ヒラリー・クリントン、児童性売買捜査の「要注意人物」に指定される?【ファクトチェック】

ヒラリー・クリントン、児童性売買捜査の「要注意人物」に指定される?【ファクトチェック】

ヒラリー・クリントン元米国務長官が「児童性売買捜査の『要注意人物』に指定される」というポストが拡散しましたが、誤りです。アメリカで性的目的の人身売買容疑で起訴され、自殺したジェフリー・エプスタイン氏関連の文書が公開されたことが拡散のきっかけとなっています。

検証対象

2024年1月28日、クリントン元国務長官が「児童性売買捜査の『要注意人物』に指定される」というポストが拡散した。このポストは2024年2月13日現在、33万回以上の表示回数と2200件以上のリポストを獲得している。

クリントン元国務長官が児童性売買に絡んでいるという言説は、過去にも拡散し、ファクトチェック団体のPolitiFactUSA Todayが検証して「誤り」と判定している。

検証過程

まとめサイトの引用元は

今回拡散したのは、まとめサイト「トータルニュースワールド」のポストだ。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、これまでもトータニュースワールドの記事を検証し、誤りと判定している(検証1検証2)。

トータルニュースワールドは今回、「illuminatibot」というアカウントの英文ポストを根拠としている。

「エプスタイン文書」がきっかけ

記事は「新たに公開された法廷文書(以下、エプスタイン文書)で有罪判決を受けた小児性愛者ジェフリー・エプスタインとの親密な関係が暴露」などと伝えている。

今回、クリントン元国務長官が児童買春組織との関係を指摘されたきっかけは、「エプスタイン文書」だ。性的人身売買などで2019年に起訴され、公判前に自殺したアメリカの富豪ジェフリー・エプスタイン元被告の関係者リストが2024年1月に公表された。この文書が「エプスタイン文書」といわれるものだ。

これを「性的人身売買の顧客リスト」だという言説が拡散し、そのリストの中にはビル・クリントン元大統領のほか、クリントン元国務長官の名前もあった。文書にクリントン夫妻の名前があることを理由に夫妻が違法行為に及んだ証拠にはならず、エプスタイン氏が著名人との交友があったことを示すにとどまる(Newsweek)。性的人身売買に関わっていたというような言説を「誤り」や「根拠なし」とする検証は、複数のファクトチェック機関が実施している(Lead StoriesSnopesFactCheck.orgUSA Today)。

再拡散する「ピザゲート」

クリントン元国務長官が児童買春組織に関わっているという言説は、2016年の米大統領選の際に拡散した偽情報だ。これは「ピザゲート事件」と呼ばれる。

ピザゲート事件とは、2016年の米大統領選挙で、ワシントンD.C.のピザ店が児童売買春の拠点となっており、民主党の候補者だったクリントン元国務長官らが関わっているとの偽情報が拡散。それを信じた男がピザ店で起こした発砲事件だ(BBCイミダス)。ピザゲート事件は、日本でも総務省のメディアリテラシー教育の資料で偽情報の具体例として紹介されている。

過去にも「FBIが、クリントン元国務長官が関与した児童買春の証拠を確認した」という言説が拡散したが、FBIはこうした証拠の存在を確認しておらず、「ピザゲート」が事実であると認めていない(AP通信PolitiFact)。

判定

クリントン元国務長官が「児童性売買捜査の『要注意人物』に指定される」は、誤り。2016年以降の「ピザゲート」事件や「エプスタイン文書」に関連した言説は、繰り返し拡散してきた典型的な偽情報だ。

検証:高橋篤史
編集:古田大輔、宮本聖二、藤森かもめ、野上英文


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

安倍元首相銃撃の時も歴代首相辞任の時も号外はなかった? 各地で配られた【ファクトチェック】

安倍元首相銃撃の時も歴代首相辞任の時も号外はなかった? 各地で配られた【ファクトチェック】

「石破首相退陣へ」という号外が発行されたことをめぐり、「安倍元総理暗殺のときも号外はなかった。歴代総理辞任のときもこんなの出なかった。大手新聞が号外印刷までして。不気味だね」という投稿が拡散しましたが誤りです。号外は当時、各地で配られていました。 検証対象 2025年7月24日、「安倍元総理暗殺のときも号外はなかった。歴代総理辞任のときもこんなの出なかった。大手新聞が号外印刷までして。不気味だね」という投稿が拡散した。 投稿には、「石破首相 退陣へ」という見出しの読売新聞の号外の画像が添付されている。 2025年7月24日現在、この投稿は1000件以上リポストされ、表示回数は25万回を超える。投稿について「本当に不気味ですよね」「ほんまや」というコメントの一方で「号外はありました」という指摘もある。 検証過程 2025年7月20日投開票の参議院選挙で、自民党、公明党は過半数に届かず石破首相の進退が注目されていた。7月23日には一部で「8月末までに退任か」という報道があったが、石破首相は「一部の辞任報道は事実でない」と強く否定している(NHK"石破首相

By 木山竣策
5倍に増えた日本のファクトチェック、最も誤りを指摘されたのは参政党 誰の何が検証されたのか【参院選ファクトチェック解説】

5倍に増えた日本のファクトチェック、最も誤りを指摘されたのは参政党 誰の何が検証されたのか【参院選ファクトチェック解説】

2025年参院選は日本の新聞社やテレビ局が初めて本格的にファクトチェックに取り組む画期的な選挙となりました。同時に、それだけ誤情報が蔓延していた選挙だったと言えます。誰のどのような発信が検証されたのか、分析しました。 ファクトチェックは2024年衆院選から5倍に ファクトチェックの普及に取り組むNPO「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」が、2025年参院選に関する新聞社やテレビ局やファクトチェック団体などの検証記事を一覧にした「参院選2025ファクトチェック」で見ていきます。 参院選の期間中(7月3-20日)に183の記事がリストに載りました(2025年7月24日現在)。昨年の衆院選で日本ファクトチェックセンター(JFC)が確認できたファクトチェック記事は34(うちJFCが28)で、5倍超に急増したことになります。 これは2024年の兵庫県知事選を受けて、各社が誤情報対策に力を入れた証です。各社がどうファクトチェックを始めたかについては、解説を書いています。 JFC. “「ファクトチェック後進国」日本に変化の兆し 兵庫県知事選きっかけに全国の新

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
陰謀論ブログ拡散した国民・玉木代表はロシア出禁? 入国禁止は3年前から他の政治家も【ファクトチェック】

陰謀論ブログ拡散した国民・玉木代表はロシア出禁? 入国禁止は3年前から他の政治家も【ファクトチェック】

国民民主党・玉木雄一郎代表について「陰謀論ブログを大拡散」「ロシア出禁だった」と2つの出来事を結びつける投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。ロシア政府が玉木氏を入国禁止にしていることは事実ですが、3年前から他の政治家らとともに対象となっており、ブログ拡散とは無関係です。 検証対象 7月17日「【悲報】全く根拠の無い陰謀論ブログを大拡散した玉木雄一郎さん、ロシア出禁だったw」という投稿がXで拡散した。 投稿は7月23日現在、2800回以上リポストされ、表示は51万回を超える。投稿には「絶対今回の一斉凍結に関わってますよね」「ロシアのプーチンは反DSなのでもちろんDS玉木は出禁」というコメントや「今ロシアに普通に行ける議員の方がやばい」「日本はウクライナ応援国。国会議員はほぼロシア出禁」などの指摘が寄せられている。 検証過程 拡散したブログとは 拡散した投稿には、画像が2枚付いている。玉木雄一郎氏のX投稿と、週刊現代の記事のスクリーンショットだ。 玉木氏のX投稿は7月15日付けで「我が党についても言及があるが、外国勢力からの選挙への介入工作

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
出口調査と開票結果が違うのは不正選挙? 繰り返し拡散する誤情報【#参院選ファクトチェック】

出口調査と開票結果が違うのは不正選挙? 繰り返し拡散する誤情報【#参院選ファクトチェック】

2025年参院選の開票について「出口調査と実際の結果が異なるのは不正選挙の証拠」という趣旨の言説が多数拡散していますが、誤りです。出口調査には期日前投票の結果が反映されていない上、出口調査に真実を答えない人や回答を拒む人もいるため、実際の結果と異なることは珍しくありません。過去に何度も拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)では「誤り」と判定しています。 検証対象 7月20日投開票の参院選の結果が出口調査の結果と異なることから、「選挙で不正があった」と示唆する言説が多数拡散している(例1、2、3)。 投稿には「不正選挙」「明らかに不正だと思う」などのコメントのほか、「期日前投票がそれだけ多かったとかではなく?」「出口調査と結構違った例なんて幾らでもあるだろ」などの指摘も寄せられている。 検証過程 出口調査と実際の結果を比較すると 出口調査とは、テレビ局や新聞社が選挙の投開票日に誰が当選確実かをいち早く報じたり、投票の傾向を分析したりするために、投票所の出口で有権者へ誰に投票したかを聞く調査だ(NHK ”参院選2025開票速報投票日 出口調査”

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)