パンデミック条約でワクチン強制接種? 繰り返し否定されている誤情報【ファクトチェック】

パンデミック条約でワクチン強制接種? 繰り返し否定されている誤情報【ファクトチェック】

感染症の世界的な流行(パンデミック)への対策を強化する「パンデミック条約」をめぐり、「ワクチンを強制接種させる」などの情報が繰り返し拡散していますが、誤りです。条文案にそうした文言はなく、世界保健機関(WHO)などが繰り返し否定しています。

検証対象

2025年4月14日、「ヤバいって WHOのパンデミック条約がもう来月採択へ。 条文の原文には 『加盟国には監視・警戒システムの強化を要請』 『加盟国はワクチンの定期接種を強化・実施する』などが記載 まさに監視・ワクチン接種強制社会への下準備」という投稿が、「『パンデミック条約』条文案を大筋合意 WHO 来月の採択を目指す」と伝えるNHKニュースの画像と共に拡散した。

4月30日現在16万を超える閲覧があり、リポストは2200以上。「WHO脱退しないとね」「憲法違反じゃないの?」といったコメントのほか「強制接種、義務化はないと思います。そんなの無理です」といった指摘もある。

検証過程

パンデミック条約とは

WHO加盟国が、感染症対策を世界的に強化する目的で議論している条約。感染症が発生した際の情報共有や、ワクチンの分配などを話し合っているが、ワクチンに関する技術移転などをめぐって先進国と途上国の溝がなかなか埋まらなかった(NHKロイター)。

2025年4月に加盟国が条文案に原則的に合意。WHOは5月の年次総会での採択を目指している(WHO「WHO Member States conclude negotiations and make significant progress on draft pandemic agreement」)。

パンデミック条約の内容

条文案の概要は外務省のサイトで日本語で確認できる(外務省「WHOパンデミック条約に関する提案の概要」)。また、原文(英語、2024年5月27日付)はWHOサイトにある。

条文案はWHOと各国の議論の中で変化していく。今回合意した条文案(英語、2025年4月12日付)は、米メディアPOLITICOが入手し、記事の中で公開している。1年前の草案との変更点は一部にとどまる。ワクチンの技術移転に関する項目などがより具体的になっている。

条文案は、パンデミック条約の目的について、第2条で「パンデミックを予防し、準備・対応すること」と定めている。また、第3条では条約の原則とアプローチについて、国家の立法や法の執行に関する主権の尊重などを掲げている。各国にワクチン接種や監視を強制する内容ではない。

具体的な対策は第2章4-20条に記されている。加盟国は、それぞれの国の事情やその国の法律に従って、感染症の早期発見や定期的な予防接種の実施など、感染拡大を防ぐための措置に努めるというものだ。国民の監視やワクチンの強制接種に関する条文や文言はない。

外務省「ワクチンの強制接種や言論統制などない」

日本の外務省はウェブサイトで「政府間交渉会合で議論を重ね、2025年4月の会合で交渉が妥結し、条約がまとまりました」と述べ、交渉過程を以下のように説明している。

「交渉過程において、ワクチンの強制接種や言論統制など、国家主権を制限したり基本的人権の侵害について懸念を生じさせたりするような内容に関する議論が行われたことはなく、そのような内容は交渉妥結を受けた条文案にも含まれていません」(外務省「いわゆる『パンデミック条約』の交渉」)

テドロス事務局長「嘘や陰謀論が障害になっている」

2024年2月、WHOのテドロス事務局長は、世界政府サミットで「嘘と陰謀論が条約の障害になっている」と演説。「WHOが各国の主権を奪う」「各国にロックダウンや接種義務を課す権限をWHOに与えることになる」などの偽情報が拡散していると指摘した(WHO「WHO Director-General's speech at the World Governments Summit」)。

これまでもUSA TODAYやPOLITIFACTなどのファクトチェック団体が、WHOが強い権限を持ったり、加盟国にワクチン接種を強制したりするという情報を検証。加盟国は独自のアプローチを決める権利を有しているとして「誤り」だとしている(USA TODAYPOLITIFACT)。

判定

「パンデミック条約は監視・ワクチン接種強制」という情報は、誤り。条約の目的に入っておらず、条文案に国民の監視やワクチンの強制接種などの文言はない。何度も拡散している誤情報で、WHOのテドロス事務局長も否定している。

あとがき

パンデミック条約については、2024年のWHO年次総会の際にも、国家の主権を奪うものだ、ワクチン接種の義務化を強制するものだという主張が拡散しました。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、これまでも同様の情報を検証しています。参考にしてください。

パンデミック条約でワクチンを強制接種?【ファクトチェック】
感染症の世界的大流行(パンデミック)への対策を強化する「パンデミック条約」をめぐり、「ワクチンを強制接種させる条約だ」という言説が拡散しましたが、誤りです。条約案にはワクチンの強制接種を求める文言はありません。 検証対象 世界保健機関(WHO)で議論が進められているパンデミック条約をめぐって、「ワクチンの強制接種を可能にする」などという言説が多数拡散した(例1,2,3)。 日本ファクトチェックセンター(JFC)はパンデミック条約に「ワクチンを強制接種させる」内容が含まれているか検証した。 米ファクトチェック団体のPolitiFactも同様の言説を検証して条文案などをもとに「誤り」と判定している。 検証過程 パンデミック条約とは WHOの加盟国が議論している条約。感染症が発生した際の情報共有やワクチンの確保などによる国際的な連携の強化を目的としている。 2024年5月末のWHO年次総会での採択を目指して、2年以上かけて交渉してきたが、ワクチンの公平な供給などをめぐり、先進国と途上国の対立が大きく、交渉はまとまらなかった。WHOはこの条約について最

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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WHOが各国へ農業の違法化を呼びかけた? そのような事実はない【ファクトチェック】

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小泉進次郎防衛相が「年金支給は80歳から」と発言? 誤情報の再拡散【ファクトチェック】

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

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