ビル・ゲイツ氏が気候変動対策から撤退? 撤退ではなく新たな方法論を提言【ファクトチェック】

ビル・ゲイツ氏が気候変動対策から撤退? 撤退ではなく新たな方法論を提言【ファクトチェック】

マイクロソフト社の共同創業者ビル・ゲイツ氏が、気候変動対策から撤退するかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。ゲイツ氏は「気候変動は重要な問題だが、気温上昇の抑制を最優先にするのではなく、人類の福祉を向上する施策の一環と位置付けるべき」と述べており、気候変動対策からの撤退を表明したという事実はありません。

検証対象

拡散した言説

2025年10月30日、「ビル・ゲイツ、気候変動活動(気候変動デマとも言う)撤退を宣言」などの文言とともに、ゲイツ氏のインタビュー動画が拡散した。

検証する理由

11月4日現在、投稿は4300回以上リポストされ、表示は184.3万件を超える。

投稿には「気候変動対策を最優先すべきではない、という位置づけを表明した事が撤退にはならないだろ」などの指摘もあるが、「気候変動ビジネスが思いのほか金にならんかったんやね」「ビル・ゲイツは、二酸化炭素を減らすには牛のゲップをやめさせる必要があると言って、代替肉の培養を進めようとまでしたヤツだ。この急旋回はかなり不自然だ」など同調するコメントも多い。

検証過程

添付動画はゲイツ氏インタビューの切り抜き

拡散したのは、ネットメディアTotal News Worldのポストだ。添付動画は46秒、ゲイツ氏がインタビューに答えている。全文を日本語で書き起こすと次の通りだ。

ゲイツ氏「気候(変動)は非常に重要な問題だ。非常に悪い結果を避けるのに十分なイノベーションがある。私たちは、最善の目標である1.5℃、あるいは2℃すら達成できないだろう。そして、それを最小限に抑えようとするとき、私たちは、すべてが気候のためだけにあるのではなく、全体的な人類の福祉という観点からそれを位置づける必要がある」

司会者「あなたを強く支持し、あなたも強く支持してきた気候活動家たちがこれを読み、そして、もしグレタ・トゥーンベリがこれ(ゲイツ氏のブログ)を読んで、心の中で『大変だ、彼はこれまでの主張を撤回しているように見える』と言っているとしたら、あなたは彼女に何と伝えますか?」

テロップのロゴから、動画は米CNBCの番組だと分かる。

「1.5℃」「2℃」の目標とは

この中で語られている「1.5℃」や「2℃」とは、2015年に採択された気候変動に関する国際的な枠組み「パリ協定」で定められた目標だ。

世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて「2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことなどを定めている(資源エネルギー庁”今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~”)。

ゲイツ氏の発言の主旨は

Googleで「CNBC Bill Gates’ new climate message」と検索すると、2025年10月28日に配信されたCNBCの記事が表示される(CNBC”Bill Gates softens ‘Climate Disaster’ approach, says strategy needs to shift: Interview”)。

記事は、11月10日からブラジルで開催される COP30 を前にした、ゲイツ氏へのインタビューだ。「あまりにも多くの資源が排出量削減や環境に集中しており、人々の生活を改善することや、病気や貧困を抑えることにもっと資金を投じるべきだ」とゲイツ氏が呼びかけたと伝えている。

記事には7分57秒のインタビュー動画が付いている。拡散した動画はインタビューの1:10〜1:40のゲイツ氏の発言と、4:37-4:53の司会者の発言を切り出したものだ。内容は改変されていない。

7分57秒の全体を見ると「トランプ政権が(パリ協定から)手を引いたことには大変失望した」や「この問題にすべての国が協力して取り組むことが重要だ」などと気候変動対策の重要性を語っている部分もある。一方で、重要な社会課題として貧困や疫病対策などを挙げている。

その文脈の中で、拡散した動画にもあるように、気候変動の対策を「1.5℃」などの気温目標だけに着目するのではなく「全体的な人類の福祉という観点からそれを位置づける必要がある」と主張している。

拡散した動画の後半部分で、司会者の「(環境活動家の)グレタ・トゥーンベリに何と伝えるか」という質問に対して答える場面では、次のように話している。

「『目的は、人類の生活を改善することではなかったのか?』と言うでしょう。(中略)もし、ワクチンをすべて止めて、その分の支援で気温が0.1度下がったとして、それが賢明な選択と言えるでしょうか?我々はそういうことを問うていかねばなりません。つまり、私は環境活動家ですが、同時に『子どもの命を守る活動家』でもあります」

つまり、ゲイツ氏は気候変動による地球温暖化を否定しているわけでも、気候変動対策からの撤退を宣言したわけでもない。「人類の生活を改善する」という広い視点に立ち、多角的な対策が必要ではないかと主張している。

波紋を呼んだゲイツ氏のブログ

「ゲイツ氏が気候変動対策から撤退した」などの主張は、現在、世界中で拡散している。そのきっかけとなったが、CNBCのインタビューでも言及されているゲイツ氏のブログ記事だ。10月28日に公開された。

その中でゲイツ氏は「気候変動は深刻だが、文明を終わらせるものではない」と投稿。「気温を最良の指標とするよりも、健康や繁栄を強化することによって気候耐性を高める方がより効果的だ」と述べた(GatesNotes”Three tough truths about climate”)。

ゲイツ氏は気候変動に関して「地球の未来のため僕が決断したこと」などの著作もあり、これまで地球温暖化対策に積極的に関わってきた。ゲイツ氏のブログは驚きをもって受け止められ、

トランプ米大統領は「この問題に関してビル・ゲイツが自分が間違っていたと認めた」などと自身のソーシャルメディアに投稿した(@realDonaldTrump Oct 30, 2025)。

しかし、このブログの中でもゲイツ氏は「気候変動は非常に重要な問題であり、マラリアや栄養不良といった他の問題と同様に、解決しなければならない。気温上昇を0.1度でも防ぐことには大きな意義がある。安定した気候こそが人々の生活を向上させるための土台になるからだ」と述べている。

CNBCのインタビューでの発言と同様、気候変動対策から撤退したわけではなく、総合的な対策を優先させる方針を示している。

CNBCの司会者も番組の中で「ゲイツ氏が過去に述べたコメントの一部に対するある種の転換と言えるかもしれません」と指摘する一方で、「実際に過去のコメントを遡って確認したところ、パリ協定についてさえ、ゲイツ氏は『達成不可能な目標だ』と当時から考えていました」と述べている。各メディアもゲイツ氏の発言を取り上げている。

CNNは「ほんの数年前に見せた同氏の論調とは大きく異なる」と指摘し、専門家の「発展途上国にとって、気候危機ほど大きな脅威はない」という批判的なコメントを掲載している(CNN”ビル・ゲイツ氏、気候変動対策について驚くべき主張を展開”)。

ニューヨーク・タイムズは「急速に温暖化する世界がもたらす課題について、ゲイツ氏の考えを大きく再構築するものと言える」と指摘し、専門家の「気候変動対策の努力を破壊することだけを望んでいる者たちによって、ゲイツ氏の言葉は間違いなく悪用される」というコメントを掲載した(New York Times”Bill Gates Says Climate Change ‘Will Not Lead to Humanity’s Demise’”)。

これらの報道でもゲイツ氏が人間活動による地球温暖化などを否定したり、気候変動対策から「撤退する」と報じたりはしていない。

判定

ビル・ゲイツ氏が気候変動対策の活動から撤退を表明したかのような投稿がXで拡散した。ゲイツ氏は「気候変動は重要な問題だが、気温上昇の抑制を最優先にするのではなく、人類の福祉を向上する施策の一環と位置付けるべき」と表明しており、気候変動対策からの撤退を表明したわけではない。多角的な対策を提言している。CNBCのインタビューでもゲイツ氏は「私は環境活動家だが、同時に『子どもの命を守る活動家』でもある」とも述べている。よって、ミスリードで不正確と判定する。

出典・参考

CNBC.”Bill Gates softens ‘Climate Disaster’ approach, says strategy needs to shift: Interview”.https://www.cnbc.com/2025/10/28/bill-gates-says-countries-need-to-rethink-their-climate-strategy.html,(閲覧日2025年11月5日).

GatesNotes.”Three tough truths about climate”.https://www.gatesnotes.com/home/home-page-topic/reader/three-tough-truths-about-climate,(閲覧日2025年11月5日).

Donald Trump. Turh Social @realDonaldTrump Oct 30, 2025.https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/115459641125796285,(閲覧日2025年11月5日).

CNN.”ビル・ゲイツ氏、気候変動対策について驚くべき主張を展開”.https://www.cnn.co.jp/business/35239794.html,(閲覧日2025年11月5日).

New York Times.”Bill Gates Says Climate Change ‘Will Not Lead to Humanity’s Demise’”.https://www.theguardian.com/us-news/2025/oct/28/bill-gates-climate-crisis-pivot,(閲覧日2025年11月5日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

バイデン元大統領が死去? エイプリルフールネタが日本語で拡散【ファクトチェック】

バイデン元大統領が死去? エイプリルフールネタが日本語で拡散【ファクトチェック】

米国のバイデン前大統領が死去したという情報が拡散しましたが、誤りです。2026年4月3日時点でそのような情報や報道はありません。Xの投稿が自動で翻訳されるようになったことで、現地のエイプリルフール投稿が日本語で拡散しました。 検証対象 拡散した投稿 4月2日、「バイデン元大統領亡くなったのかよ、、、」という投稿が拡散した。投稿には「速報: 元アメリカ合衆国大統領ジョー・バイデンが83歳で死去」と書かれた投稿のスクリーンショットが添付されている。 検証する理由 4月3日現在、この投稿は360件以上リポストされ、表示回数は496万回を超える。投稿には「まあ年齢的にも仕方ないよね」「まさか、バイデン」というコメントの一方で「こういうのはダメだよ」という指摘もある。 検証過程 拡散した画像はエイプリルフール投稿 拡散している投稿の画像は、別の投稿者によるXの投稿をスクリーンショットしたものだ。画像に表示されている日時は、日本時間の4月2日午前3時になっている。 しかし、この元の投稿者は、直後のリプライ欄に「today's date Wednesd

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
高市首相が長崎に原爆を投下したパイロットの墓に献花? 訪問先は無名戦士の墓【ファクトチェック】

高市首相が長崎に原爆を投下したパイロットの墓に献花? 訪問先は無名戦士の墓【ファクトチェック】

高市早苗首相が長崎に原爆を投下したパイロットの墓に献花したと主張する動画付きの投稿が拡散しましたが、誤りです。動画は、2026年3月20日、日米首脳会談で訪米した高市首相が、ワシントン郊外のアーリントン国立墓地で無名戦士の墓に献花した様子を映したものです。拡散した投稿が言及した、長崎に原爆を投下したパイロットはマサチューセッツ国立墓地に埋葬されています。 検証対象 拡散した言説 2026年3月25日、「日本の高市首相が長崎に原爆を投下したパイロットの墓に献花した。おぞましい恥辱だ」などと主張する動画付きの投稿が拡散した。4月2日現在、このアカウントは凍結されている。 検証する理由 3月30日現在、投稿は2000回以上リポストされ、表示は210万件を超える。 日本語でも拡散しており、影響が大きいため検証する(例1、2)。 検証過程 添付動画の内容は 拡散した動画は47秒。3月20日(日本時間21日)、高市首相がワシントン郊外のアーリントン国立墓地を訪れて献花をする動画の隅に、戦闘機から爆弾が投下される別の映像を重ねている。 兵士の掛け声や

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は4月25日(土)午前10時~11時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0425.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)