イランがイスラエルに報復攻撃する動画?【ファクトチェック】

イランがイスラエルに報復攻撃する動画?【ファクトチェック】

2024年4月13日から14日にかけてのイランによるイスラエルへの攻撃に関連して、「イランがイスラエルに報復攻撃開始」というコメント付きの動画が拡散しましたが誤りです。動画はいずれも今回のものではなく、過去に撮影された映像です。

検証対象

2024年4月13日、イランはシリアにある自国の大使館が空爆されたことをめぐって、イスラエルに対してミサイルやドローン(無人機)による報復攻撃を始めた。これについて、X(旧Twitter)上で「『イランがイスラエルに報復攻撃開始』無人機攻撃 /ドローン攻撃で、いよいよ第三次世界大戦か。」という文言とともに2本の動画と一枚の画像が拡散した。動画には人々が逃げる様子や、ミサイル攻撃の様子などが映っている。

この投稿は2024年4月15日時点で表示回数は39万回を超える。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、動画と画像が2024年4月13日から14日にかけて、イランがイスラエルへ攻撃した際のものかどうかを検証した。

一つ目の動画は1秒程度で、街中で群衆が走る様子だ。この場面を含む合計7秒の動画は別のポストで見つかった。元の動画は4月6日にアルゼンチンのブエノスアイレスで、ファンが歌手に駆け寄る場面を捉えたものだ。

アメリカのファクトチェックサイト「Lead Stories」が同じ動画をファクトチェックし、関係のない映像だとと判定している(記事)。記事によると、映像はブエノスアイレスのホテルにいる人気歌手に向かってファンが駆け寄る様子だという。記事は、Google Earth のストリートビューを使って場所を確認しており、ブエノスアイレスのフォーシーズンズホテル前だとわかる。


拡散した動画と一致するフォーシーズンズホテル前の広場。Google Earthのストリートビューより(リンク

2枚の画像を比べると、建物や信号機の特徴が一致し、同じ場所であることがわかる。

二つ目の動画はインドに拠点を置くファクトチェック団体「Newschecker」が検証し、「False・誤り」と判定している。Newscheckerによると、この動画は2014年11月30日、ウクライナ軍によるドンバス地域に対するGRADミサイル攻撃を撮影したものだという(記事)。9年前に投稿されたこの動画は「2014.11.30 ウクライナ軍、GRADからドンバスの都市に発砲」というタイトルだ。動画の30秒ほどのところから、拡散した動画と同じ場面が始まる。9年前からインターネット上に公開されていることから、今回のイスラエル攻撃の動画ではないことがわかる。

2014年11月30日 ウクライナ軍、GRADからドンバスの都市に発砲とするタイトルの動画の一部 (ロシアの動画共有サービスRUTUBEより)

3つ目の画像をGoogle画像検索すると、ロイター通信社の2023年10月10日の記事と写真が見つかる。

画像のキャプションには、「イスラエルの対空防衛システム『アイアンドーム』がガザ地区から発射されたロケット弾を迎撃する様子」とある。

この記事と写真は、2023年10月7日に始まったイスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃について伝えるもので、イランがイスラエルに対して行った攻撃ではない。

判定

いずれの動画、画像も2024年4月13日から14日にかけてイランがイスラエルに対して行った攻撃よりも前に撮影やアップロードされたもので、今回の攻撃とは関係がない。したがって、誤りと判定する。

検証:リサーチチーム
編集:宮本聖二、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

河野太郎氏が「専業主婦は余裕がある」と発言した? 発言の一部を切り抜き【ファクトチェック】

河野太郎氏が「専業主婦は余裕がある」と発言した? 発言の一部を切り抜き【ファクトチェック】

自民党の河野太郎衆院議員が「専業主婦は余裕がある」と発言したという投稿が拡散しましたが、不正確です。番組での発言の一部を切り取って、異なる文脈を加えています。 検証対象 2025年4月25日、河野氏が「専業主婦は余裕がある」と発言したという投稿がXで拡散した。 2025年5月1日現在、この投稿は1.8万件以上リポストされ、表示回数は2500万回を超える。投稿について「世間知らずにも程がある」「世の中の専業主婦を敵に回した」というコメントの一方で「切り取り方に悪意を感じるし記事をまず読んだ方がいい」という指摘もある。 検証過程リンクされた記事の内容は 拡散した投稿にはスポーツニッポンの記事が添付されている。河野太郎氏が2025年4月24日に放送されたBS11「報道ライブ インサイドOUT」に出演し、年金制度改革について持論を語ったという内容だ。 記事は、河野氏が年金制度改革について、「年金1階部分の基礎年金を税金でまかなう」「2階部分の厚生年金を積み立て方式にする」「第3号被保険者制度の廃止」の3点を主張したと書いている。 また、自身の主張の中で「専

By 木山竣策
パンデミック条約でワクチン強制接種? 繰り返し否定されている誤情報【ファクトチェック】

パンデミック条約でワクチン強制接種? 繰り返し否定されている誤情報【ファクトチェック】

感染症の世界的な流行(パンデミック)への対策を強化する「パンデミック条約」をめぐり、「ワクチンを強制接種させる」などの情報が繰り返し拡散していますが、誤りです。条文案にそうした文言はなく、世界保健機関(WHO)などが繰り返し否定しています。 検証対象 2025年4月14日、「ヤバいって WHOのパンデミック条約がもう来月採択へ。 条文の原文には 『加盟国には監視・警戒システムの強化を要請』 『加盟国はワクチンの定期接種を強化・実施する』などが記載 まさに監視・ワクチン接種強制社会への下準備」という投稿が、「『パンデミック条約』条文案を大筋合意 WHO 来月の採択を目指す」と伝えるNHKニュースの画像と共に拡散した。 4月30日現在16万を超える閲覧があり、リポストは2200以上。「WHO脱退しないとね」「憲法違反じゃないの?」といったコメントのほか「強制接種、義務化はないと思います。そんなの無理です」といった指摘もある。 検証過程 パンデミック条約とは WHO加盟国が、感染症対策を世界的に強化する目的で議論している条約。感染症が発生した際の情報共有

By 中嶋辰弥
フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

「フランス入国の際の優先レーンから日本が外されたようだ」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年4月30日現在、日本は優先レーンの対象国です。 検証対象 2025年4月19日、埼玉県戸田市議・河合ゆうすけ氏が「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ。日本のパスポートを持った中国人(帰化した人)が増えたからではないかと言われている」などと主張する投稿がXで拡散した。投稿には、フランス・パリの空港と思われる画像が添付されている。 投稿は4月30日現在、3700回以上リポストされ、表示回数は112万を超える。投稿には「治安だけは良かったのにその治安もパァ」「自公政権のお陰ですね」などのコメントのほか、「根拠がない」というコミュニティーノートの指摘もある。 検証対象の投稿が拡散するひと月ほど前にも、同様の投稿があった(2025年3月19日)。「フランスに入国しようとしたら優先自動ゲートが開かず、担当者に文句を言ったら『日本だけ撤廃した。向こうの中国人の列に並んで』と言われた」などという内容で「虚偽のポストの疑い」というコ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

「トランプ政権が社会福祉コストを精査したら、記録上で200歳以上が数万人もいた。戸籍制度が完備してる日本ではあり得ない」などという言説がXで拡散しましたが、不正確です。トランプ氏が演説でふれた200超歳の高齢者の記録は1041人分。また、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている「高齢者所在不明問題」は日本でも起きています。 検証対象 2025年4月24日、「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいたという話は、戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」という投稿がXで拡散した。 投稿は2025年4月28日現在、1万回以上リポストされ、表示は308万件を超える。投稿には「母が亡くなった時戸籍を取り寄せたら、江戸時代末期まで遡った記録が送られてきて驚いた」「ほんと、そう。無くすべきではない」などのコメントのほか、「日本でも何年か前にそういう事ありましたよ」という指摘もある。 検証過程 トランプ氏「220~229歳が1039人」 第2次トランプ政権は、財政赤字の削減を目指し、社会保障費の削減に取り組ん

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)