黒人侍とその家族の画像?【ファクトチェック】

黒人侍とその家族の画像?【ファクトチェック】

「大手メディアは伝えない日本の黒人侍」という文言とともに侍姿の黒人と家族のような画像が拡散しましたが、誤りです。写真はAIによるもので本物ではありません。

検証対象

2024年3月13日、「大手メディアは伝えない日本の黒人侍(原文は英語)」という文言と、日本の城を背景に3人が立っているモノクロの画像が拡散した。3月29日現在、このポストは855万回以上の閲覧回数と6200回以上のリポストを獲得している。

検証過程

画像の出所は

Google画像検索で探すと、ネット上で確認できる最も古い同様の画像は2024年2月26日のFacebookページの投稿だった。「Poetry&Talents(詩と才能)」というページで「詩人、歌手、コメディアン、アーティストがその芸術的才能を披露するためにシェアする場所」という説明があり、投稿には「We’re everywhere!!(私たちはどこにでもいる!!)」と書かれている。

画像にある不自然な箇所

拡散した画像には不自然な箇所がいくつかある。

まず、左側の男性が右腰につけている刀が歪んでいる。また、右側の女性の着物と前に立つ子供の着物が融合しているように見える。女性の左手は顔や身長と比べてかなり大きい。これらの描写の不自然さはAIで生成した画像で発生しがちな特徴だ。

帯刀や着衣の不自然さもある。男性は右肩に柄が来るように大太刀とみられる刀を担ぎ、さらに右腰にも刀を差している。しかし、刀は一般的には柄を左側にする。画像が反転していたとすれば、3人の着物が「左前(ひだりまえ)」になってしまう。相手から見て左の衽(おくみ)を前にする「左前」は死者の装束であり、「右前(みぎまえ)」が通常の和服の着方だ。

画像には不自然な箇所(赤い枠線部分)がいくつかある

AI画像認識サービスの結果は

日本ファクトチェックセンター(JFC)が参考までにAI画像認識サービスAI or Notで画像を検証したところ、「This is likely AI(おそらくAI)」との判定を得た。

DeepFake-o-meterでも確認した。こちらは7つのアプローチでAI生成かどうかを判定するが、1つがAI生成の可能性を200%とした一方、別のアプローチでは43.9%という結果が出た。また、残る5つのアプローチでは「画像は本物」という判定で、AI生成ではないという結果だった。

AIを検出する画像認識サービスの精度は完全ではないために、これらの結果が正しいとは限らない。

写真技術の日本への伝来は19世紀中ごろ

黒人侍の写真が存在することは歴史的には矛盾しないのか。感光材料(光を感じて記録できる材料)を使った撮影技術は、1826年にフランスのニエプス兄弟の発明にまでさかのぼれる(キヤノン)。

写真の技術が日本に伝来したのは19世紀中ごろ。ペリーとともに来航した写真師エリファレット・ブラウン・ジュニアが1857年に撮影した松前藩士らの写真が、日本国内最古だとされる(文化庁国指定文化財等データベース)。日本人の手によって撮影された現存最古の写真は、薩摩藩主・島津斉彬の肖像写真(1857年)だと言われている(キヤノン日本カメラ博物館)。

文化庁が提供する国指定文化財等データベースでは、黒人の侍を映した写真は確認できなかった。

専門家「戦国時代に複数の黒人がいて、侍になった人もいる」

日本で歴史的に有名な黒人としては、弥助(やすけ)がいる。16~17世紀中ごろの戦国時代、イエズス会の従者として来日し、織田信長の家臣となった(BBCCNN国立国会図書館)。

JFCは、日本大学法学部のロックリー・トーマス准教授に話を聞いた。著書に「信長と弥助 本能寺を生き延びた黒人侍」がある。

ロックリー准教授によると「数十人から100人を超える黒人がポルトガルの貿易商などの従者として連れてこられ、長崎や口之津など九州の港町にいたのではないか」という。弥助のような黒人の武士については、「太田牛一の『信長公記』やフロイスの『日本史』には、弥助のことが記述されており、黒人を雇っていたという加藤清正の手紙、有馬晴信が黒人に大砲を扱わせた、また、江戸の初期までは島津家など西の大名を中心に黒人を雇っていたという記録もある」と話す。

今回の画像について、当時の黒人の家族を撮った本物の写真である可能性はあり得ないし、黒人の侍の写真は「そもそも存在しないはずだ」という。

ロックリー准教授自身も、最初に見た時は観光客の写真かと思ったと話す。

AFPはこの写真が「弥助ではない」というファクトチェック記事を出しており、生成AIで作られた可能性が高いと指摘している。

判定

写真には生成AIで作った画像に見られる特徴があり、刀や着衣も不自然だ。歴史的な事実から考えても、本物の写真とは考えがたく、誤りと判定する。

検証:高橋篤史、宮本聖二
編集:藤森かもめ、野上英文、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

日航123便墜落事故で機長が「被弾したぞ」と発言? 記録も音声も根拠もなし【ファクトチェック】

日航123便墜落事故で機長が「被弾したぞ」と発言? 記録も音声も根拠もなし【ファクトチェック】

1985年に起きた日本航空123便墜落事故について、「完全版ボイスレコーダー」と称する動画がXやYouTubeで拡散しています。機長が「2機の戦闘機が追い抜いていったぞ!」「被弾したぞ」「本当に撃ちやがった」などと発言したと主張していますが、根拠不明です。国の航空事故調査委員会がまとめ、全文を公開している事故報告書にそのような発言はなく、拡散した音声でも聞き取れません。根拠なく赤字のテロップが追加されているだけです。 検証対象 2025年8月13日、「凄いです、コレ。このVer. は初めて見ました。知らぬ間にここまでボイスレコーダー暴いていたのか」という投稿が拡散した。 8月18日現在、この投稿は2500件以上リポストされ、表示回数は601万回を超える。投稿について「やっと暴かれた」「国は絶対に真実を明らかにしなくてはならない」というコメントの一方で「無音部分に赤字で妄想書いただけ」という指摘もある。 投稿は「【40年追悼】封印された言葉を解き放つ─40年目の真実【日本航空123便御巣鷹山墜落事件】」というYouTube動画を添付している。8月18日現在、

By 木山竣策
被害が拡大するオンライン詐欺、対策はファクトチェックと共通/JFC検証8本、動画など【今週のファクトチェック】

被害が拡大するオンライン詐欺、対策はファクトチェックと共通/JFC検証8本、動画など【今週のファクトチェック】

「ファクトチェック」とは印象が異なるかもしれませんが、オンライン詐欺の問題にも世界の多くのファクトチェック機関が取り組んでいます。 著名人を騙るアカウントを使い、架空の投資話などで資金を振り込ませる。世界中で被害が広がっている手口です。偽アカウントの見分け方、オンラインで見の安全を守るメディア情報リテラシーなど、対策はファクトチェックと共通します。 日本ファクトチェックセンター(JFC)でも、たびたび具体的な事例を挙げて注意を呼びかけていますが、被害額は増える一方です。 法的な取り締まりも必要ですが、まずは身を守るために自衛策を学び、家族や知人にも注意を呼びかけましょう。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
実業家・前澤友作氏になりすましたAI偽広告に注意

実業家・前澤友作氏になりすましたAI偽広告に注意

実業家の前澤友作氏になりすました偽広告がYouTubeなどで拡散しています。AIで生成したと見られ、前澤氏自身がSNSで注意喚起をしています。 YouTube広告に著名人の偽広告 実業家の前澤友作氏になりすました偽のYouTube広告が拡散している。偽の動画では、前澤氏が株式投資を勧め、「10倍にしたい人、今すぐ耳を傾けてください」などとLINEへの登録を促している。 一部不自然な日本語で話していたり、唇と発言が一致していない場面もある。また動画上部には「KABU&」と書かれている。 広告リンクをクリックすると、「前澤友作のLINEを無料で追加し、『受取』と送信するだけで、翌日値上がりする銘柄がわかります。さらに、毎週60%の利益が期待できる優良銘柄情報も入手できます」と表示され、「特別な投資情報をお届けします!」とLINEへの登録を促している。 前澤氏やカブアンドもSNSで注意喚起 前澤氏は自身のXアカウントで注意喚起している。 「【拡散希望】前澤やカブアンドを騙る『偽の動画広告』について以下の動画は、すべて個人情報や金銭を騙し取ろうとする極めて

By 木山竣策
参政党、日本保守党に特別委員会の割り当てなし? 画像は過去のもの【ファクトチェック】(修正あり)

参政党、日本保守党に特別委員会の割り当てなし? 画像は過去のもの【ファクトチェック】(修正あり)

2025年7月の参院選で議席を獲得した参政党と日本保守党について「特別委員会の割り当てがない、国民の支持で議席を得た政党が、委員会審議に参加できないのは代表性の欠如」と国会を批判する投稿が拡散しました。これはミスリードで不正確です。画像は2025年1月〜6月の国会資料で、2025年7月の参院選後、参政党、保守党ともに議席に応じて各特別委員会の席が割り当てられています。 検証対象 2025年8月1日、「参政、保守に特別委員会の割り当てなし。国民の支持で議席を得た政党が、委員会審議に参加できないのは代表性の欠如。少数政党だからって、発言の場すら奪うなんてあまりにも理不尽だ」という投稿が根拠とされる画像付きで拡散した。 投稿したアカウントは@Hoshuto-kaihaで「日本保守党会の国会議員、河村たかし、島田洋一、竹上裕子の『会派』アカウント」とプロフィールに記している。 拡散した画像には「※参政、保守については割当なし」と書かれた資料が映っている。 8月15日現在、この投稿は8800件以上リポストされ、表示回数は68万回を超える。投稿について「あれだけ議席

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月20日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0920.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどの

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)