フェイクニュースとクリティカルシンキング 吟味する思考、日本は最下位【JFCファクトチェック講座 理論編4】

フェイクニュースとクリティカルシンキング 吟味する思考、日本は最下位【JFCファクトチェック講座 理論編4】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

理論編の第3回は個々人の偏りを強化し、社会の分断を深める危険性のある「アルゴリズム」について解説しました。第4回は、メディアリテラシーの基礎となり、偽情報・誤情報対策としても役立つクリティカルシンキングについて説明します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

クリティカルシンキングとは批判ではなく吟味

クリティカルシンキングとは、直訳すると批判的思考を意味します。

しかし、ただ批判するだけの思考ではありません。英英辞書で見ると「感情や意見に左右されずに注意深く考えること」という説明があります。

これは直訳の「批判的思考」とは意味合いが異なり、本来的な意味に沿って「吟味思考」と訳す人もいます。

クリティカルシンキングの重要性

批判するだけではなく、じっくりと考えることが吟味思考=クリティカルシンキングの本質です。

具体的には、相手の発言に耳を傾け、証拠に基づいて論理的に評価することなどが求められます。

これに対して、クリティカルシンキングに基づかない行動は、先入観に囚われ、相手の発言の背景や目的を考慮しない安易な批判に陥りがちです。

システム1とシステム2

人間の思考プロセスは大雑把にいうと「システム1とシステム2」に分かれる、と言われます。

システム1は直感的で無意識の思考に使われます。

例えば、3+4みたいな簡単な計算は頭を使わなくてもできるし、青信号になったら横断歩道をわたるというときにも考えずに人は行動できます。


システム2は意識的で複雑な思考です。

387×295のような計算には頭を使いますし、「バイアスを800字で説明しなさい」という問題は無意識で回答することはできません。

バイアスはシステム1が働いていて、クリティカルシンキングはシステム2を活用することとも言えます。

日本におけるクリティカルシンキング教育

OECD国際教員指導環境調査(2018)によれば、日本の中学校ではクリティカルシンキング教育の実施率が非常に低いです。

先進38カ国の調査で「生徒に批判的思考を促しているか」という質問に対し、各国平均が約8割なのに対し、日本はわずか2割です。

クリティカルシンキングの効果

JFCが国際大グロコムと実施した2万人調査で、クリティカルシンキングができているかの自己評価してもらった上で、テストも実施しました。

実際にテストの点数が高い人は偽・誤情報の拡散に慎重だという傾向が見られました。

一方で、自己評価が高い人は情報の誤りに気づきにくい。

これは知識のない人ほど自分の能力を過大評価する「ダニング・クルーガー効果」が影響しているのかもしれません。

クリティカルシンキングを具体的行動に結びつける

自分はクリティカルシンキングができていると思い込むことは危険です。では、具体的にどう吟味すればいいのか。

2万人調査から「画像検索」や「リンク先の確認」をする人は偽・誤情報の誤りに気づく傾向があることもわかっています。この講座では実践編でこれらについても解説します。

次回はファクトチェックの手法

これまで偽情報・誤情報に関する基礎的な知識を解説してきました。次回からは、いよいよ具体的なファクトチェックの手法について解説します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

宮城県・村井知事が土葬を肯定? 「完全に断念した」と発言【ファクトチェック】

宮城県・村井知事が土葬を肯定? 「完全に断念した」と発言【ファクトチェック】

2025年10月26日に投開票される宮城県知事選で、立候補している現職の村井嘉浩氏が「東日本大震災後に火葬場が足りず一時的に土に埋葬されたことを引き合いに出し、土葬を肯定している」という趣旨の投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。村井氏はYouTubeの討論番組で震災時の土葬について発言していますが、県内での土葬については「完全に断念した」と述べています。 検証対象 拡散した言説 2025年10月22日、「東北で被災されて火葬場足りなくて…なくなく、しかも一時的に埋葬されたことを村井現知事は引き合いに出して、それで土葬を肯定するってふざけてんの?」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月24日現在、投稿は7500回以上リポストされ、表示は232万件を超える。投稿には「ちょっと待て それのソースは?」などの指摘の一方、「嫌悪感しかないわ😡🔥」「村井知事のヤバい面が次々に明るみに出てきましたね😆」など同調するコメントが多数ある。 投稿に添付されているのは、宮城県知事選に立候補している前参院議員の和田政宗氏の街頭演説だ。和田氏の動画

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
広島県尾道市に猫の石畳? 画像はAI生成か【ファクトチェック】

広島県尾道市に猫の石畳? 画像はAI生成か【ファクトチェック】

広島県尾道市に猫模様の石畳があるという動画がTikTokやInstagramで拡散しましたが、誤りです。Googleで検索しても尾道市にあると表示されますが、画像はAIで生成された可能性が高く、尾道市は「把握しておりません」と否定しています。 検証対象 拡散した言説 2024年ごろから「広島県尾道市に猫の石畳がある」という動画がTikTokやInstagramのリールなどで拡散している(例1、例2)。 動画では猫の顔の形をした石畳が映り、尾道市の「猫の石畳」として紹介されている。 検証する理由 動画について「かわいい」「絶対行きたい」というコメントがつく一方で「これは本当にある道ですか?」という指摘もある。 実際に猫の石畳目当てで来る旅行客もおり、Xでは、尾道市のカフェが「それを目的で尾道来られたお客様がいらっしゃいまして、残念に思っておられました」と投稿し、拡散している。 検証過程 画像はAI生成か Googleレンズで検索すると、同様の画像が多数表示される。 この画像をダウンロードしてAI生成検出ツールHIVE MODERATIO

By 木山竣策
日本では土葬すると死体遺棄で法律違反? 禁止されておらず、国内事例も【ファクトチェック】

日本では土葬すると死体遺棄で法律違反? 禁止されておらず、国内事例も【ファクトチェック】

日本では土葬をすると死体遺棄で法律違反という情報が拡散しましたが、不正確です。埋葬に関する法律は土葬を禁じていません。自治体が認可した墓地の区域内で、実際に土葬をしている事例もあります。 検証対象 拡散した言説 2025年10月19日、「土葬って言うのやめませんか?日本では死体遺棄、法律違反ですよ」という投稿が拡散した。 検証する理由 10月21日現在、この投稿は1.4万件以上リポストされ、表示回数は346万回を超える。投稿について「間違いなく日本では死体遺棄ですね」「その通りです!」というコメントの一方で「土葬は禁止されていません」という指摘もある。 宗教的な理由などで土葬を求める人達もおり、議論が広がる中で「違法」という情報は、反対派を中心に拡散する傾向がある。 検証過程 埋葬に関する法律の規定は 墓地や埋葬は「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」で、2条「この法律で『埋葬』とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう」、2条の2「この法律で『火葬』とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう」、4条

By 木山竣策
飛行機雲は「ケムトレイル」でワクチン混じり? 世界で繰り返し拡散する陰謀論【ファクトチェック】

飛行機雲は「ケムトレイル」でワクチン混じり? 世界で繰り返し拡散する陰謀論【ファクトチェック】

飛行機雲は実は雲ではなく、闇の勢力が危険な化学物質を散布する「ケムトレイル」だという陰謀論が存在します。最近ではワクチン成分が含まれているという情報が拡散しましたが、誤りです。「ケムトレイル」は存在せず、飛行機雲は航空機の飛行で生じる水蒸気や二酸化炭素などによる線状の雲です。各国の公的機関やファクトチェック機関などが「根拠のない主張」として、度々、否定しています。 検証対象 拡散した言説 2025年10月18日、「最近ではワクチン成分が撒かれているらしい」という文言付きの動画がXで拡散した。動画は飛行機雲は、実は危険な化学物質の「ケムトレイル」だという陰謀論に基づいている。 検証する理由 10月22日現在、投稿は860回以上リポストされ、表示は6万件を超える。 投稿には「なんでここの人達はこんな陰謀論を信じ込むんだよ」などの指摘がある一方、「ケムトレイルの恐怖😰」「岸田が コロナワクチンが大量に余って 捨てた と言ってたから 捨てるって空しかないでしょ」など同調するコメントも多数ある。 ケムトレイルは根拠のない陰謀論として、何度も繰り返し拡散し

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)