・誤情報が次々と拡散しています。日本ファクトチェックセンター(JFC)はそれらを検証していますが、党首討論の検証記事は出しませんでした。その解説も紹介します。JFC以外の関連記事だけでなく、関連するイベントの案内も掲載するようにしました。JFCが共催するユースファクトチェック選手権や選挙関連のイベントを紹介しています。掲載のご希望があれば、JFCまでご連絡ください。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCイベント ファクトチェックスキルを競うユース国際大会を開催 申し込みはこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は11月、中学生〜大学生を対象に情報を検証するスキルを競う国際大会「Youth Verification Challenge 2024(YVC、日本語名はユースファクトチェック選手権)」をオンライン開催します。日本国内の大会

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本の党首討論がライブ検証されないのはなぜ 選挙に関する日米台のファクトチェック比較【解説】

日本の党首討論がライブ検証されないのはなぜ 選挙に関する日米台のファクトチェック比較【解説】

総選挙が始まりました。10月15日の公示から27日の投開票日まで、わずか12日間の短期決戦です。各メディアなどで党首討論が相次いで実施されましたが、アメリカなどで見られる発言のライブ検証はありませんでした。日本と他国のファクトチェックや偽・誤情報の傾向の違いを解説します。 米大統領選のファクトチェック 民主党のカマラ・ハリス副大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領の2候補が争うアメリカ大統領選。候補者が直接対決する恒例のテレビ討論会は9月10日夜(現地時間)に実施され、大手メディアやファクトチェック機関が2人の発言を細かく検証した。いくつかの事例を並べてみる。 Fact-checking Kamala Harris and Donald Trump's 1st presidential debate (ABC) Fact-checking the presidential debate between Trump and Harris (NBC) Fact checking debate claims from Trump and Harris' 202

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
山本太郎氏「在日コリアンの方々は何年も納税されてきた!参政権ぐらい与えてもいいだろう!」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

山本太郎氏「在日コリアンの方々は何年も納税されてきた!参政権ぐらい与えてもいいだろう!」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

れいわ新選組・山本太郎代表が「在日コリアンの方々は何年も納税されてきた!参政権ぐらい与えてもいいだろう!」と発言したとする言説が拡散しましたが不正確です。山本氏の発言を改変しています。 検証対象 2024年10月17日、「【悲報】山本太郎『在日コリアンの方々は何年も納税されてきた!参政権ぐらい与えてもいいだろう!』」という言説が拡散した。 2024年10月17日現在、投稿は680件以上リポストされ、表示回数は5万件を超える。投稿について「納税と参政権は全く関係ない」「絶対に反対」というコメントがついている。 検証過程 投稿には掲示板サイト「5ちゃんねる」のスレッドを紹介するまとめサイト「おーるじゃんる」のリンクが添付されている。サイトには山本氏の発言について「ソースは今やってるLIVE配信」と書かれている。 書き込みの日付と、添付されている画像かられいわ新選組のYouTubeチャンネルを確認すると「【LIVE】山本太郎代表 街宣! #衆院選2024 #比例はれいわ 2024年10月16日 千葉県・津田沼駅」が一致する。 この動画では「外国人参政権は

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)