ワクチン接種・5Gでコロナに感染?【ファクトチェック】

ワクチン接種・5Gでコロナに感染?【ファクトチェック】

埼玉県の高校で新型コロナが流行したニュースについて、ワクチン接種や5Gが原因ではないか、という情報が拡散しましたが、誤りです。ワクチン接種を受けた生徒は卒業しているほか、どちらの言説も厚生労働省やWHOが因果関係を否定しています。

検証対象

2023年6月、埼玉県立春日部高校で100人以上の生徒が新型コロナに感染して、学校閉鎖になったというニュースに絡めて、コロナの集団感染はワクチン接種・5G(第5世代移動通信システム)が原因ではないかという趣旨のツイート(例1例2)が拡散した。引用を含むリツイート数が5900回、表示回数が184万回を超えたものもある。

画像
画像

これらのツイートのリプライ欄には、「そうでしたか、初めて知りましたそのツィートありがとうございます」「ここまでくるとホロコースト」といったコメントが寄せられている。一方で、「おかしいですね。昨年12月に接種した3年生は今年3月に高校卒業しているはずなのに。もしかして春日部高校は去年の3年生は全員留年したのですか?」などの指摘もある。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、検証対象のツイートがコロナ感染の原因として挙げた

・ワクチン接種が原因でコロナに感染する
・コロナの原因は5G

についてそれぞれ検証した。

・ワクチン接種が原因でコロナに感染する
検証対象のツイートでは、「ワクチンバスを出張させ、受験を控えた生徒にワクチンを接種していた。そうしたら、やっぱり高校2、3年生を中心に感染が広がった。定石通りの流れだ」と述べられており、ワクチン接種がコロナ感染の原因だと示唆している。

JFCの取材に対して、春日部高校の担当者はこのように説明した。

「昨年12月に春日部高校で当時の高校3年生を対象にワクチン接種をしたのは事実です。ワクチン接種は埼玉県の事業で、本校は会場を提供しただけです。ワクチン接種を受けた高校3年生はすでに卒業しており、他校生徒も本校でワクチン接種を受けています」

昨年12月に春日部高校で接種を受けた高校3年生は今春に卒業している。ワクチン接種が原因で今年6月に春日部高校で集団感染が起きたとは考えにくい。

また、厚生労働省はホームページ上で「新型コロナワクチンQ&A」というページを公開している。
その中の「ワクチン接種で新型コロナウイルスに感染することはありますか」という質問には、

「ワクチンを接種したことが原因で新型コロナウイルスに感染することはありません」と言説を否定している。

厚労省健康局予防接種担当参事官室の担当者はJFCの取材に、次のように説明した。

「現時点で、ワクチンの接種によって新型コロナウイルス感染症を発症する(または発症しやすくなる)とする知見はありません。ワクチンについては、発症予防効果等の知見が国内外から報告されています。国立感染症研究所が実施した研究によると、オミクロン株対応2価ワクチン(BA.1対応型又はBA.4-5対応型)接種後14日以降の、ワクチン未接種者と比較した発症を予防する効果は71%です。これは、仮にワクチンを接種しなかった一定数の集団で100人が発症したとすると、同じ条件でワクチンを接種した集団では発症者は29人となった(71人が発症しなかった)という意味です。確かに、ワクチン接種後であっても発症する可能性はあります。しかし、発症した事例があることだけを理由に、ワクチンが原因で新型コロナウイルス感染症にかかりやすくなるとは言えません。ワクチンの有効性を評価するには、ワクチンを接種した人と接種しなかった人を適切に比較する研究手法を用いる必要があります」

つまり、新型コロナワクチン接種はコロナの発症予防に効果があり、ワクチン接種が原因でコロナを発症することはないという。

・コロナの原因は5G
検証対象のツイートでは、「春日部高校の近くに5G基地局のような電波塔がありますね。全て辻褄が合います。コロナと5G は連動します」とも述べられている。

コロナ感染と5Gに因果関係はあるのか。

5Gとは、第5世代移動通信システムの通称だ。総務省総合通信基盤局が2018年に公開した資料では、携帯電話などに利用される第5世代移動通信システムの特徴として、「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」といった内容が挙げられている。SNS上では5Gについて、「コロナの原因は5G」「ワクチン接種で5Gに接続される」といった真偽不明の言説が拡散されている。

5Gとコロナ感染については、既にさまざまな公的機関が否定している。

WHOはYouTube上に「Coronavirus mythbusters: 5G mobile networks DO NOT spread COVID-19」という名前の動画を公開している。mythbustersとは「怪しい伝説」「都市伝説」という意味だ。動画内では「ウイルスは電波やモバイルネットワーク上を移動することはできない。5Gが導入されていない国でも新型コロナウイルスは広がっている」と説明している。

厚労省新型コロナウイルス感染症対策本部の担当者は、JFCの取材に対し、
「新型コロナウイルス感染症と5Gの因果関係を示す科学的根拠は承知していません。新型コロナウイルス感染症の感染経路については、厚生労働省のホームページ『2-問2 新型コロナウイルス感染症にはどのように感染しますか』の項目で、『感染者の口や鼻から、咳、くしゃみ、会話等のときに排出される、ウイルスを含む飛沫又はエアロゾルと呼ばれる更に小さな水分を含んだ状態の粒子を吸入するか、感染者の目や鼻、口に直接的に接触することにより感染する』という内容をこれまでも示しています」
と回答し、コロナと5Gの関係を否定した。

判定

春日部高校でワクチン接種を受けた3年生は今春に卒業しており、6月に起きた集団感染とは無関係。また、コロナ感染の原因をワクチン接種や5Gによるものとする言説は、厚労省やWHOなどによって否定されている。感染経路は、咳やくしゃみ、会話のときに出される飛沫によるもので、ワクチン接種や5Gは関係ない。以上のことから、ワクチン接種・5Gでコロナに感染するという言説は誤り。

あとがき

今年3月にマスクの着用が個人の判断となり、5月にはコロナが5類感染症となるなど、コロナをめぐる社会情勢は大きく変化し、個人の判断による感染症対策が求められるようになりました。しかし、この記事で検証した「ワクチン接種や5Gでコロナに感染する」といった言説は2020年から2023年7月現在まで何度も拡散しています。ワクチン接種などの個人の判断による感染症対策をする際は、正しい情報に基づいた判断が求められます。

検証:リサーチチーム
編集:藤森かもめ、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

大量拡散する偽・誤情報にどう対応するか。一人ひとりが抵抗力を身につけるメディア情報リテラシーの普及は遅れています。どこに課題があるのか。Z世代が考えた革新的な手法は。日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムで議論しました。 パネル討論「メディアリテラシーを広げるには:革新的な取り組みの現在地」に登壇したのは、ファクトチェック団体、メディア情報リテラシー教育に取り組む学生スタートアップ、新聞社、研究者。話題は教育にとどまらず、メディアの役割や情報の信頼性、必要とされる「批判的思考」が実は「陰謀論」と紙一重という話題にも広がりました。 ※シンポの議論を文字起こししたものですが、読みやすさを考慮して一部修正を加えています。 登壇者 モデレーター:古田 大輔 今井 善太郎氏(株式会社Classroom Adventure 代表取締役) 坂本 旬氏(法政大学総合情報センター 所長) 仲村 和代氏(朝日新聞東京本社 ゼネラルエディター補佐) Z世代が考えるゲーム形式のリテラシー教育 今井:株式会社Clas

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
AIディープフェイク氾濫の年、真実を守るテクノロジーとコラボの現状【情報インテグリティ】

AIディープフェイク氾濫の年、真実を守るテクノロジーとコラボの現状【情報インテグリティ】

偽・誤情報の拡散は選挙にも影響を与えています。対策としてのファクトチェックやテクノロジー活用はどこまで広がっているのか。日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムで議論しました。 パネル討論「選挙とAIとファクトチェック:ディープフェイクへの対抗策」に登壇したのは、ファクトチェック団体、新聞社、研究者、シビックテックという異なる業界で偽情報対策に取り組む担当者。情報環境の現状から今後まで、それぞれの立場で語っています。 ※シンポの議論を文字起こししたものですが、読みやすさを考慮して一部修正を加えています。 登壇者 モデレーター:古田 大輔(日本ファクトチェックセンター編集長) 工藤 淳氏(読売新聞 政治部デスク) 陣内 一樹氏(一般社団法人コード・フォー・ジャパン 副代表理事) 越前 功氏(国立情報学研究所 情報社会相関研究系 研究主幹・教授) 読売新聞が始めたファクトチェックのコラボ 工藤:昨年8月からファクトチェックの担当をしています。 新聞社やテレビ局としてもSNSの大きな影響を無視でき

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
京都・男児不明事件で「犯人逮捕」とYahoo!ニュースを装った詐欺投稿 別リンクへの誘導に注意を

京都・男児不明事件で「犯人逮捕」とYahoo!ニュースを装った詐欺投稿 別リンクへの誘導に注意を

2026年3月に京都府南丹市で男児が行方不明になった事件に関連して、Xで「犯人が逮捕された」などと、Yahoo!ニュースの記事を装ったリンクを埋め込み、全く別のウェブサイトへ誘導する投稿が確認されています。クリックすると全く関係ないサイトに誘導されるため、注意が必要です。 Yahoo!ニュースを装った投稿 4月14日、「京都男児行方不明事件の犯人逮捕される!!陳 宇軒 (チェン・ユーシュエン )容疑者を死体遺棄容疑で逮捕」という投稿がXに投稿された。 投稿には、Yahoo!ニュースのリンクを投稿に添付した場合に表示される「Yahoo!ニュース」と書かれたプレビュー画像と共に「momentary.link」と書かれたリンクが添付されている。 容疑者逮捕の情報は4月14日時点でなし 3月下旬、京都府南丹市の市立園部小学校に通う安達結希さん(11)が行方不明になった。4月13日、園部小から約2キロ離れた山中で子どもとみられる遺体があおむけに倒れている状態で見つかった(時事通信.”司法解剖し、身元特定へ 発見の遺体、京都男児不明―府警”)。 拡散している

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
イラン戦争の偽・誤情報まとめ:知っておけば対策できる典型的な6つの手口と確認のポイント

イラン戦争の偽・誤情報まとめ:知っておけば対策できる典型的な6つの手口と確認のポイント

アメリカ・イスラエルによる攻撃で始まったイラン戦争では、これまで以上に大量の偽・誤情報が氾濫しています。中でもショート動画は生成AIの発達と普及で現実と見分けがつかない「ディープフェイク(AI製の偽画像・動画)」が無数に拡散し、検証が追いつかない状況です。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は個別の検証をしていますが、それだけでは偽・誤情報の拡散を止められません。一人ひとりが、予備知識を持ち、耐性をつけることが大切です。偽・誤情報の典型的な手口と、簡単に実践できる確認のポイントについて解説します。 情報開示:世界中で拡散する膨大な偽・誤情報の分類と分析には、AI「Claude」を活用しました。記事にする際には、実際の検証事例を集め、その内容は全て人間のファクトチェッカーが確認しています。 手口① 生成AIによるディープフェイク画像・動画 生成AIツールを使い、現実ではない画像や動画=ディープフェイクを作る手口です。かつては「指が6本ある」「背景が歪んでいる」といった画像の不自然さで見分けがつきましたが、今や専門家でも、目視での判別が難しいレベルに達して

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は4月25日(土)午前10時~11時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0425.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)