太宰府天満宮が「日本遺産」取り消し、環境保護を優先したから? まとめ記事によるもの【ファクトチェック】

太宰府天満宮が「日本遺産」取り消し、環境保護を優先したから? まとめ記事によるもの【ファクトチェック】

福岡県の太宰府天満宮が、訪日外国人を排除して環境保護を優先したため、日本遺産から取り消されたという情報が拡散しましたが、誤りです。太宰府天満宮を含む地域が2025年2月に日本遺産から外されたのは事実ですが、天満宮単体ではなく、理由もインバウンド観光客の排除ではありません。

検証対象

2025年2月5日、「太宰府天満宮が『日本遺産』取り消し、インバウンド観光客を排除し環境保護を優先したから」という情報が拡散した。

2025年2月6日現在、この投稿は9800件以上リポストされ、表示回数は450万回を超える。投稿について「太宰府天満宮に拍手」「外人が来ないなら清々する」というコメントの一方で「捏造です」というコミュニティノートでの指摘もある。

検証過程

日本遺産と太宰府天満宮

日本遺産とは、個々の遺産ではなく、地域の有形・無形の遺産を一体的に指定してPRするもので、文化庁が認定する(日本遺産ポータルサイト)。

現在、文化庁の日本遺産には104件が登録されている(日本遺産ポータルサイト「すべてのストーリー」)。

太宰府天満宮を含む太宰府市をはじめとする福岡県の7つの市町は、約1300年前に東アジアとの外交・軍事拠点だったことから、日本遺産に「古代日本の『西の都』」として登録されていた。

まとめサイトと添付記事の内容が不一致

検証対象のリンクは、まとめサイト「TweeterBreakingNews-ツイッ速!」の記事だ。

タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「太宰府天満宮『日本遺産』取り消し、政府が推進するインバウンド観光客を排除し環境保護を優先した容疑」。引用元は朝日新聞が2025年2月4日に配信した記事「日本遺産『古代日本の西の都』が初の取り消し 小樽と入れ替え」だとしている。

朝日新聞の記事は、文化庁が「古代日本の『西の都』」(福岡県)を一覧から外し、「北海道の『心臓』と呼ばれたまち・小樽」(北海道)を新たに認定したという内容だ。

外された理由は「来場者が日本遺産のストーリーをどこまで認識・体感しているか不明瞭」「他の資産に誘導できていない」「住民からの認知度が低い」などと書いている。「インバウンド観光客を排除し環境保護を優先したから」とは書いていない。

文化庁の評価は

日本遺産の評価結果は、文化庁のサイトから確認できる。2025年2月4日に公表されたのは2021年度に条件付き認定となった4件と新規1件の計5件。42点満点で評価しているが、「西の都」は5件中最低の31点。「日本遺産」から「日本遺産候補地域」に移行した。

評価結果には「地域活性化計画及びコメント内容を踏まえ、取組みの一層の改善を図ること。特に、集客力の高いエリアから他の構成文化財等への周遊につなげる方策を検討し、実施するよう留意されたい」と書かれている。

インバウンドや外国人観光客について書かれたものはない(別紙2 令和6年度日本遺産点数評価プロセス採点結果及び評価結果 採点結果及び評価結果 16~20p)。

判定

太宰府天満宮が含まれる地域「古代日本の『西の都』」が、日本遺産から外されたのは事実だ。しかし、理由にはほかの文化財などへの誘導ができていないと書かれており、外国人観光客の排除とは書かれていない。よって誤りと判定する。

検証:木山竣策
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

「安倍元首相が日本の年収を下げていた」という文言とともにグラフ付きの画像が拡散しましたが、誤りです。グラフで年収が下がっていると強調されている時期は小泉純一郎政権です。第一次や、第二次安倍政権発足以降の年収はともに上昇傾向にありました。 検証対象 2025年10月27日、「【悲報】安倍晋三、凄まじい勢いで日本人の平均年収を下げていたことが判明wwww」という画像つき投稿が拡散した。 10月30日現在、この投稿は削除されているが、同じ画像を使った投稿が拡散している。 検証過程 画像のグラフは 画像のグラフをGoogleレンズで検索すると、2011年3月2日に「ITmedia ビジネスオンライン」が投稿した「コツコツお金を貯める人が、減っている理由」という記事がみつかる。拡散したグラフは、この記事に添付された内容と同じだ。 記事は「1998年を境に日本の平均年収が減少し、コツコツと貯金する人も減っている」と書いている。拡散したグラフは「ビジネスパーソンの平均年収(横軸は年、出典:年収ラボ)」というタイトルで記事内で紹介され、1998年以降にビジネスパ

By 木山竣策
南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アフリカなど10か国の在留資格を持つ外国人の再入国を禁止するかのような言説が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画は2021年末、松野博一官房長官(当時)が、新型コロナウィルスの水際対策について説明しているものです。 検証対象 拡散した言説 2025年10月27日、「それが当たり前 今までの石破や岩屋のクズぶりが 分かる🤣‼️」という文言付きの動画がXで拡散した。 動画には「10カ国が対象 在留資格持つ外国人 再入国を禁止」とあり、首相官邸で松野官房長官が内容を説明している。 検証する理由 10月29日現在、投稿は3800回以上リポストされ、表示は89.7万件を超える。 投稿には「これ昔の動画ですよね?」「よくこんな数年前の動画持ってきたね」等の指摘もあるが、「今来ている外国人も減らしてください 子を産み選挙権を与えたら日本は終わります」「移民受け入れ反対運動を決行された全国の皆様もきっと喜んでいると思います」など同調のコメントが多数ある。 検証過程 動画は2021年の新型コロナ対策に関するニュース 拡散した動画は52秒で、NNNの

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
大阪は6人に1人が中国人? 府内1.1%、市内1.9%【ファクトチェック】

大阪は6人に1人が中国人? 府内1.1%、市内1.9%【ファクトチェック】

「大阪は6人に1人が中国人」という投稿が拡散しましたが、誤りです。大阪府に就労や勉強などのために訪れ、中長期にわたり滞在する中国人の割合は人口の約1.1%(2025年6月末時点)、大阪市と比べても、市内に住民登録している中国人は市の人口の約1.9%(2024年末時点)で、いずれも6人に1人(約16.7%)からはかけ離れています。観光客の人数を考慮しても「6人に1人」は程遠い数値です。 検証対象 拡散した投稿 2025年10月19日、「大阪は6人に1人が中国人。本当にやばい」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月29日現在、投稿は2.2万回以上リポストされ、表示は335.4万件を超える。 投稿には「6人に1人は言い過ぎ」「いったいどんな統計ですか?」などの指摘の一方で、「6人に1人⁉️ キショ!大阪の日本人はよくそんな環境を耐えてますね」「この状況を許している維新の大阪府は、公明党とは違った意味で親中派なのであろう」など同調するコメントが多数ある。 検証過程 引用元動画は9月27日の移民政策反対デモと見られる 拡散した投稿は、別ア

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)