参院選の動画、視聴上位は独立系YouTuberばかりでテレビ系は1割切る 自民に批判・参政は礼賛【#参院選ファクトチェック解説】

参院選をめぐって、大量の動画がソーシャルメディアで視聴されています。そのほとんどは政党や候補者ではなく第三者が投稿したもので、根拠のない主張や文脈を無視した発言の切り抜きなど信頼できないものが多くみられます。YouTubeやTikTokには、似たような動画をお勧めする機能があるため、知らないうちに偏ってしまいがち。ファクトチェックの視点から傾向や注意点を解説します。
再生数の92.4%は第三者の投稿動画
選挙・政治の情報サイト「選挙ドットコム」が2025年参院選に関して配信された動画の再生状況を調査しました。7月3-9日に配信され、候補者名や政策・争点などをキーワードにしたYouTube動画について分析したもので、合計再生数は通常動画・ショート動画で計3億9600万回に及んだといいます(選挙ドットコムの独自調査で、すべてを網羅できているとは限りません)。
そのうち、92.4%(3億6500万回)が、政党や候補者ではない第三者が投稿した動画でした。一方、政党による動画は5%(1980万回)、 候補者による動画は2.6%(1033万回)にとどまりました。

第三者による投稿には捏造や切り取りも
政党や候補者が発信しているからと言って、内容が正しいとは限りません。自分たちに都合のいい発信で、競合する政党や候補者を不当に貶める事例もあります。
実際、日本ファクトチェックセンター(JFC)では、参院選での政党幹部や候補者の発言を検証し、「誤り」や「不正確」と判定した事例が複数あります。その他のファクトチェック団体やマスメディアによる検証でも同様です。
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ただし、当事者が発信する動画であれば、少なくともその当事者自身の言動であることは確認できます。第三者の発信の場合は、当事者が実際には言っていないことを批判していたり、オリジナル動画を切り貼りして内容を歪めたり、捏造したりする事例もあります。JFCで検証する言説も、そういった第三者からの発信の方が多いのが実情です。
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どんな動画が見られているのか
JFCでは「選挙ドットコム」がまとめたデータをもとに、各政党をキーワードに含む動画の傾向を精査しました。すると、よく見られている動画には、政党ごとに傾向があることがわかりました。
例えば、苦戦が報じられている自民党を取り上げた動画の視聴上位には、「大敗濃厚」「政権崩壊」などといった否定的な論調のものが多くなっています。また、石破茂首相が不人気だと揶揄する内容も目立ちます。
一方、躍進すると報じられている参政党は、神谷宗幣代表の演説やインタビュー、候補者の演説動画がよく見られています。2024年の総選挙で動画配信が話題になった国民民主党も、玉木雄一郎代表や榛葉賀津也幹事長の演説の切り抜き動画が人気です。
第三者が否定的に論評する動画がよく見られる自民党と、政党幹部や候補者の演説動画が人気の参政党・国民民主党。それぞれの選挙での勢いを象徴するかのように、動画の見られ方に大きな違いがあります。勢いに差があるから、見られ方に差があるのか。見られ方に差があるから、勢いに差が生まれるのか。正確にはわかりませんが、ある程度は相互に関係があるのは間違いありません。
テレビ局が投稿した動画は不人気
これまでの選挙では公示日・告示日を過ぎると、テレビ局や新聞社は公平性を重んじて、個別の候補者に関する具体的な報道が減る傾向がありました。2024年の兵庫県知事選では、それによって「情報の空白」が生まれ、真偽不明の情報がYouTubeなどで大量拡散する要因の一つになりました。
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2025年参院選では、新聞社もテレビ局も「情報の空白」への対策として、ファクトチェックなど積極的な報道が目立ちます。YouTubeへの投稿数も多くなっています。視聴上位に入った第三者動画の中に、テレビ局が投稿したものはどれだけあるでしょうか。
選挙ドットコムがまとめた再生数が多い各政党ごとのトップ10動画を、通常尺、ショート動画別に確認してみました。
合計200本の動画の中で、テレビ局が投稿したものはわずか18本で9%にとどまりました。雑誌系ネットメディアや新興ネットメディアの動画もごく僅かで、ほとんどの動画は独立系YouTuberが配信したものでした。
政治の専門家による政策の分析などはほとんどなく、明確な根拠やデータを示さずに特定の政党や候補者を褒めたり、けなしたりする動画が多く、客観的に投票先を決めるための信頼性に欠ける動画がほとんどと言わざるを得ません。
便利な機能が偏りを加速する
YouTubeには、世界中から毎分500時間以上の動画が投稿されています。とてつもない情報氾濫の中で、ユーザーの興味に合う動画を自動で表示してくれるのが「アルゴリズム」と呼ばれる仕組みです。非常に便利な機能ですが、問題があります。
たとえば、自民党に否定的な動画をよく見る人には、同じような論調の動画がお勧めされやすくなります。逆に参政党や国民民主党を支持するような動画を見た人には、同じ傾向の動画ばかり表示されるようになります。
さらに、そうした動画を投稿しているチャンネルを登録することで、よりそのチャンネルの動画に接する機会が増える上に、コメント欄でも自分と同じような考えを持つ人の反応ばかりに触れることになります。
これがアルゴリズムというフィルター(膜)で、バブル(泡)に包まれた井の中の蛙になってしまう「フィルターバブル」であり、自分と似たような人たちの声ばかりが聞こえる狭い部屋に入れられたような状態になる「エコーチェンバー(反響室)です。


「偏り」が強化されていく
人間は皆、その人の知識や経験に基づく「偏り(バイアス)」があります。その一つが、自分の考えを裏づけてくれそうな情報を無意識のうちに正しいと思って集めてしまう「確証バイアス」です。
フィルターバブルやエコーチェンバーは、自分の考えや趣味嗜好に近い情報や人を近づけてくれるため、その人にとって心地よく、確証バイアスを強化していきます。そして、知らず知らずのうちに偏りはさらに強化されてしまいます。
様々な情報を届けてくれるYouTubeなどの動画プラットフォームは非常に便利ですが、その機能を理解し、自分自身の「偏り」も確認したうえで、多様な情報を収集し、分析するようにしましょう。
ファクトチェックは自分が気に入らない情報をチェックするものだと誤解している人がいます。そうではありません。自分が「心地よい」と思った情報こそ、バイアスの影響を疑い、積極的に検証しましょう。

情報に接する際は「3つの確認」を
多様な情報とは言っても、全く根拠のない発信や、事実が捻じ曲げられた投稿などを見ると、かえって混乱する恐れがあります。
情報の信頼性を確かめるため、最低限、3つのポイントを確認しましょう。「発信源」「根拠」「関連情報」です。その「発信源」は、その情報を知りうる立場にいるのか。信頼に足る「根拠」はあるのか。「関連情報」として公的機関や専門家、報道機関の発信はないか。
これだけで、多くの情報について信頼性を確かめられるはずです。
3つの確認については詳しくは以下の冊子をダウンロードしてください。JFCでは無料のファクトチェック講座も公開しているので、そちらもご活用ください。
情報のウソ・ホントを見抜く力 ファクトチェックの3つの確認と4つの技術(冊子)
理論から実践まで学ぶJFCファクトチェック講座
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。
JFC"JFCファクトチェック講座"
参院選のファクトチェック記事はこちら
JFCでは7月18日までに20本を超える参院選に関するファクトチェック記事を出しています。こちらをお読みください。

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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