ヨーロッパでワクチンの強制接種が進められている? 4年前の記者会見の恣意的切り抜き【ファクトチェック】

ヨーロッパでワクチンの強制接種が進められている? 4年前の記者会見の恣意的切り抜き【ファクトチェック】

「ヨーロッパで今、強制ワクチン接種が強引に進められている」と主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。投稿には欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が「ワクチンの義務化について議論することは理解できる」などと述べている動画が添付されていますが、この動画はコロナ禍の2021年12月の記者会見から文脈を無視して切り抜いたものです。

検証対象

拡散した言説

2026年4月17日、「ヨーロッパで今、強制ワクチン接種が強引に進められている!」などと主張する投稿がXで拡散した。

投稿には、フォン・デア・ライエン氏が「ワクチンの義務化について議論することは理解できる」などと述べる44秒の動画が付いている。

検証する理由

4月21日現在、投稿は5800回以上リポストされ、表示は33.9万件を超える。

投稿には「この動画は4年前のものです」や「大規模な義務化の証拠はない」などの指摘もあるが、「このワクチンは生物兵器だってことで今裁判沙汰になってんだよ」「この魔女は逮捕されるべき」など、真に受けた反応も多いため検証する。

検証過程

動画は2021年12月の会見

拡散した44秒間の動画の内容は下記の通りだ。

「ヨーロッパの人口の3分の1はワクチン接種を受けていません。これは1億5000万人に上り、非常に大きな数です。もちろん、誰もが皆ワクチンを接種できるわけではありません。例えば、非常に小さな子供や特定の医学的条件(持病など)を持つ人々もいますが、圧倒的多数の人々は接種が可能です。したがって、EU内でどのようにワクチン接種を奨励できるか、そして、場合によってはワクチンの義務化についてどのように考えるか、今この議論を行うことは理解できることであり、適切であると私は考えます。これには議論が必要です。共通のアプローチが必要ですが、これは主導されなければならない議論であると私は考えています」

この動画をGoogleレンズで検索すると、欧州委員会のウェブサイトに公開された、2021年12月1日の記者会見の映像がある(European Commission ”Press conference by Ursula von der Leyen, President of the European Commission, and Stella Kyriakides, European Commissioner, on facing current and new COVID-19 challenges”)。

元の会見動画は27分49秒間で、このうち、23分16秒から24分00秒までの44秒間が拡散した動画とまったく同じ内容だった。つまり、拡散した投稿が根拠として添付した動画は4年以上前のものだ。

この発言は、ギリシャの記者の次の質問への回答だった。

「委員長は、COVID-19に対するワクチン接種が非常に重要であること、そしてすべての人にワクチンを接種してもらうよう説得することも非常に重要だと、何度も強調されました。この点についてお聞きするのは、昨日ギリシャ政府が、ワクチン接種を望まない60歳以上のすべての人に対し、1月中旬まで100ユーロの罰金を科すことを決定したからです。COVID-19ワクチンの義務化について、あなたのお立場をお聞かせください」

この質問に対し、フォン・デア・ライエン氏は次のように答えた後、44秒間の拡散した動画の内容を話している。

「まず第一に、これは純粋に加盟国の権限に属する事項です。したがって、その点を尊重し、私が何らかの勧告を行う立場にはありません。私個人の立場を聞かれるとすれば、2〜3年前には、今私たちが目にしているような事態が起きるとは、想像もしなかったでしょう。しかし現実として、この恐ろしいパンデミックがあり、命を救うワクチンが存在するにもかかわらず、それがあらゆる場所で十分に活用されていない。そのことが甚大な健康上のコストをもたらしています。数字を見てみると、EU域内の成人の77%がワクチン接種済みです。あるいは全体で見ると、66%となっています 」

つまり、拡散した動画はワクチンの義務化に関する質問のうち、フォン・デア・ライエン氏が「これは純粋に加盟国の権限に属する事項」「私が何らかの勧告を行う立場にはない」などの前置きをした部分をカットし、EUがワクチンの接種義務化を検討しているかのように見せている。

EUとしての接種義務化はない

欧州委員会の動画でフォン・デア・ライエン氏が述べている通り、公衆衛生政策は加盟各国の権限であり、EUが一律に義務化することはできない。

EUの機能に関する条約(TFEU)第168条に、次のような記載がある。

「EUの行動は、加盟国が自国の保健政策を定め、保健サービス及び医療を組織・提供する責任を尊重しなければならない」(EUR-Lex”Consolidated version of the Treaty on the Functioning of the European Union - PART THREE: UNION POLICIES AND INTERNAL ACTIONS - TITLE XIV: PUBLIC HEALTH - Article 168 (ex Article 152 TEC)”)

2026年4月21日現在、EUがワクチン接種の義務化を進めているという公的な発表も、報道もない。

判定

「ヨーロッパで今、強制ワクチン接種が強引に進められている」と主張する動画付きの投稿が拡散した。添付動画の元は、コロナ禍の2021年12月の記者会見動画で、フォン・デア・ライエン氏の発言は文脈を無視して恣意的に切り抜かれている。よって、誤りと判定する。

あとがき

Xで、外国語の投稿が自動的に和訳されて表示されるようになったため、海外の偽情報が日本でも拡散しやすくなっています。注意が必要です。

出典・参考

European Commission ”Press conference by Ursula von der Leyen, President of the European Commission, and Stella Kyriakides, European Commissioner, on facing current and new COVID-19 challenges”.https://audiovisual.ec.europa.eu/en/media/video/I-215059?lg=INT,(閲覧日2026年4月21日).

EUR-Lex.”Consolidated version of the Treaty on the Functioning of the European Union”.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex%3A12012E%2FTXT,(閲覧日2026年4月21日).

EUR-Lex.”Consolidated version of the Treaty on the Functioning of the European Union - PART THREE: UNION POLICIES AND INTERNAL ACTIONS - TITLE XIV: PUBLIC HEALTH - Article 168 (ex Article 152 TEC)”.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:12008E168(閲覧日2026年4月21日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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