写真に一言「気持ち悪すぎだろ」と書くだけで拡散する偽・誤情報 何をどう検証したのか【ファクトチェックの舞台裏】

写真に一言「気持ち悪すぎだろ」と書くだけで拡散する偽・誤情報 何をどう検証したのか【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)は設立から2年半あまり、700本を超えるファクトチェック記事を公開してきました。一方で、検証を進めたものの、記事として公開に至らなかったものも数百本あります。日本でもファクトチェックに取り組む組織や個人が増えつつあります。そうした流れの中で、私たちは検証の舞台裏や、判断が難しいケース、世界で行われている新たな手法などを紹介するコラムを始めることにしました。

各コラムでは「どう検証したか」「どこで迷ったか」「どんな工夫をしたか」「なぜ掲載を見送ったか」など、編集の舞台裏を紹介します。現場の悩みも交えながら、やわらかくお伝えできればと思います。情報を見極めるヒントになれば幸いです。

第1回は、投稿の内容があいまいな場合、どのように検証対象とするかについて書きます。

曖昧な言葉と闘うファクトチェックの裏側

たとえば、「また、ワクチンで医師と看護師が1か月で〇〇人死亡。危険」という投稿があったとします。これは新型コロナワクチンの危険性を訴えているようにも読めますが、「新型コロナ」という言葉自体は使われていないため、具体的に何を調べれば誤情報だと言い切れるのかがわかりません。

このようにあいまいだったり、投稿が画像や動画だけで構成されていたりすると、どの事実に基づいて検証すべきか判断に迷うことがあります。

写真で示唆、誤解した反応が多い→「誤り」

2023年に「昆虫食」への批判が相次いだ際、「気持ち悪すぎだろ」という一言とともに、エビフライが入った容器のラベルに「バッタミックス粉」と書かれた写真が拡散しました。まるで惣菜に「粉末状のバッタが混入している」かのような誤解を招く投稿でした。

リプライ欄には「昆虫は入っていない」と指摘する声もありましたが、「まさかのバッタ表記」「バッタとコ○ロギのミックス粉?」といった、事実だと信じ込んでいるような反応も目立ちました。

JFC「惣菜に昆虫が混入」?バッタミックス粉は小麦粉などが原料【ファクトチェック】

これは、昆虫が混入しているかのように「におわせて」はいるものの、明確に言い切ってはいない事例です。JFCでは、多くの人が誤解していると判断し、リプライ欄の反応も含めて検証対象としました。

実際に、拡散された画像とは別の店舗で、惣菜の原材料に「バッタミックス粉」と記載しているスーパーを取材し、揚げ物などを大量調理する際に使われる「バッターミックス粉」の略称であることを確認。この投稿を「誤り」と判定しました。

ハッシュタグに誤解させようとする意図→「誤り」

2023年10月、イスラエルのガザへの攻撃が始まった直後、瓦礫の中から子どもが救出される動画が、現地の映像として誤解される形で拡散しました。

JFC(イスラエル・パレスチナ)瓦礫から救出される乳児の動画?【ファクトチェック】

投稿文には「とても辛く、恐ろしい状況です。どうか戦争を止めてください」とあるだけで、紛争との関係は明言していませんでした。しかし、「#TelAviv」「#HamasWarCrimes」などのハッシュタグがつけられており、全体を見ると、これはガザの動画だと誤解を招く内容でした。

JFCではこの動画を検証し、2023年のトルコ・シリア大地震の映像で、紛争とは無関係であることを確認。「誤り」と判定しました。

検証対象の投稿は曖昧なものの方が多い

ファクトチェックの対象は、事実として提示された情報であり、意見や感情ではありません。たとえば、昆虫食に反対するのは個人の意見ですが、実際にバッタが入っていない「バッタミックス粉」を昆虫食だと主張するのは、事実として誤りです。

詳しくは、過去に書いた解説記事を御覧ください。

JFC “ファクトチェックとは 定義・ルール・手法を解説

ただ、2つの事例のように、投稿の意図がはっきりせず、何を伝えようとしているのか、わかりにくい事例もあります。ハッシュタグや前後の投稿など、文脈を含めて読み取ると、結果的に「偽情報」として広まっていることがわかる場合もあります。

JFCでは、同じような言説が多く出回っている場合、特定の投稿だけを検証するのではなく、「例1,例2,例3」といった形で複数の投稿を取り上げて、「このような情報が拡散している」と、まとめて検証することもあります。

JFC”大地震の前にトカラ地方で群発地震が発生する「トカラの法則」? 科学的根拠なし【ファクトチェック】

次回コラムは

コラム「ファクトチェックの裏側」では、JFC編集部が日々、何をどのように検証しているのか。ノウハウやツールなどを紹介します。

今回は曖昧な言説を明快に検証するためのノウハウをお伝えしました。ファクトチェックを実際にやろうとすると、こういうところで悩むからです。次回は、悩んだ末にボツにした事例も紹介します。

出典・参考

“「惣菜に昆虫が混入」?バッタミックス粉は小麦粉などが原料【ファクトチェック】”. 日本ファクトチェックセンター. 2023年4月27日, https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/lifestyle/insect-contamination-in-prepared-meals-misconception-this-cricket-mix-powder-contains-wheat-flour-and-more/.閲覧日2025年7月8日

“(イスラエル・パレスチナ)瓦礫から救出される乳児の動画?【ファクトチェック】”. 日本ファクトチェックセンター. 2023年11月7日, https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/international/misrepresentation-infant-rescued-from-rubble-in-israel-palestine-video/ .閲覧日2025年7月8日

“ファクトチェックとは 定義・ルール・手法を解説”. 日本ファクトチェックセンター. 2024年1月29日, https://www.factcheckcenter.jp/explainer/fact-check/jfc-fact-checking-101/  .閲覧日2025年7月8日

“大地震の前にトカラ地方で群発地震が発生する「トカラの法則」? 科学的根拠なし【ファクトチェック】”. 日本ファクトチェックセンター. 2023年11月7日, https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/disasters/false-tokara-quake-law/  .閲覧日2025年7月8日

編集:古田大輔、根津綾子


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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誤報を生む確証バイアス/JFC検証8本、動画など【今週のファクトチェック】

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読売新聞が大誤報を出しました。日本維新の会の池下卓衆院議員による公設秘書給与の不正受給疑惑を東京地検特捜部が捜査しているというスクープ記事でしたが、捜査対象者を取り違えていました。 読売新聞の検証記事によると、担当記者の思い込みが原因で、取材相手が明確に認めたわけではないのに「肯定的な回答をした」と受け止め、また、別の関係者からは「誤報になるかもしれない」という助言があったにも関わらず、そういったマイナス情報は無視されました(読売新聞"マイナス情報を軽視、チェック機能働かず…東京地検捜査巡る誤報検証")。 人には「確証バイアス」があります。自分の考えに近い情報を「重要だ」と考え、そうではない情報を軽視・無視する傾向です。そして、意識的に自分の考えに近い情報ばかりを集めることを「チェリーピッキング」といいます。担当記者はまさにこれに囚われていたのでしょう。 偽情報や誤情報を「事実だ」と受け止めてしまう背景にも、バイアスがあります。日本ファクトチェックセンター(JFC)では、こういった内容を「ファクトチェック講座」で解説しています。無料ですので、ぜひ御覧ください。 フェ

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米トランプ大統領「日本政府は助けるつもりはないが日本国民は助けるつもり」と発言? 発言の記録なし【ファクトチェック】

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米トランプ大統領が「私は日本政府は助けるつもりはないが、日本国民は助けるつもりだ」と発言したかのような投稿がXで拡散しましたが、根拠不明です。ホワイトハウスからもトランプ氏からもそうした発表はありません。 検証対象 2025年8月28日、米トランプ大統領が「私は日本政府は助けるつもりはないが、日本国民は助けるつもりだ」と発言したかのような投稿がXで拡散した。 8月29日現在、投稿は2万回以上リポストされ、表示は988.7万件を超える。 投稿には「これが事実ならありがたい事だが、正直言って情けない事この上ない」「日本政府から日本国民を助けてください。もうめちゃくちゃですわ」や「これ本当に言ったのか??」などの指摘もある。 検証過程 投稿は2枚の画像付きだ。1枚目は演説するトランプ氏の静止画に日本語で「私は日本政府を助けるつもりはないが、日本国民を助けるつもりだ」というテロップが付いている。 2枚目は米ホワイトハウスの公式アカウントが8月27日に投稿したトランプ氏と政権幹部らとの集合写真の引用だ。「史上最高の内閣(The Greatest Cabine

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JICAと三条市が外国人定住の協定? 対象は日本人の協力隊員【ファクトチェック】

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自民党が結党以来初めて衆参両院で過半数を割った? 実際は過去3回【ファクトチェック】

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参政党が発表した「終戦80年談話」で「自民党が結党以来初めて衆参両院で過半数を割った」と記しましたが、誤りです。自民党は衆参両院で、過去に3回、過半数割れをしています。参政党は公式サイト上では「与党として」過半数を割ったと修正しましたが、8月29日正午現在、X上の投稿はそのまま残っています。 検証対象 2025年8月15日、参政党の公式アカウントが「終戦80年談話」として「自民党が、結党以来初めて衆参両院で過半数を割りました」とXに投稿した。 8月29日現在、この投稿は1万件以上リポストされ、表示回数は708万回を超える。投稿について「日本の誇りを今こそ取り戻しましょう!」「涙した」というコメントの一方で「国政政党なのに虚偽情報はダメ」という指摘もある。 検証過程 自民党の単独議席数の変遷 1955年に結党した自民党の単独の議席数が衆議院、参議院の両院で同時に過半数を下回ったのは、1993年、2009年、2024年の3回ある(日本経済新聞.”衆議院選挙と参議院選挙、議席の攻防史”)。 最初に過半数を下回ったのは衆議院。1976年の衆院選で、定数5

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月20日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0920.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどの

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理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

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