太陽光発電で地球温暖化が進む? 大きな抑止効果【ファクトチェック】

「太陽光発電で温暖化が進む」という言説が拡散しましたが、誤りです。国連は2025年の報告書で太陽光発電を極めて大きな地球温暖化抑止効果があると評価し、日本の資源エネルギー庁も温室効果ガスを排出しない重要な低炭素のエネルギー源と位置づけています。施設によって局所的にわずかな気温上昇があったとしても「温暖化とは別物」と専門家も指摘しています。
検証対象
7月26日、「山に太陽光パネルがあるとどうなる?地球温暖化が進む」という投稿がXで拡散した。投稿には大量の太陽光パネルが並ぶ画像も添付されている。

7月29日午前9時時点で、表示件数は2000万件を超えたが、同日18時時点で投稿は削除されていた。
「異常な暑さを記録した地点と、太陽光発電施設の場所が一致する」など、連日の高温と太陽光発電との関連を示唆する言説は、他にも多数拡散している(例1、例2)。
太陽光発電で地球温暖化は進むのか、検証する。
検証過程
日本政府・国連は太陽光発電の温暖化抑止効果を高く評価
太陽光発電は、シリコン半導体などに光が当たると電気が発生する現象を利用し、太陽光を電気に変換する発電方法だ(資源エネルギー庁”再生可能エネルギーとは『太陽光発電』”)。
政府は、風力・地熱発電などとならび、温室効果ガスを排出しない重要な低炭素エネルギー源だと位置づけ、普及を急いでいる(資源エネルギー庁”再生可能エネルギーの特徴”)。
国連も、2025年7月の報告書で、太陽光発電は極めて大きな地球温暖化抑止効果があると評価している。(United Nations”Seizing the moment of opportunity: Supercharging the new energy era of renewables, efficiency, and electrification”p13)。
太陽光発電による局所的な気温上昇と温暖化は別
拡散した投稿は「山に太陽光パネルがあると地球温暖化が進む」「異常な高温を記録した場所と太陽光発電施設の場所が一致する」などと主張している。
たしかに、大規模な太陽光発電施設が、周辺の局所的な気温にわずかながら影響を与える可能性は、複数の研究で示されている(Greg A. Barron-Gafford, Rebecca L. Minor, Nathan A. Allen, Alex D. Cronin, Adria E. Brooks & Mitchell A. Pavao-Zuckerman”The Photovoltaic Heat Island Effect: Larger solar power plants increase local temperatures”など)。
太陽光発電施設による局所的な気温上昇は、地球温暖化につながるのか。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、気候変動の専門家で東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏に取材した。江守氏は次のように温暖化への影響を否定した。
「太陽光パネルの設置により、地表面の熱の反射率が下がったり、植物の蒸散作用(植物が根から吸い上げた水分を、葉の表面から水蒸気として空気中に放出する働き)が失われたりすると、局所的に気温が上昇する可能性はある。しかし、その影響は施設の近くに限られる。地球全体の温暖化とは全く別物だ」
フランスのファクトチェック団体Science Feedbackも、太陽光パネルの設置で局所的に温度が上昇することがあると認めつつも、温度の上昇は一般的な建材と同程度であり、温室効果ガス排出量の減少による地球温暖化を抑制する効果が高いと伝えている(Science Feedback” Can solar panels warm their surroundings? yes, but so can other materials”)。
CO2排出、太陽光発電は火力の10分の1以下
太陽光発電は低炭素だが、太陽光パネルの製造や設置、廃棄などの過程で二酸化炭素(CO2)を排出するという批判がある。
CO2は、モノが工場などで製造される時だけでなく、原材料を集める時や、消費者によってモノが使用されている時、廃棄される時にも排出される。モノが生まれてから廃棄されるまで一連の流れで排出されるCO2をすべて含めて考えよう、というのが「ライフサイクルCO2」だ(資源エネルギー庁”「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点”)
ライフサイクルCO2を比較すると、太陽光発電は、石炭や石油による火力発電と比べて10分の1以下だ(電力中央研究所”日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価”)。
江守氏は、ライフサイクルCO2について次のように述べた。
「森林を伐採して太陽光パネルを設置すれば、たしかにその分CO2排出量は増える。しかし、太陽光発電施設がなかったら使っていたであろう火力発電の稼働によって生じるCO2の排出量と比較すべきだ」
施設設置による環境影響は軽視できない
この他にも、太陽光発電施設には、設置場所周辺の土壌や生物多様性に影響を及ぼすという批判がある。OECDの再生可能エネルギーに関する2024年の報告書によると、確かに太陽光発電施設の建設は、野生生物の死傷や生息地の損傷につながり、生物多様性の低下を引き起こす恐れがあるという(OECD ” Mainstreaming Biodiversity into Renewable Power Infrastructure”p39)。
江守氏は周辺環境への影響については、次のように述べた。
「太陽光発電施設を設置する場所によっては、そこに生息する希少種の生態系への影響や、開発による地形変更による土砂崩れ、景観の変化で観光客が減るなど、いろんなリスクがありうるので、設置場所は慎重に判断し、住民に丁寧に説明しなければならないことは確かだ。今後の有効な設置場所として、農地が注目されている。背の高い太陽光パネルを隙間をあけて設置すると、パネルの下で農業しながら発電ができ、日陰ができるので農作業もしやすいなどメリットがある」
また、太陽光発電への批判が広がる現象には次のように指摘した。
「石炭火力発電では、たとえばインドネシアなどの採掘地で露天掘りによる深刻な環境破壊が進んでいる可能性があるが、私たちの目の届かない遠い場所で起きているため、気づきづらい。一方、太陽光パネルは私たちの生活圏の近くに設置されることが多く、景観や環境への影響が可視化されやすい。このため反対の声が上がりやすいが、本来は遠くの環境破壊も意識すべきだ」
判定
「太陽光発電で地球温暖化が進む」という言説が拡散した。大規模な太陽光発電施設が周辺の気温をわずかに上昇させることはあるが、地球温暖化とは別物だ。設置場所周辺に環境負荷がかかるケースがあることは事実だが、総合的に、太陽光発電の地球温暖化抑止効果は日本政府や国連などに高く評価されている。よって、誤りと判定する。
出典・参考
経済産業省資源エネルギー庁.”再生可能エネルギーとは『太陽光発電』”. https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/solar/index.html, (閲覧日:2025年8月5日).
経済産業省資源エネルギー庁.”再生可能エネルギーの特徴”. https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html, (閲覧日:2025年8月5日).
United Nations.”Seizing the moment of opportunity:Supercharging the new energy era of renewables, efficiency, and electrification Seizing”. https://mauritius.un.org/en/298524-%E2%80%9Cseizing-moment-opportunity-supercharging-new-energy-era-renewables-efficiency-and, (閲覧日:2025年8月5日).
Greg A. Barron-Gafford, Rebecca L. Minor, Nathan A. Allen, Alex D. Cronin, Adria E. Brooks & Mitchell A. Pavao-Zuckerman. Nature.”The Photovoltaic Heat Island Effect: Larger solar power plants increase local temperatures”.
https://www.researchgate.net/publication/309121531_The_Photovoltaic_Heat_Island_Effect_Larger_solar_power_plants_increase_local_temperatures_Open_access_httpwwwnaturecomarticlessrep35070, (閲覧日:2025年8月5日).
Science Feedback.” Can solar panels warm their surroundings? yes, but so can other materials”.https://science.feedback.org/review/can-solar-panels-warm-surroundings/, (閲覧日:2025年8月5日).
資源エネルギー庁.”「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点”.
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lifecycle_co2.html, (閲覧日:2025年8月5日).
電力中央研究所.”日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価”.
https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDlConf?reportNoUkCode=Y06&tenpuTypeCode=10&seqNo=3, (閲覧日:2025年8月5日).
OECD. ”Mainstreaming Biodiversity into Renewable Power Infrastructure”.
https://www.oecd.org/en/publications/mainstreaming-biodiversity-into-renewable-power-infrastructure_357ac474-en.html, (閲覧日:2025年8月5日).
検証:根津綾子
編集:古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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