フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

「フランス入国の際の優先レーンから日本が外されたようだ」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年4月30日現在、日本は優先レーンの対象国です。

検証対象

2025年4月19日、埼玉県戸田市議・河合ゆうすけ氏が「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ。日本のパスポートを持った中国人(帰化した人)が増えたからではないかと言われている」などと主張する投稿がXで拡散した。投稿には、フランス・パリの空港と思われる画像が添付されている。

投稿は4月30日現在、3700回以上リポストされ、表示回数は112万を超える。投稿には「治安だけは良かったのにその治安もパァ」「自公政権のお陰ですね」などのコメントのほか、「根拠がない」というコミュニティーノートの指摘もある。

検証対象の投稿が拡散するひと月ほど前にも、同様の投稿があった(2025年3月19日)。「フランスに入国しようとしたら優先自動ゲートが開かず、担当者に文句を言ったら『日本だけ撤廃した。向こうの中国人の列に並んで』と言われた」などという内容で「虚偽のポストの疑い」というコミュニティーノートがついた。

検証過程

フランス入国の優先レーン(PARAFE)とは

フランスは、国境を迅速に通過するための仕組み(PARAFE)を設けている(フランス政府公式サイト)。

PARAFEは、シェンゲン圏(※)への出入国の際、旅行者の審査を自動化するシステムで、EU市民とEU以外の一部の国のICパスポートを持つ人のみが利用できる(※国境検査なしで人の移動を自由に認める協定締結国の領域)。

利用対象者は、専用ゲートの読み取り機にパスポートを置き、カメラで顔を撮影すれば通過できる。使用方法は、パリ空港の公式YouTube動画で確認できる。

フランス政府公式サイトによると、G7を含む47か国の国民が、フランス出入国時にPARAFEを利用できる。検証対象の言説のうち、「G7は優先レーンを通れるはず」という部分は正しく、サイトの説明通りなら日本は優先レーン対象国だ。

在日フランス大使館「日本はPARAFE対象国」

フランス政府公式サイトの上部には「更新日:2025年4月7日」と記載されている。河合市議が検証対象のポストを投稿したのは2025年4月19日だ。

この間、制度に変更があったのか。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、在日フランス大使館に取材した。

広報担当者は「2023年6月30日、日本を含む16か国のPARAFE対象国が公表された。この時以来、日本は対象国のままだ。大使館が把握する限り、日本が対象外とされたことはない」と回答した。

判定

2025年4月30日現在、日本はフランス入国時の優先レーンを利用可能だ。よって、「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ」という言説は誤りと判定する。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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