フェイクニュースとニュースリテラシー 知られていない記事の読み方【JFCファクトチェック講座 理論編8】

フェイクニュースとニュースリテラシー 知られていない記事の読み方【JFCファクトチェック講座 理論編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

理論編第7回は信頼できる情報源についてでした。第8回はニュースの読み方などニュースリテラシーについて説明します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

個人の発信もニュースに

政治、経済、社会、文化、スポーツ、趣味など様々な情報がニュースを通じて提供されています。しかし、その内容を正確に理解するためにはニュースリテラシーが必要です。

そもそもニュースとは何か。ニュース番組や新聞記事、Yahoo!ニュースやLINE Newsを思い浮かべる人もいるでしょう。

辞書を見ると「最近の出来事に関する報告」「以前には知られていなかった情報」「新聞などによって報じるもの」という定義があります。友人同士で「すごいニュースがあるんだけど」みたいな会話をすることもあるでしょう。

SNSの普及により、個人が発信した情報もニュースとして広まることがあります。例えば、2021年のアメリカの警察官による黒人暴行死事件では、スマホでその現場を撮影した17歳の女性が報道分野で世界的に有名なピュリツァーの特別表彰を受けました。

マスメディアに頼るしかなかった時代

かつては、多くの人に情報を伝えようと思ったら、マスメディアの力に頼るしかありませんでした。

1972年の佐藤栄作首相の退陣会見。佐藤首相は新聞報道に不満があったことから「テレビカメラはどこか、国民に直接話したい。新聞記者とは話さない」と言って、テレビカメラにだけ退陣を語ったことで有名です。

今だったらおそらく、「私はYouTubeで話す」と言っていたはずです。

メディアの利用状況と信頼性

総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」を見てみましょう。

速報のために見るメディアは

「いち早く世の中の出来事や動きを知るために最も利用するメディア」という質問に対しては、10~50代まで、1位がインターネットでした。

全年代の平均は60.1%。60代だけがテレビが63.6%、ネットが32%とかなり違う傾向が出ていました。 

信頼できる情報を得るためのメディアは

「世の中の出来事や動きについて信頼できる情報を得るために最も利用するメディア」という質問に対しては、20代を除く全年代がテレビを1位に挙げています。

全年代の平均は53.1%。20代だけがネットが最多の44.2%、テレビも43.8%なので互角でした。

情報の6区分とその目的

ニュースや情報の信頼性を見極め活用する能力をニュースリテラシーといいます。アメリカの非営利団体「News Literacy Project」は、情報を6区分に分け、それぞれに固有の目的があると説明します。

「エンターテイメント=楽しませること」「オピニオン=説得すること」「広告=売ること」「ニュース=知らせること」「生情報=記録すること」「プロパガンダ=扇動すること」です。

これらの区分を理解することで、その情報の目的を見極めることができます。

ニュースとオピニオンの区別

ニュースとオピニオンの区別は非常に重要です。

ニュースは知らせること=情報を提供することを目的とし、公平性や正確性が求められます。一方、オピニオンは説得することが目的であり、記者の個人的な視点が前面に出ています。

ただし、オピニオンを構成している一つ一つのデータは客観的事実に基づいて公正である必要があります。そうでなかったら煽動を目的としたプロパガンダと変わらなくなってしまいます。

ニュース記事に対して、記者個人の視点がなくて浅いとか、オピニオン記事に対して客観的であるべき報道に意見が入っているみたいな批判がありますが、これはニュースとオピニオンの区別がついていない批判です。

一方で、記者個人の意見が入っていなくても、偏っているニュース記事はあります。賛成・反対が拮抗するような話題で、賛成派のみの声を取り上げるような事例です。

ニュースアグリゲーターの利点と課題

大量のニュースが集まっていて便利なYahoo!ニュースやLINE Newsなどのニュースアグリゲーターには、実は大きな課題があります。

あまりに多くの記事が集まり、頻繁にトップ記事が変わるために、重要なニュースを見逃す可能性があるということです。

紙の新聞が全盛の時代には、朝刊には前日までの重要なニュースが網羅されていたのでそういう問題はありませんでした。情報が氾濫する時代だからこそ、そういったパッケージ化された網羅性のある情報の価値が高まっています。

次回はオンライン詐欺について

ニュースリテラシーは、情報の信頼性を見極め、正確に理解するために必要な能力です。情報の区分やニュースとオピニオンの違いを理解し、複数の情報源を比較してバイアスを意識することが重要です。

次回は、被害が拡大しているオンライン詐欺について詳しく説明します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

誤情報対策はファクトチェックだけじゃない 信頼性の高い役立つサイト集【#参院選ファクトチェック解説】

誤情報対策はファクトチェックだけじゃない 信頼性の高い役立つサイト集【#参院選ファクトチェック解説】

誤情報対策は、ファクトチェックに限りません。重要なのは、正確で信頼性の高い情報に基づいて判断することです。2025年参院選の投開票日が7月20日に迫る中、誰に投票するかを決めるために役立つ、信頼性の高い情報を提供しているサイトを紹介します。 日本最大の選挙・政治の情報サイト 日本最大の選挙・政治の情報サイトとして知られる選挙ドットコムには、日本のあらゆる選挙や政治家の情報がまとまっています。 候補者一覧の自分の選挙区を選ぶと、候補者のプロフィールや活動記録、動画や政策アンケートの回答などをまとめて確認できます。 選挙ドットコム”第27回 参議院議員通常選挙” https://sangiin.go2senkyo.com/2025 ノーカット演説動画と文字起こし NHKは今回、非常に意欲的な選挙報道に取り組んでいます。その一つが、全候補者を候補者一人ひとりの演説をほぼノーカットで公開し、文字起こしも掲載するという試みです。ほとんどの候補を網羅し、各選挙区のページから探せます。 これまでの選挙報道は、番組の尺や紙面の大きさの制約から、候補者の演説の一部を

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
中国人の生活保護が5年で2倍に急増? 増加率は4.5%【#参院選ファクトチェック】

中国人の生活保護が5年で2倍に急増? 増加率は4.5%【#参院選ファクトチェック】

外国人受け入れが参院選の争点の一つとなる中で「中国人の生活保護が5年で2倍に急増」という情報が拡散しましたが、誤りです。5年間で約4.5%増です。 検証対象 2025年7月6日、「中国人の生活保護者5年間で2倍に激増…..」という投稿が拡散した。投稿の動画では「中国人による国内の生活保護者が5年で2倍に激増してる」と語っている。 2025年7月18日現在、この投稿は1400件以上リポストされ、表示回数は2.5万回を超える。投稿について「C国移民は生活保護でウハウハ」「私達は誰の為に税金を払ってるの?」というコメントがついている。 検証過程 5年で増加した中国籍の受給者は約4.5% 生活保護を受給している国籍別の人数や世帯数は、厚生労働省の被保護者調査で確認することができる(厚生労働省”被保護者調査”)。 現在公開されている最新の2023年版を確認すると、中国籍の生活保護受給者は9471人だ(被保護者調査 / 令和5年度被保護者調査 / 年次調査(基礎調査、個別調査)令和5年7月末日現在 確定値)。 2023年の5年前の2018年を確認すると、中

By 木山竣策
トランプ大統領が自公政権を親中と認め、安全保障上の脅威と激怒? 書簡の文言は他国と一緒【#参院選ファクトチェック】

トランプ大統領が自公政権を親中と認め、安全保障上の脅威と激怒? 書簡の文言は他国と一緒【#参院選ファクトチェック】

参院選の争点の一つでもある日米関税交渉について、「トランプ大統領、自公政権が親中とハッキリ認める!!」「『安全保障上の驚異』と激怒。関税25%上乗せへ!!」という投稿がXで拡散しましたが、誤りです。根拠として添付されている画像は、日本に25%の追加関税を課すことを通告する石破茂首相宛ての書簡を写したものですが、内容は関税の数字などを除けば「安全保障上の脅威」という文言も含めて同じ内容のものを各国に送っています。 検証対象 7月8日、「トランプ大統領、自公政権が親中とハッキリ認める!!」「『安全保障上の驚異』と激怒。関税25%上乗せへ!!」という投稿がXで拡散した。 7月18日現在、リポスト数は8600を超え、表示件数は731.3万を超えた。投稿には「敵国と認められたって事ですね!」「トランプ、石破のことめちゃくちゃ嫌いなんだな」というコメントや、「英語くらい読もうよ。関税25%とは言っているけど、それ以外言ってないだろ」「翻訳するリテラシーがあればこんなものに引っ掛からないのに」などの指摘が寄せられている。 検証過程 添付された書簡の内容は 拡散し

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
れいわ・山本代表「外国人犯罪の中で一番多いのは米兵」? 検挙数 の公式データと異なる【#参院選ファクトチェック】

れいわ・山本代表「外国人犯罪の中で一番多いのは米兵」? 検挙数 の公式データと異なる【#参院選ファクトチェック】

れいわ新選組・山本太郎代表が「一番外国人犯罪の中で多いのなんやねん、といったら米兵」と発言し、Xにも投稿しましたが誤りです。最新の白書などで確認すると、2023年の刑法犯検挙数は米軍関係者118件で、国籍別ではベトナムや中国籍が多く、「外国人犯罪で最も多いのが米兵によるもの」とは言えません。 検証対象 2025年7月17日、れいわ新選組・山本代表が「外国人犯罪が多くなってるって言ってるけど、一番外国人犯罪の中で多いのなんやねん、といったら米兵じゃねぇかよ」と発言する動画がれいわ新選組の公式Xに投稿された。 投稿には7月13日の池袋での演説の動画が添付され、動画でも同様の発言をしている。2025年7月17日現在、この投稿は1400件以上リポストされ、表示回数は24.8万回を超える。投稿について「応援しています」「天才だ」というコメントの一方で「デマ」という指摘もある。 検証過程 警察庁は、毎年、犯罪に関する統計や対策などをまとめた「警察白書」を公開している。現時点の最新版(2024年版)を確認すると、2014年~2023年の主な国籍別検挙数がまとめられて

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)