日本がアメリカのコメに700%の関税をかけている? 試算では200~400%台【ファクトチェック】

日本がアメリカのコメに700%の関税をかけている? 試算では200~400%台【ファクトチェック】

米トランプ大統領が「日本はアメリカ産のコメに700%の関税をかけている」などと発言しましたが、誤りです。日本政府は2000年代の世界貿易機関(WTO)の交渉で、700%台を示したことがありますが、現在の関税は200~400%前後という試算が出ています。

検証対象

トランプ大統領は、各国に対して関税を引き上げる方針を示している。日本も例外ではなく、トランプ氏は4月2日、日本のコメの関税の高さを例に挙げて批判した。ホワイトハウスの演説で、「我々の友人の日本は(米国産の米に)700%の関税を課しているが、それは私たちに米やその他のものを売らせたくないからだ」と述べている。

演説は、ホワイトハウスの公式YouTubeで公開されている。当該部分は23分02秒~23分10秒だ。ソーシャルメディアでも多数拡散し、多くのインプレッションを獲得している(例1例2)。

検証過程

江藤農水相「そういう数字が出てこない」

江藤拓農林水産相は4月3日、トランプ氏の発言について「論理的に計算しても、そういう数字が出てこない。理解不能だ」と反論している(日経新聞)。

コメ輸入時の関税については「ミニマムアクセス部分については、関税がかかっていない。そもそも無税だ」と強調。それ以外のコメへの関税が精米1kg当たり341円であることを踏まえても、700%にはならないと説明した(時事通信)。

ミニマムアクセス(MA)米とは

MA米とは、ガット・ウルグアイ・ラウンド合意(WTO協定)に基づき、1995年度以降、日本が海外から最低限輸入しなければならない無関税の輸入米のことだ(農水省 コメの輸入制度)。

2024年度、日本は米国からMA米として玄米換算で346,000トンのコメを輸入した(農水省p154)。MA米の枠外で、関税を払って民間貿易によって輸入したコメの国別データはないが、日本が諸外国からMA枠外で輸入したコメの総量(白米・玄米・もみ殻付きなどを含む)は、2024年度(1月末時点)で991トン、2023年度が368トンだ(p157)。

つまり、日本がアメリカから輸入しているコメのほとんどがMA米の枠内で、関税がかかるのはわずかな量にとどまる。

700%超の根拠は日本政府が2000年代の交渉で示した数値

日本政府は国産のコメを保護するため、2000年度以降、コメ1kgあたり341円の高い関税をかけている。これは現在も変わっていない。農水省の「米をめぐる関係資料」(2010年3月)の33ページと40ページには、確かに「従価税換算値:778%(精米)」と書かれている。政府は2000年代の世界貿易機関(WTO)の交渉で、「1kgあたり341円」の従量税について、当時の輸入価格や国際価格をもとに税率に換算した参考値「778%」を示した。

トランプ氏の発言はこの数字をもとにしていると思われる。ただし現在は、コメの輸入価格の上昇や円安の影響で778%より、ずっと低い数値だ。

農水省 現在のコメ関税率「算出していない」、試算では200~400%台

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、最新のコメの関税率について農水省に取材した。

農産局担当者は「778%は、1999年から2001年当時のコメの輸入価格および国際価格などにもとづいて算出した交渉用の参考値だ」「政府が定めているのは『1kgあたり341円』の従量税のみで、関税率は算出していない」と回答した。

日経新聞は「直近の実質関税率は単純計算で400%強になるとみられる」と報道(2025年4月3日) 。朝日新聞は専門家に試算を依頼したとして「直近の米国産うるち精米中粒種(23年度)の価格は1kg当たり約150円で、関税率に換算すると227%と、トランプ氏が主張する『700%』には遠く及ばなかった」と報じている(2025年4月5日)。

関税率は、通常以下の式で計算する。

関税率(%) = 関税額 ÷ 輸入品の価格 × 100

つまり、輸入米の価格が安いほど関税率は高くなり、価格が高いほど関税率は安くなる。

農水省「穀物等の国際価格の動向」によれば、2025年のコメの国際価格は2000年に比べて約1.6~2倍に上がっている。また、コメの価格は為替レートによっても変わる。1999年~2001年は1ドル約100円~140円だったが、円安の2025年現在は約150円前後だ(参議院「経済のプリズム」第243号主要経済指標 時系列チャート集p54)。

従量税(重さに応じてかかる税金)を関税率(価格に対する割合)に直すには、国際的なコメの価格や為替レートだけでなく、コメの品種ごとの値段や取引の量など、様々な要素が関わる。そのため、正確な関税率を出すのは難しい。しかし、コメ価格の上昇や円安により、2025年時点での実質的な関税率は、以前の778%に比べて、かなり低くなっているのは間違いない。

判定

日本は米国から民間で輸入したコメに対して、1kgあたり341円の従量税を課している。トランプ氏の主張通り、約20年前には関税率が700%超の時もあった。しかしコメの価格や円安の影響により、現在は約200~400%台だ。また、米国から輸入するコメの大半は無課税で、関税が課されるのはごく一部にすぎない。よって、トランプ氏の「日本では米国産の米に700%の関税を課している」という発言は、誤りと判定する。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、藤森かもめ


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