ファクトチェックという「公共財」をどう支えるか ビジネスへの活用策は【GlobalFact2026報告①】

ファクトチェックという「公共財」をどう支えるか ビジネスへの活用策は【GlobalFact2026報告①】
GlobalFact2026のパネル討論=リトアニア・ヴィリニュス © Delfi / Josvydas Elinskas

世界のファクトチェッカーが集まる「GlobalFact 2026」が6月17〜19日、リトアニアのヴィリニュスで開かれ、約80カ国から300人超が参加しました。テーマは、AIをはじめとするテクノロジー、海外からの影響工作、オンライン詐欺、そしてファクトチェックの持続可能性など、多岐にわたりました。

日本ファクトチェックセンター(JFC)から5年連続で参加している筆者(古田)らが、登壇者たちの言葉を交えて報告します。初回は、ファクトチェック業界が直面する資金不足とその対策についてです。

IFCN代表が語る「検閲批判」や「ビジネスモデルの切り崩し」

主催した国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)のAngie Drobnic Holan代表は、開会挨拶で業界への逆風を次のように述べました。

「私たちは公平で非党派的であろうと最大限努めても、偏向していると非難されてきた」「私たちのビジネスモデルは切り崩されている。AIが生成する要約や、正確性に投資せず注目(アテンション)だけで利益を得る独占的プラットフォームによって」(PolitiFact”At GlobalFact 2026, fact-checkers report challenges, resilience”)

ファクトチェック業界は、資金難と「検閲」「偏向」などの批判にさらされている――という訴えです。

GlobalFact2026のメインステージ © Delfi / Josvydas Elinskas

引き金となった米国の方針転換

資金難の引き金となったのは、米国の方針転換でした。

米国のトランプ大統領は、誤った情報を堂々と発信し、間違いを指摘されると逆に相手を「フェイクニュース」と批判します。第一次政権時代からファクトチェックを敵視してきたトランプ氏が2025年に大統領に返り咲くと、米国の偽・誤情報対策は大きく変化しました。

ファクトチェックや法的な規制などの対策は、検閲や表現の自由への抑圧だと批判されました。Metaは世界中のファクトチェック団体とのパートナーシッププログラムについて、米国内の団体との契約を打ち切りました。欧州やアフリカ、アジアなどでファクトチェック団体に資金提供してきた米国際開発庁(USAID)は活動を停止。偽・誤情報対策を担当してきた政府機関も閉鎖されました。

JFCはMetaのプログラムやUSAIDの資金提供を受けていないため、直接的な影響はありませんでした。しかし、この2つに運営資金の大部分を頼ってきた団体の中には、活動の縮小や停止に追い込まれたところもあります。

もし、Metaのプログラム打ち切りが米国内の団体だけでなく世界に広がったらどうなるのか。会場では「かなりの数の団体が活動縮小か停止に追い込まれる」という声が広く聞かれました。

IFCNが2026年4月に公表した「ファクトチェッカー実態レポート2025」(IFCN認証の約180団体を対象に調査し、141団体が回答)では、76%が「財政的に脆弱」または「危機的」と答え、45.3%は収入が減り、38.3%が人員削減に踏み切ったと答えています(IFCN”State of Fact-Checkers 2025”)。

公共財としてのファクトチェックを「ビジネス」に

トランプ政権が続く間、この流れが変わる見込みは薄く、その後の米国の動きも見通せません。欧州には公的資金でファクトチェックを支えるシステムが構築されていますが、それ以外の地域は、日本を含めて非常に不安定な状況になっています。

そんな中で語られたのが、新たなビジネスモデルの模索です。

ハンガリーを拠点に活動するCenter for Sustainable Media創設ディレクターでメディア経済に詳しいPeter Erdelyi氏は「市場に目を向けよ」とファクトチェック団体がビジネス領域に踏み込む重要性を指摘しました。そのためには、顧客の具体的な課題を解決する努力が必要だと訴えます。

「保険会社のために偽情報を監視してもいい。日々、自社製品についての誤った情報に悩まされている薬剤師のためのガイドを作ってもいい。診療所向けの研修プロダクトにもなる」

Erdelyi氏は、ファクトチェック団体の収入モデルを研究しており、これまでに調査した20団体のうち、寄付だけに頼っているのは2~3団体で、そのうち2団体は現在、有料の限定プロダクトを開発中だと話しました(Poynter”Consider adding consumer-driven revenue models, media expert tells fact-checking, misinformation groups”)。

情報環境をより良くするという公共性の高いファクトチェックを、「良い行い」であると同時に「良い商売」にもする。発想の転換です。

Erdelyi氏の発表「社会は社会を助けるものにカネを払う。人々は人々を助けるものにカネを払う」© Delfi / Josvydas Elinskas

「最も追い込まれているいまこそ、最も必要とされている時」

苦境の中でも、ファクトチェック業界は辛うじて踏みとどまっています。

活動縮小や停止に追い込まれる団体はあっても、IFCN行動規範に署名した認証ファクトチェック団体は、更新手続き中を含めて182団体(2026年7月9日現在)あり、ここ数年、ほぼ同水準を保っています。

オンラインでの嫌がらせや政府当局からの圧力にさらされながらも、ファクトチェックを続ける団体は少なくありません。IFCNに加盟していない団体もあります。ファクトチェッカーは欧州やアフリカなど各地域で連帯を強め、活動を続けています。アジア太平洋地域にも、新たな地域組織が生まれました。

Holan代表はこう語りました。

「ファクトチェッカーの同志の皆さんへ、強く訴えたい。決して諦めないでほしい。最も厳しく追い込まれているいまこそが、我々が最も必要とされている時だから」

古田の視点:民主主義を支える公共財を維持するには

ファクトチェック業界には、明確なビジネスモデルが存在しません。SNSで広がるデマは無料なのに、検証記事が有料だと拡散力で負けてしまうし、エンタメと比べればビュー数が少なくて、広告モデルも成り立ちにくいからです。

トランプ第二次政権が始まるまでは、Metaとのパートナーシップや、Googleや民主主義を支援する財団の寄付などが主な資金源でした。しかし、これまでの資金源だけに頼ることは現実的ではありません。収入源の多様化は喫緊の課題です。

Erdelyi氏が推奨するファクトチェックを活用した事業収入については、昨年のGlobalFactでも話題になりました。事実確認についてコンサルティングしたり、ファクトチェック事例のデータを有料で提供したり。

寄付だけに頼らない団体が増えているのは、GlobalFactなどで他団体の成功事例を積極的に学び、取り入れているからでしょう。

もう一つ、開催地となった欧州で重視されているのが、公的な資金です。

EUや各国レベルでファクトチェックやメディアリテラシー教育活動を公的な資金で支える。情報環境を偽・誤情報や海外からの影響工作から守る活動は「公共財」として認識されています。

日本での適用を考えるのであれば、前者にはビジネス人材、後者には政府や公的機関からの独立性を担保するルールづくりが必要となります。

出典・参考

PolitiFact”At GlobalFact 2026, fact-checkers report challenges, resilience”(閲覧日2026年7月8日)

IFCN”State of Fact-Checkers 2025”(閲覧日2026年7月8日)

Poynter”Consider adding consumer-driven revenue models, media expert tells fact-checking, misinformation groups”(閲覧日2026年7月8日)

IFCN Code of Principles”Verified signatories”(閲覧日2026年7月9日)


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

沖縄県知事選をめぐり早くも拡散する怪情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

沖縄県知事選をめぐり早くも拡散する怪情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

8月27日に告示される沖縄県知事選をめぐり、早くも怪情報が飛び交っています。沖縄の地元メディアはファクトチェックを開始。日本ファクトチェックセンターもネット上で広がる様々な情報をモニターしています。関連記事をご覧ください。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFC運営・監査両委員会の報告書を公開しました 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、運営委員会と監査委員会による年次報告書(2025年4月〜2026年3月分)を公開しました。 JFCは独立性を保ってファクトチェックに取り組むため、設置規定に基づき、有識者で構成する運営委員会が、編集部がファクトチェックガイドラインに則って公正な検証をしているかを確認しています。 また、監査委員会(監査委員会運営規程)が、編集部と運営委員会を含む全体のガバナンスが適正かを確認しています。両委員会はその結果を報告書にまとめ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
熊本地震は「人工地震」? 波形は普通の地震【ファクトチェック】

熊本地震は「人工地震」? 波形は普通の地震【ファクトチェック】

熊本県を震源とする地震が2026年7月28日に発生したことを受け、「波形を見る限り人工地震」「今回の熊本地震の波形も人工地震の波形」などと主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。専門家は「人工的な揺れの波形ではない」と説明しています。 検証対象 拡散した言説 2026年7月29日、「熊本地震ですが、波形を見る限り、人工地震であることは確実です」と主張する投稿がXで拡散した。 検証する理由 熊本地震や人工地震など複数のキーワードを組み合わせてソーシャル分析ツール「Meltwater」で調べると、今回の熊本地震の波形だという画像を添付した投稿は他にも拡散している(例1,2)。 拡散した投稿には「バカなこと言うのやめろ、恥ずかしいわ」「こういう都市伝説脳の奴ら、日本から出て行ってほしい」などの指摘もある一方、「日付からして人工地震の可能性は高いでしょうね」や「前回の熊本地震も人工地震の様ですし今回も波形からその様ですね」など、真に受けた反応もあるため検証する。 検証過程 「人工的な爆発の波形」? 例1には、「先程の熊本震度7の地震ですが、防災科

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
JFCはプレバンキングと詐欺対策を強化します サイトのメニューも変更

JFCはプレバンキングと詐欺対策を強化します サイトのメニューも変更

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、偽・誤情報が広がる「前」にその手口を知らせる予防的な取り組み「プレバンキング」と、オンライン詐欺への注意喚起に一層力を入れていきます。あわせて、サイト上部のメニュー(グローバルナビ)に「プレバンキング」と「詐欺対策」の項目を新設しました。 予防的な対策としての「プレバンキング」 JFCはこれまで、拡散した情報を検証して判定するファクトチェック(デバンキング)を活動の柱としてきました。しかし、偽・誤情報は大量かつ高速に広がり、検証は後追いにならざるを得ません。 一方で、災害のたびに繰り返される「人工地震」や選挙のたびに広がる「不正選挙」などのように、同じ手口の偽・誤情報が形を変えて何度も拡散しています。手口そのものをあらかじめ知っておけば、初めて見る投稿でも「これはよくあるパターンだ」と気づきやすくなります。 こうした考え方に基づき、JFCは今後、これまでにファクトチェックしてきた手口を題材にした【プレバンキング】記事を継続的に公開していきます。第1回は「『地震雲』や『人工地震』は本当?

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
高校野球チケット「譲ります」で被害多発 県警「正規ルートで購入を」【詐欺注意】

高校野球チケット「譲ります」で被害多発 県警「正規ルートで購入を」【詐欺注意】

甲子園で開催中の全国高校野球選手権大会をめぐり、SNSで「チケット譲ります」などと投稿し、電子マネーで代金をだまし取る詐欺被害が相次いでいます。兵庫県警は「チケット詐欺多発中」と注意喚起し、正規ルートで購入するように呼びかけています。 「詐欺られた」との投稿が相次ぐ 2026年8月中旬ごろから、「詐欺られた」「甲子園チケット詐欺られた」といった投稿がX(旧Twitter)上で相次いでいる(例1、例2)。 被害を訴える投稿から、詐欺を図ったとみられるアカウントを確認すると、短時間のうちに音楽ライブや甲子園のチケットなど、様々なチケットの取引を持ちかけている。 兵庫県警も注意喚起 兵庫県警のX公式アカウント「兵庫県警察安全安心情報」は8月12日、「SNSで『高校野球のチケット譲ります』などと投稿し、電子マネー等で代金をだまし取る詐欺事件が連続発生しています」「チケットは正規のルートで購入しましょう」と投稿している。 相談があったという「転売チケットであると指摘され入場できなかった」ケースや「代金を支払ったがチケットが届かず連絡が取れなくなった」ケースを紹

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月27日(日)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 9月27日(日)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です。 講師養成講座(オンラインで90分)を受講いただいた後、修了課題を提出された方には、教室や職場などで利用可能な教材の提... powered by Peatix : More than a ticket.Peatix 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)