ブチャの大虐殺がイギリスとウクライナの計画と判明して騒がなくなったのは本当?【ファクトチェック】

ブチャの大虐殺がイギリスとウクライナの計画と判明して騒がなくなったのは本当?【ファクトチェック】

鳩山友紀夫(由紀夫)元首相が、「ブチャの大虐殺はロシアではなく、ウクライナと英国の計画と判明して騒がなくなった」というツイートを投稿しました。しかし、「ウクライナと英国の計画」であることを示す根拠はなく、虐殺に関する調査はその後も進められています。

検証対象

2022年11月17日、鳩山元首相がTwitterで「ポーランドにミサイルが着弾して2人亡くなった。最初に疑われたのはロシアだった。ブチャの大虐殺もそうだ。ロシアの仕業と大騒ぎした。結局ウクライナと英国の計画と判明して騒がなくなった」とツイートした。

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リプライやリツイートには、「自作自演なんですよ」「同意見です」というコメントがある一方で、「根拠あるニュースソースを提示してください」「適当なことを言わないように」と指摘するコメントも多かった。

検証過程

ブチャの虐殺は、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻後間もない3月、ロシア軍に占領されたウクライナ首都キーウ近郊のブチャで発生したとされる虐殺事件。ウクライナの反撃によるロシア軍の撤退後、民間人の遺体が多数発見された。

ウクライナや西側諸国はロシアによる戦争犯罪であると強く批判する一方、ロシアはこの容疑を「とんでもない偽造」と否定し、ラブロフ外相はブチャで見つかった複数の遺体は、ロシア軍が後退した後にでっちあげられたと主張した。

この論争に関しては、その後、世界中のメディアが検証に取り組んだ。

ニューヨーク・タイムズは「ロシアの主張に反して衛星画像は遺体が数週間にわたりブチャに横たわっていたことを示す」と題した記事で、ブチャ上空からの衛星画像をもとに、ロシア軍が撤退する3月30日より前に、ブチャのヤブロンスカ通りに遺体が存在していたと示した。ビジュアル調査報道チームが衛星画像を分析したところ、人体に似た大きさの物体が、3月9日から3月11日の間にヤブロンスカ通りに現れ、3週間以上その位置にとどまっていた。また、5月19日の記事「ブチャでロシア兵士がいかに虐殺したかを示す新証拠」では、入手した動画や生き残った住民へのインタビューで、虐殺の状況を再現している。

日本語の記事としては、BBC NEWS Japan「【検証】ウクライナ・ブチャの住民虐殺 衛星画像がロシアの主張を否定」がある。また、日本のジャーナリストの村山祐介氏も現地で取材し、「ブチャ『死者の通り』8人虐殺事件を追う」というYouTube動画を公開している。多数の遺体を撮影した人物に、当時の状況について取材した内容だ。

国連はウクライナでの戦争犯罪に関する調査を進めており、12月7日公開の報告書ではブチャにおいて「73人の民間人(男性54人、女性16人、少年2人、少女1人)」の殺害を確認したと記述している。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、鳩山氏が理事長を務める財団に取材を依頼したが、期日までの回答は得られなかった。回答が届き次第、追記する。

判定

以上のことから、「ブチャの大虐殺がイギリスとウクライナの計画と判明して騒がなくなった」は誤り。

あとがき

ウクライナで起きている戦争被害は自作自演であるとする言説は多くあります。しかし、第三者の立場にある国連人権理事会の委任を受けた独立調査委員会も実際に現地を訪れ、ロシアに占領されていた地域で戦争犯罪があったことを発表しています。

検証:金子祥子
編集:古田大輔

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