「テキサス州が戦争状態に突入」「アメリカで内戦」を伝える動画?【ファクトチェック】

「テキサス州が戦争状態に突入」「アメリカで内戦」を伝える動画?【ファクトチェック】

「テキサス州が戦争状態に突入」「アメリカで内戦」などの言説が銃を構えた兵士や戦車の動画とともに拡散しましたが、誤りです。州が政府を批判して独自の移民対策をとる動きで、戦争ではありません。

検証対象

「アメリカで内戦」などという言説がSNSで拡散している。例えば、2024年1月26日に投稿されたX(旧Twitter)のポストは「テキサス州が正式に戦争状態に突入」などという文言とともに、テキサス州のグレッグ・アボット知事の署名が入った文書の画像を添付している。

2024年2月1日現在、このポストは4200回以上リポストされ、表示回数は420万回を超える。投稿について「まじか 言われていたこと起きた」と驚く声の一方で、「ソースが見当たりませんが」と情報源について憂慮する声もある。

そのほか、戦車の映像や銃を構える兵士の映像とともに「テキサス州が戦車に州境を超えさせている」「ホワイトハウスに柵が設置」などの日本語や英語の言説もX、Telegram、Facebook、TikTokなどで拡散している(例1,例2)。

検証過程

知事声明に「連邦政府と戦争」などと書いていない

検証対象の画像の文書は1月24日にテキサス州のアボット知事が発表した声明で、テキサス州知事室のウェブサイトで全文を確認できる。

声明では、メキシコとの国境の警備や移民をめぐってバイデン大統領が責任を果たしていないと厳しく非難し、州独自に自衛権を行使して州境の安全を確保すると宣言している。しかし、連邦政府と戦争をするなどという記述はない。

共和党のアボット知事は、国境に有刺鉄線を設置するなど州独自の不法移民対策を展開した。米連邦最高裁判所が1月22日に下した有刺鉄線の撤去を認める判断に、自身のXで「バイデン政権が資産を破壊することを阻止し続ける」と反論して、対立姿勢を鮮明にしていた。24日の声明はこれに続くものだ。

その他の投稿にも誤り

連邦議会前に柵が設けられ、警備する兵士の映像を今回のテキサス州と政府の対立に結びつける投稿もある。しかし、この動画は2021年の連邦議会襲撃事件直後に撮影されたものであり、今回の動きとは関係がない。

また、テキサス州で戦車が走行しているという動画は、ファクトチェック団体VERIFYが南米チリで撮影されたもので「誤り」だと検証している。

判定

アメリカの国境警備をめぐって政府を批判するテキサス州が独自に自衛権を行使すると宣言した動きであり、連邦政府と戦争するという内容ではない。その他の投稿の映像も無関係で、誤りと判定した。

あとがき

テキサス州と政府が移民をめぐって対立していることは事実で、メディアも報道しています(ワシントンポストBBC)。比喩的な意味で「内戦」と言えるかもしれませんが、戦争状態とは異なります。また、関係のない戦車や兵士の映像をテキサスの現状であるように見せかける投稿も数多くあります。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、野上英文、宮本聖二

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