オバマ元大統領がグアンタナモ湾収容キャンプに収監? 2013年の南アフリカ訪問時の映像【ファクトチェック】

オバマ元大統領がグアンタナモ湾収容キャンプに収監? 2013年の南アフリカ訪問時の映像【ファクトチェック】

バラク・オバマ元大統領がグアンタナモ湾収容キャンプに収監されたという言説が拡散しましたが誤りです。映像は2013年にオバマ氏が南アフリカ共和国のロベン島を訪問した時の映像です。

検証対象

2024年8月25日、オバマ氏が鉄格子の前に立つ映像と共に「バラク・オバマこと本名バリー・ソエトロがグアンタナモに収監された時のらしい」という言説が拡散した。

2024年8月27日現在、この投稿は1000件以上リポストされ表示回数は720万回を超える。投稿について「衝撃すぎる」「マジか」というコメントの一方で「明らかに見学」という指摘もある。

検証過程

グアンタナモ湾収容キャンプとは

グアンタナモ湾収容キャンプとは、キューバにある米海軍基地の収容所。2002年から世界中のテロリストと疑われた人を違法に収容し、非人道的な扱いをしているとして問題視されている。バイデン大統領は閉鎖を公約に掲げていたが、現在のところ果たされていない(「The Symbol of US Abuse in the Global War on Terror」 Human Rights Watch)。

映像は2013年のロベン島訪問

拡散した映像をGoogle画像検索すると、2013年7月にAFPが報じた「オバマ米大統領、マンデラ氏が収監されていたロベン島を訪問」という記事が見つかる。

記事によると、オバマ氏はネルソン・マンデラ元大統領が収監されていた南アフリカ・ロベン島の元刑務所を訪問し、白人支配のアパルトヘイト政策に反対の声を上げ、投獄されたマンデラ氏をはじめとする反アパルトヘイトの闘士たちに敬意を表したという。記事には拡散した映像と同じ服装のオバマ氏の画像が添付されている。

記事の内容を元に「Barack Obama  Robben Island」でYouTube検索すると、拡散したものと同じ映像が見つかる。映像はキューバのグアンタナモ湾収容キャンプではなく、オバマ氏が南アメリカのロベン島を視察で訪れた時のものだ。

なお、「バリー・ソエトロ」のバリーは、オバマ氏の幼少期からの呼び名で、ソエトロ(Soetlo)は元継父の性だ(The Guardian)。

判定

オバマ元大統領がグアンタナモ湾収容キャンプに収監されたという映像は、誤り。拡散した映像はオバマ氏が南アフリカ・ロベン島の元刑務所を視察した時のものだ。

あとがき

投稿したアカウントは、この他にも根拠不明の情報を多数投稿しています。その中にはすでに日本ファクトチェックセンター(JFC)で検証して誤りと判明しているものもあります。(画像)バラク・オバマ氏はゲイで、ミシェル・オバマ氏はトランスジェンダー?【ファクトチェック】

JFCでは、なぜ誤情報・偽情報を受け入れてしまうのか、バイアスについて解説した講座を公開しています。

フェイクニュースとバイアス 「私は大丈夫」が危ない 【JFCファクトチェック講座 理論編2】
日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 理論編の初回はファクトチェックの対象、偽・誤情報の定義や分類について解説しました。第2回は、なぜ人々が偽情報に騙されやすいのか、そしてその原因となる「認知バイアス」について説明します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) 認知バイアスとは 認知バイアスとは、自分自身の経験などに基づいて無意識のうちに非合理な考えをしてしまうこと。誰しもが持っている偏りや先入観のことを指します。 騙す側は認知バイアスを意識的・無意識的に利用して偽情報を作るため、そのテクニックを知ることで騙されにくくなります。 ミュラーリヤーの錯視? 第0回で紹介したミュラーリヤーの錯視を覚えていますか?矢印が内向きになっている方が長く見える錯覚です。 💡しばらくこの図を見てから、下にスクロールしてください! この図をみた瞬間に「上の方が長く見えるけれど、同じ長さなんでしょ。そんなの知っているよ」と思いましたよね。 それがあなたのバイアスです。実はこれ、ひっかけ問題なんです。 わかり

検証:木山竣策
編集:古田大輔、宮本聖二、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

イラン政府が米英仏に対して宣戦布告? まとめサイトによるもの

イラン政府が米英仏に対して宣戦布告? まとめサイトによるもの

イラン政府が米英仏に対して宣戦布告したという投稿が拡散しましたが、不正確です。イランは米英仏に対して、イスラエルへの報復攻撃を妨害したら、中東地域に展開する各国の軍事基地や艦船を標的にすると警告しましたが、2025年6月16日現在、宣戦布告はしていません。 検証対象 2025年6月14日、「【速報】イラン政府、アメリカイギリスフランスへ宣戦布告」という投稿が拡散した。 この投稿は2025年6月16日までに156万回以上の閲覧数と2100件以上のリポストを獲得している。投稿には「第三次世界対戦をどうしてもやりたい人がいるんですよね」や「宣戦布告はヤバいよ〜」などのコメントのほか、「宣戦布告ではなく警告ね」という指摘もある。 検証過程 検証対象のリンクは、まとめサイト「ツイッター速報〜BreakingNews」の記事だ。タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【速報】イラン政府、アメリカイギリスフランスへ宣戦布告」で、英語のX投稿を引用元にしている。 英語の投稿内容は次の通りだ。 「速報:イランは、イスラエルへの大規模攻撃を開始する意向を正式にフ

By 根津 綾子
中国人が「コノ先日本國憲法通用セズ」という看板を勝手に作っている? フィクションが元ネタのいたずら看板

中国人が「コノ先日本國憲法通用セズ」という看板を勝手に作っている? フィクションが元ネタのいたずら看板

中国人が「コノ先日本國憲法通用セズ」という看板を勝手に作っているなどと主張する画像付きの投稿が拡散しましたが、根拠不明です。拡散した画像の看板は、都市伝説や映画をモチーフにしたいたずらと推測され、中国人が作ったと示す証拠はありません。 検証対象 2025年6月10日、「中国人が勝手にこんな物を作っている」などの文言とともに、「日本國憲法通用セズ」などと書かれた看板の写真がXで拡散した。 2025年6月11日時点で表示回数は100万回を超えていた。6月13日現在、投稿は削除されているが、拡散した投稿には「日本全国で日本の法律に縛られないやつが溢れてこない事を切に祈る」や「イタイバラバラにしてバイバイしてないだろうね」のコメントのほか、心霊スポットの写真ではという指摘もある。 検証過程 画像は有名な「心霊スポット」の看板 拡散した画像をグーグルレンズで検索すると、よく似た画像が添付されたX投稿(例1、例2)や「コジツケ君がゆく」というアメーバブログの「コノ先日本國憲法通用セズ」という記事が表示される。 ブログの2024年10月17日付の記事に

By 根津 綾子
東京都議選、偽誤情報の影響は/検証5本・関連18本【今週のファクトチェック】

東京都議選、偽誤情報の影響は/検証5本・関連18本【今週のファクトチェック】

東京都議選が始まりました。2024年の兵庫県知事選をきっかけにネット上の真偽が不確かな情報が投票に大きな影響を与えることが日本でもようやく認識されるようになり、新聞社やテレビ局などもファクトチェックを始める動きが出ています。ただ、一人を選ぶ大統領選型の知事選と異なり、都議選のように候補者も当選者も多い選挙では、対決型の構図が作りにくく、偽・誤情報も何か1つの大きなナラティブ(物語の語り口)を形成するというよりは、様々なテーマが同時多発的に広がり、検証対象を選びにくくなりがちです。選挙結果だけではなく、そのような選挙の信頼性・正当性を貶めるような情報にどのように対応していくかも注目されます。(古田大輔) ※今週から冒頭にミニコラムをつけるようにしました。ご意見・ご感想などはこちら。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座はこちら

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
アメリカ産のミニマムアクセス米は除草剤などで健康に影響? 輸入時に安全検査

アメリカ産のミニマムアクセス米は除草剤などで健康に影響? 輸入時に安全検査

「アメリカ産のミニマムアクセス米には、除草剤・殺虫剤等が頻繁に使われていて健康に影響がある」という趣旨の投稿がXで拡散しましたが、誤りです。アメリカ産に限らず、政府が輸入するコメは、農林水産省と厚生労働省が安全検査をしており、基準に満たないコメは輸出国に送り返したり、廃棄したりしています。 検証対象 2025年6月6日、「アメリカ産のミニマムアクセス米には、除草剤・殺虫剤等が頻繁に使われている」という趣旨の投稿がXで拡散した。 投稿には、ニュース番組のような動画が添付され、小泉進次郎農水相が「備蓄米を使い終わったら、ミニマムアクセス米も含め、あらゆる選択肢を考えてコメ価格の高騰を落ち着かせる」などと話している。 また、動画には「ミニマムアクセス米という、除草剤、殺虫剤等の農薬が頻繁に使われていて、発がん性、内分泌かく乱作用、生殖能力への影響などの懸念があり、生態系への影響も指摘されているアメリカ産米」という文言も添えられている。 コメントには、「日本人の身体どうなってしまうんだろう?」や「米国の生産者は残留農薬のことなんてアタマにありませんから」などの意

By 根津 綾子

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は6月21日(土)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfckousiyousei0621.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)