田母神氏「発がん性物質を含んでいるため米国で発売禁止の除草剤を日本が引き受けている」? 禁止されていない【ファクトチェック】

田母神氏「発がん性物質を含んでいるため米国で発売禁止の除草剤を日本が引き受けている」? 禁止されていない【ファクトチェック】

田母神俊雄・元航空幕僚長が「発がん性物質グリホサートを含んでいるため、ラウンドアップという除草剤は米国で発売が禁止されたのに、日本ではグリホサートの含有基準が大幅に緩和されている」などと主張しましたが、不正確です。ラウンドアップの主成分グリホサートはアメリカで禁止されておらず、日本での緩和は一部にとどまります。

検証対象

2025年1月25日、 「発がん性物質グリホサートを含んでいるため米国で発売が禁止されたラウンドアップという除草剤を日本が引き受けている」などと主張する田母神氏の投稿がXで拡散した。

田母神氏は、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授・鈴木宣弘氏がネットで発信した内容だと前置きしたうえで、グリホサートの危険性について述べている。鈴木氏は、食料安全保障や農業政策に関する研究で知られる農業経済学者で、輸入小麦製品からの残留グリホサートに懸念を示し、国産品への切り替えを提唱している。しかし、彼の主張は誤りだとする指摘もある。

投稿は2月6日現在、3600回以上リポストされ、56.9万を超える表示がある。投稿に対して「アメリカの植民地ですね」「子供の口には入れたくない」といったコメントが寄せられる一方、デマを指摘する声もある。

検証過程

グリホサートはアメリカで禁止されているのか?

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、化学物質や農薬などを規制する米国環境保護庁(EPA)サイトを確認した。ラウンドアップの主成分であるグリホサートのページには、1974年にグリホサートが除草剤として国内で初めて登録されて以降の経緯が記されている。

概説すると、次の通りだ。

2020年2月、EPAは「適正に使用する限りグリホサートは安全」と評価。しかし、EPAのリスク分析手法や環境影響評価に問題があるなどとして、絶滅危惧種法違反を主張する原告が提訴した。

同年3月、裁判所はEPAの評価の一部を無効とし、より厳格な環境影響評価を求める判決を下した。

2025年1月14日現在、EPAは再評価を進めているが、グリホサートの使用は引き続き認められている。(※サイト下部に「Last updated on January 14, 2025 (最終更新2025年1月14日)」と表示がある。)

日本ではグリホサートの残留基準値が大幅に緩和されたのか?

JFCが厚生労働省サイトで「グリホサート 基準 改正」で検索したところ、「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」と題した通知(文書)が複数ヒットした。

2017年12月25日に発布された通知によると、グリホサートの残留基準値について定められた食品172種類のうち、残留基準値が緩和されたのは小麦やそば、ヒマワリの種子など36種類の食品で、厳格化されたのは35種類だ。最も大きく緩和されたのはヒマワリの種子やべにばなの種子で、改正前0.1ppmから改正後は40ppmに基準値が引き上げられた。

EUでハチミツに含まれる残留農薬のガイドラインが設けられたことを受け、2021年12月に発布された通知では、ハチミツに対する基準があらたに設けられたが、それ以外の食品については変更がなかった。

つまり、2017年以降、グリホサートの残留基準値は改正され、中には緩和された食品もあるということだ。ここは田母神氏の主張と矛盾がない。

基準値が改正された理由

本件の所管は、2024年4月以降、厚生労働省から消費者庁食品衛生基準審査課に移管されている。JFCは、基準値の改正理由について、消費者庁に取材した。

「厚生労働省では、内閣府食品安全委員会の食品健康影響評価、農薬の作物残留試験結果、国民の食品の摂食量データ等の科学的な知見をもとに、健康に影響がないよう基準を設定した。輸入食品については、食品の安全基準を定める国際機関コーデックス委員会の基準も踏まえている」

「どんな化学物質も摂取量が多いほど健康リスクが高まるため、一生毎日食べても健康への悪影響がないと考えられる量(ADI:一日摂取許容量)を算出し、それをもとに基準を決定している」

「基準はただ緩めているのではなく、食品の摂取量や農薬の使用状況、最新の科学的知見に基づき、時代にあった基準へとアップデートするために改正している」

判定

アメリカでは、ラウンドアップの主成分グリホサートの使用は禁止されておらず、現在も販売されている。日本では、グリホサートの食品中の残留基準値の一部は確かに緩和されているが、科学的知見に基づいて算出された健康への悪影響がないと考えられる基準の範囲内であり、「米国で売れなくなったものを我が国が引き受けている」という事実はないことから、不正確と判定した。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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