線状降水帯は人工的に操作されたもの?【ファクトチェック】

線状降水帯は人工的に操作されたもの?【ファクトチェック】

梅雨の豪雨に関連して「線状降水帯は人工的に操作されたもの」などという言説が拡散されましたが、誤りです。線状降水帯については現在、研究が進められていますが「人工降雨技術で引き起こすことは不可能」と気象庁は説明しています。

検証対象

2023年6月2日、太平洋側の広い範囲で発生した線状降水帯に関連して「線状降水帯は人工的に操作されたもの」だとする言説が拡散した。

画像
画像

ツイートには「昔こんなのなかったよね。人為的に気象操作して、これを気象庁テレビ新聞までグルになってデタラメ報じて」や「自然現象にしては、不自然すぎるし、明らかになんかやってるだろ」といったツイートがあった(例1例2)。

返信欄には「観測史上最大という言葉もよくプロパガンダに使われますね」「確かに何故かまっすぐ」などの反応があった。

検証過程

線状降水帯は近年現れた気象現象なのか
気象庁の研究者の調査によれば「線状降水帯」は2000年頃に日本で作られた新しい気象用語だ。「気象学的に厳密な定義は存在しない」が、気象庁用語集の定義では以下のように説明している。

「次々と発生する発達する雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域」

線状降水帯が原因となった近年の主な水害としては、2014年8月の広島市の土砂崩れ、2015年9月の関東・東北豪雨、2017年7月の九州北部豪雨、2018年7月の西日本豪雨、2020年7月の熊本県・球磨川氾濫などがある。

それ以前はどうだったか。気象庁はJFCの問い合わせに「面的に稠密な観測データが必要であるため、現在使われている気象レーダーやアメダス等の観測機器の導入以前は、線状降水帯の発生を直接的に確認することは困難」としながらも「一般的には、線状降水帯のような現象は以前から存在していたと考えられ、1950年代には線状降水帯が発生していた(1957年の「諫早豪雨」が該当)と推測する研究報告もある」と回答している。

線状降水帯のメカニズムは
線状降水帯が発生するメカニズムについて、気象庁は以下のように説明している。

画像

1.暖かく湿った空気が低層から持続的に流入し、
2.局地的な前線や地形などの影響で空気が持ち上がって雲が発生し、
3.大気が不安定な中で湿潤な積乱雲が発達し、
4.上空の風の影響で積乱雲や積乱雲群が線状に並ぶ

一方、気象庁は「発生メカニズムに未解明な点も多く、今後も継続的な研究が必要不可欠」とも述べている。「線状降水帯」(津口裕茂, 2016年)においても「線状降水帯という言葉はあくまでも現象の一側面をあらわしているに過ぎず、集中豪雨の発生原因を十分に説明していることにはならない」と指摘している。

人工的に線状降水帯を作れるか
現在の人工降雨研究についても、気象庁に聞いた。

「現在、気象庁では人工降雨に係る研究及び実験は実施しておりませんが、文献等で把握している限りにおいて、人工降雨技術を用いて、組織化した積乱雲群によって大雨をもたらす線状降水帯といった激しい気象現象を引き起こすことは不可能であると考えられます」

気象庁によると、現在の人工降雨研究は、すでに発生している自然の雲の中に雲の核となる微粒子をまくシーディングによって、降水を人工的に増やす技術だ。しかし、現在はごく局所的な実験に基づく研究が進められている段階であり、その効果も十分に実証されてはいない。また、全く雲のないところから雨を降らせることも現在の技術ではできない、という。

判定

線状降水帯のような現象は以前から存在していたと考えられること、メカニズムについての研究が進んでいること、現在の技術で大規模な人工降雨は不可能であることから判定を誤りとした。

あとがき

近年では、線状降水帯の予測に関してもさまざまな研究があります。線状降水帯が発生し災害の危険度が急激に高まった際、予測技術の活用で最大30分早く発表する取り組みも、今年の5月から始まっています。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔

修正

誤字を修正(風邪→風、線上→線状)しました。(2023年6月23日)


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

横浜市長会見の過去映像は1年分しか保存しないように改悪された? 3か月→1年に延長【ファクトチェック】

横浜市長会見の過去映像は1年分しか保存しないように改悪された? 3か月→1年に延長【ファクトチェック】

「横浜市長の定例記者会見の過去映像が1年分しか視聴できないように改悪された」という情報が拡散しましたが、不正確です。以前は3か月分しか視聴できませんでしたが、2022年4月から過去1年分に期間を延長しています。 検証対象 7月28日、「横浜市長記者会見の過去映像が『直近1年』しか視聴できないように改悪されている」という投稿がXで拡散した。 8月1日現在、投稿は400回以上リポストされ、表示は2.7万件を超える。 投稿には「え!なんの告知もなく⁉️また隠蔽か」「スゲーな (褒めてませんよ)」というコメントや「最近ではなく、だいぶ前からアーカイブ残らない仕様です」「隠蔽なのか容量の問題なのか…」という指摘が寄せられている。 検証過程 公開されている記者会見映像は1年前まで 横浜市は月2回のペースで市長会見を開き、映像は公式サイトで開示している。サイトには「録画中継は、おおむね1年前の会見まで掲載しています。それ以前の会見の模様は『会見記録』をご覧ください」と書かれている(横浜市”市長記者会見インターネット中継”)。 「録画中継を視聴」をクリックする

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】

カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】

2025年7月30日にロシアのカムチャツカ半島沖で発生した地震に関連し、「日本の津波だ」という動画が拡散しましたが、誤りです。この動画は2017年、南アフリカ共和国で撮影されたものです。 検証対象 7月30日、「Tsunami in Japan(日本の津波)」という動画がThreadsで拡散した。 投稿には海岸に波が押し寄せ、人が避難する様子が映っている。7月31日現在、この投稿は6000件以上のいいねを獲得し、表示回数は71万回を超える。 検証過程 7月30日午前8時25分ごろ、ロシアのカムチャツカ半島付近を震源とするマグニチュード8.7の巨大地震が発生した。気象庁は北海道から和歌山県にかけての太平洋沿岸に津波警報を発表した(気象庁. “令和7年7月30日08時25分頃のカムチャツカ半島付近の地震について”)。 動画は2017年に南アフリカで撮影 拡散した動画をGoogleレンズで検索すると、2017年に南アフリカ共和国のダーバンで発生した津波の映像が見つかる。建物の位置、木の位置などが拡散した動画と一致している。 この動画は、2023年にも

By 木山竣策
Mrs. GREEN APPLEのライブ音漏れ映像? 音声が加工された動画【ファクトチェック】

Mrs. GREEN APPLEのライブ音漏れ映像? 音声が加工された動画【ファクトチェック】

バンド「Mrs. GREEN APPLE」のライブ騒音問題に関連して、「ミセスの音漏れが想像を超えてくる」という動画が拡散しましたが、実際の映像ではなく、誤りです。音漏れがあったことは事実ですが、音声が加工された動画が実際の映像のように拡散しています。 検証対象 2025年7月29日、「ミセスの音漏れめっちゃ聞こえた」という動画付き投稿が拡散した。 動画には会場は映っていないが、夜景の中で大音量の曲が響いている。2025年7月29日現在、この投稿は300件以上リポストされ、表示回数は144万回を超える。 投稿について「そりぁ問題になるわ」「いくら何でもやばすぎじゃない?」というコメントの一方で「違う動画見たけどこんなに聴こえてない」という指摘もある。 検証過程 Mrs. GREEN APPLEのライブと騒音 2025年7月26、27日に横浜市の横浜山下ふ頭特設会場でバンド「Mrs. GREEN APPLE」のライブが開催され、会場から漏れた音が問題視された。 所属事務所は28日に「当日の風向きにより想定以上に広範囲に音が拡散し、周辺にお住まいの

By 木山竣策
外国人は6親等まで扶養控除があるのに日本人には無い? 控除の範囲は同じ【ファクトチェック】

外国人は6親等まで扶養控除があるのに日本人には無い? 控除の範囲は同じ【ファクトチェック】

税金の負担を軽くする扶養控除について、外国人は海外居住の6親等まで対象なのに、日本人の子どもには控除が無いという情報が拡散しましたが誤りです。日本人も外国人も納税者は、国籍に関係なく6親等までが対象です。 検証対象 2025年7月26日、「外国人は海外居住の6親等まで扶養控除があるのに日本人の子供には扶養控除がないのはなぜなのか!」という投稿が拡散した。 投稿には画像が添付され、「日本の子どもたちを税制で差別します 財務省」と書かれている。 7月28日現在、この投稿は2200件以上リポストされ、表示回数は134万回を超える。投稿について「制度設計したやつ馬鹿」「政府が日本人よりも外国人を優遇してる」というコメントの一方で「6親等は日本人も同じ」という指摘もある。 検証過程 前提として、出入国在留管理庁のウェブサイト「税金」によると、外国人でも、日本国内で働いて得た収入がある人は、原則として所得税を納める必要がある。 扶養控除とは 国税庁によると、扶養控除とは、納税の際に、扶養している家族(扶養親族)がいると受けられる所得控除のことだ。控除によっ

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)