全国の知事がワクチンを接種していないのに、国民には打たせている? 高齢者ら優先だった時期のデータで歪曲【ファクトチェック】

全国の知事がワクチンを接種していないのに、国民には打たせている? 高齢者ら優先だった時期のデータで歪曲【ファクトチェック】

「全国の知事がワクチンを接種していないのに、国民には打たせている」という情報が拡散しましたが、誤りです。投稿に添付された「全国知事のワクチン接種状況とその理由」という表は、高齢者らが優先接種していた時期のもので、知事たちはその後接種しています。

検証対象

2025年5月4日、「全国の知事がワクチン接種をしていないのに、国民には打たせている。意味が分かりません」という投稿が拡散した。「全国知事のワクチン接種状況とその理由」という題名の表も添付されている。

2025年5月23日現在、この投稿は4774件以上リポストされ、表示回数は189万回を超える。投稿について「陰謀を知っているから打たなかった」「強制的に接種させるべき」というコメントの一方で「切り取り」という指摘もある。

検証過程

表は2021年の記事から

拡散した表の下には「AERAdot.」とある。「AERAdot 知事 ワクチン」でGoogle検索すると、2021年5月15日に公開された記事が見つかる(AERA DIGITAL「【独自】ワクチン接種済は誰? 小池、吉村氏ら47都道府県知事アンケート回答を全公開」)。

記事は、医療従事者や高齢者が優先して新型コロナワクチンを接種していた2021年5月ごろ、一部自治体の首長が高齢者よりも先んじてワクチン接種をしていることが判明したことを報じている。

一部首長の接種が世間の批判を浴びたことを受け、各都道府県の知事にワクチンを接種したかどうかの緊急アンケートを取っている。回答を一覧にしたのが今回拡散した表だ。

つまり、拡散した表はまだ医療従事者や高齢者が優先的にワクチンを接種し、一般の接種が始まっていない2021年5月ごろのアンケートだ。

その後、表の知事は全員接種

2021年5月段階で接種していなかった知事たちはその後ワクチンを接種したのか。報道や本人のX、ブログなどで確認すると、表に出てくる全知事がワクチンを接種していた。

産経新聞「北海道の鈴木知事 1回目のワクチン接種 道民にも呼びかけ」

産経新聞「青森県知事がコロナ感染 発熱し自宅療養」

日経新聞「達増拓也・岩手知事がコロナ感染 知事公館で療養」

毎日新聞「新型コロナ ワクチン3回目、村井知事が接種 モデルナ社製 /宮城」

毎日新聞「新型コロナ 県の3回目集団接種始まる 初日、知事ら340人 秋田「自治体より早く、ありがたい」/秋田」

朝日新聞「吉村・山形県知事がコロナ感染」

産経新聞「コロナ感染の福島県知事復帰 『リスクゼロはない』」

朝日新聞「3回目のワクチン接種、茨城知事「2回目の6カ月後に」」

下野新聞「福田知事が5回目ワクチン接種 県民に年末前の接種呼びかけ」

Amebaブログ「本日、知事自ら4回目のワクチン接種を完了〜対象となる県民の皆さん、ぜひ1日も早いワクチン接種を!」

日本経済新聞「埼玉知事が4回目ワクチン、第8波へ早期接種訴え」

日本経済新聞「小池都知事が5回目ワクチン 『感染後も早期接種を』」

千葉日報「熊谷知事5回目接種 新型コロナ『積極的にワクチンを』」

毎日新聞「新型コロナワクチン 黒岩知事の接種、波紋 SNSに批判的書き込み /神奈川」

日本経済新聞「新潟県知事、コロナ5回目とインフルのワクチン同時接種」

判定

拡散した表は2021年5月段階の回答をまとめたものであり、表に名前がある知事たちはその後、全員ワクチンを接種している。よって誤りと判定した。

検証:木山竣策
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

自民・小泉進次郎氏「立憲民主・野田代表が農林水産予算10倍と発言」? 新規就農支援に限った話【#参院選ファクトチェック】

自民・小泉進次郎氏「立憲民主・野田代表が農林水産予算10倍と発言」? 新規就農支援に限った話【#参院選ファクトチェック】

自民党・小泉進次郎農林水産相が、立憲民主党・野田佳彦代表が「農水予算を10倍にする」と発言したかのような投稿をしましたが、誤りです。野田代表の発言は農水予算全体ではなく、新規就農支援に限定した話で、立憲民主党の公約にも明記されています。 検証対象 自民党の小泉進次郎農林水産相が立憲民主党の野田佳彦代表の参院選での発言に関する記事のスクリーンショットと共に「農林水産予算を10倍???23兆円にするってことですよね…。やっぱり野党は無責任」とXに投稿した。 投稿には、NHKニュースがXに投稿した「【ノーカット動画】参議院選挙 公示 各党党首らは何を訴えた」のリンクが添付されている。 2025年7月8日現在、この投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は130万回を超える。投稿について「消費税を5%から8%に上げた立憲野田は許さない」「野党は無責任。おっしゃる通り」というコメントの一方で「農業人口増やす為の予算を10倍にしたいんだろ」という指摘もある。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は小泉氏が投稿したように野田氏が農水予算を10倍にすると発言したのか

By 木山竣策
写真に一言「気持ち悪すぎだろ」と書くだけで拡散する偽・誤情報 何をどう検証したのか【ファクトチェックの舞台裏】

写真に一言「気持ち悪すぎだろ」と書くだけで拡散する偽・誤情報 何をどう検証したのか【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)は設立から2年半あまり、700本を超えるファクトチェック記事を公開してきました。一方で、検証を進めたものの、記事として公開に至らなかったものも数百本あります。日本でもファクトチェックに取り組む組織や個人が増えつつあります。そうした流れの中で、私たちは検証の舞台裏や、判断が難しいケース、世界で行われている新たな手法などを紹介するコラムを始めることにしました。 各コラムでは「どう検証したか」「どこで迷ったか」「どんな工夫をしたか」「なぜ掲載を見送ったか」など、編集の舞台裏を紹介します。現場の悩みも交えながら、やわらかくお伝えできればと思います。情報を見極めるヒントになれば幸いです。 第1回は、投稿の内容があいまいな場合、どのように検証対象とするかについて書きます。 曖昧な言葉と闘うファクトチェックの裏側 たとえば、「また、ワクチンで医師と看護師が1か月で〇〇人死亡。危険」という投稿があったとします。これは新型コロナワクチンの危険性を訴えているようにも読めますが、「新型コロナ」という言葉自体は使われていないため、具体的に何を

By 藤森かもめ(Kamome Fujimori)
「期日前投票は不正し放題」「鉛筆だと書き換えられる」? 選挙のたびに拡散【#参院選ファクトチェック】

「期日前投票は不正し放題」「鉛筆だと書き換えられる」? 選挙のたびに拡散【#参院選ファクトチェック】

参院選の開始とともに、投票のなりすましや書き換えなどの選挙不正を疑う投稿が拡散しています。これらは選挙のたびに広がる偽・誤情報で、根拠がないか誤った根拠に基づいています。 検証対象 選挙に不正があるという投稿は今回の参院選でも多数広がっている(例1,2)。 「期日前投票は不正し放題」「票を数える機械にからくりがある」「鉛筆で書かせるのは書き換えるため」など、不正の根拠とされる情報は様々だが、その多くはこれまでに何度も投稿されているものだ。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)ではこれまでにも選挙不正に関するファクトチェックを実施している。以下、それらを引用しつつ検証する。 開票システム「ムサシ」による不正? 「開票システム『ムサシ』が自民党と繋がっていて、票を数える際に操作している」というような情報は今回も拡散している。以前は「筆頭株主は安倍晋三元首相」という形で広がっていた。 株式会社ムサシの有価証券報告書を確認すると、筆頭株主は上毛実業株式会社。投票用紙の読取分類機、計数機、交付機、投票箱の中で自然に開くオリジナル投票用紙、投開

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
党首討論CM中に石破首相がアナウンサーを恫喝? 恣意的な切り貼り【#参院選ファクトチェック】

党首討論CM中に石破首相がアナウンサーを恫喝? 恣意的な切り貼り【#参院選ファクトチェック】

石破茂首相が党首討論でテレビ出演した際、CM中に「舐めない方がいい」とアナウンサーを恫喝したという投稿が拡散しましたが、誤りです。添付された動画は恣意的に切り取られています。実際は、石破首相が団塊世代の高齢化が社会保障費の負担増になると語っている場面です。 検証対象 7月1日、党首討論で日本テレビ「news every」に出演した石破首相が、CM中にアナウンサーを恫喝したという動画つきの投稿が拡散した。 7月7日現在、投稿は2.7万回以上リポストされ、表示回数は3100万回を超える。投稿には「CM中に素性が露わになったようで」や「ネットと言うツールが発達して良かった✋これが無かったことにされるところだった!」のほか、「この切り取り方は悪質」という指摘もある。 検証過程 アナウンサーに対して「舐めないほうがいい」? 7月1日、石破首相は日本テレビの生放送番組「news every」の党首討論に出演した。拡散した動画はこの番組の一部で、10秒と短い。 この動画では、石破氏が「あんまり舐めない方がいいですよ、今50代の人達ね」と述べた後にカットが変わり

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月22日(火)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0722.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)