Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Metaのファクトチェックとコンテンツ規制に関する方針転換に対する公開書簡

Facebook、Instagram、Threadsを運営するMetaが現状のファクトチェック・プログラムを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針を発表しました。マーク・ザッカバーグCEOは「検閲が過剰だ」とその理由を述べ、これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体を「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と説明しました

世界中のファクトチェック団体を認証している国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は、この決定と発言に対して公開書簡を出しました。日本ファクトチェックセンター(JFC)を含む多数のファクトチェック団体も署名しています。JFCとして日本語訳し、こちらに掲載します。

IFCNの公開書簡(2025年1月9日)

拝啓 ザッカーバーグ様、

9年前、私たちはFacebook上の虚偽情報によって引き起こされる現実世界での被害についてあなたに公開書簡を書きました。それに応じて、Metaはファクトチェックプログラムを立ち上げ、数百万人のユーザーをデマや陰謀論から保護しました。今週、あなたは「検閲が過剰である」との懸念から、アメリカ国内でこのプログラムを終了すると発表しました。この決定は、正確な情報をオンラインで広めるために築いてきたほぼ10年にわたる進歩を無に帰す恐れがあります。

2016年に開始されたこのプログラムは、オンラインでの事実の正確性を促進する大きな一歩でした。このプログラムは、Facebook、Instagram、Threads上の虚偽やミスリードな情報の拡散を減らすことで、ユーザーにとってポジティブな体験を提供しました。私たちは、ソーシャルメディアを利用する大多数の人々は、生活に関する決断を下すためや、友人や家族と良い交流を持つために信頼できる情報を求めていると信じていますし、データもそう示しています。検閲ではなく、拡散を遅らせるためにユーザーに虚偽情報について知らせることがこのプログラムの目標でした。ファクトチェッカーたちは表現の自由を強く支持しており、これまでにもその立場を繰り返し表明し、昨年のサラエボ宣言でも公にしていることです。何かが真実ではないと理由を述べる自由もまた、表現の自由なのです。

しかし、あなたはこのプログラムが「検閲の道具」になり、「ファクトチェック担当者は政治的に偏りすぎており、信頼を生むどころか壊してきた。特にアメリカでは」と述べています。これは事実ではありません。私たちは今日の状況や歴史的な記録のために、この点を正したいと思います。

Metaは、すべてのファクトチェックパートナーに対して、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)による認証を通じて、厳格な非党派性を満たすように要求してきました。これには、政党や候補者との関係を持たないこと、政策提言をしないこと、そして客観性と透明性への揺るぎない献身が含まれています。各ニュース組織は、独立した評価とピアレビューを含む厳格な認証を毎年受けています。Metaはこれらの基準を疑問視するどころか、その厳格さと有効性を一貫して称賛してきました。わずか1年前には、MetaはこのプログラムをThreadsに拡張しました。

あなたの発言は、ファクトチェッカーが検閲に責任を負っているかのように示唆していますが、Metaはファクトチェッカーにコンテンツやアカウントを削除する権限や能力を与えたことはありません。オンラインではしばしば、Metaの行動に関して、ファクトチェッカーが責められたり、嫌がらせを受けたりしてきました。あなたの最近の発言は、そうした誤解を間違いなく助長するでしょう。しかし、実際には、ファクトチェッカーによって虚偽と判定されたコンテンツをどのようにランクダウンまたはラベル付けするかを決定したのはMetaのスタッフでした。これまでの数年間、複数のファクトチェッカーがMetaに対して、このラベル付けをより目立たないものにし、検閲だという印象を避ける改善方法を提案してきましたが、Metaはこれらの提案に対して何の行動も起こしませんでした。さらに、Metaは予防的措置として、政治家や政治候補者をファクトチェック対象から外していました。彼らが既知の虚偽情報を拡散した場合でもです。一方、ファクトチェッカーは、政治家も他の人たちと同様にファクトチェックされるべきだと主張してきました。

長年にわたり、Metaはこのプログラムの成果について限られた情報しか提供してきませんでした。ファクトチェッカーや独立した研究者たちが繰り返し、より多くのデータを求めたにもかかわらずです。しかし、わかる限りでは、このプログラムは効果的でした。研究によれば、ファクトチェックラベルは虚偽情報への信念や共有を減少させました。また、あなた方自身が議会への証言で、Metaの「業界をリードするファクトチェックプログラム」を誇っていました

あなた方は、Xのようなコミュニティノートプログラムを開始する計画を述べました。しかし、Xの例が示すように、この種のプログラムがポジティブなユーザー体験を生むとは私達は考えていません。研究によれば、多くのコミュニティノートが表示されないままであり、その理由は、正確性の基準や証拠ではなく、広範な政治的コンセンサスに依存しているためです。それでも、コミュニティノートがサードパーティのファクトチェックプログラムと共存できない理由はありません。これらは相互排他的ではないので。プロフェッショナルなファクトチェックと協力するコミュニティノートモデルは、正確な情報を促進するための新しいモデルとして強力な可能性を持っています。その必要性は非常に大きいのです。人々がソーシャルメディアプラットフォームには詐欺やデマが溢れていると信じれば、そこに時間を費やしたり、ビジネスをしたりすることを望まなくなるでしょう。

この問題は、アメリカ国内の政治的文脈に関連しています。今回のあなたの発表は、次期大統領ドナルド・トランプ氏の当選認定後で、新政権へのテック業界からの幅広い対応の一環としてなされたものです。トランプ氏自身も、あなた方の発表が彼の脅迫に対応したものである「可能性が高い」と述べました。私たちのファクトチェックコミュニティの一部のジャーナリストの中には、彼らが働く国々の政府から同様の脅迫を受けた経験を持つ者もおり、このような圧力に抵抗することの難しさを理解しています。

2025年にファクトチェックプログラムを終了する計画は、現時点ではアメリカ国内に限定されています。しかし、Metaは100以上の国で同様のプログラムを展開しており、それらの国々は民主主義や発展の段階が非常に多様です。一部の国々は、政治的不安定選挙干渉群衆による暴力虐殺すら引き起こす誤情報に非常に脆弱です。もしMetaが世界的にこのプログラムを停止することを決定すれば、多くの場所で現実世界での被害が確実に発生するでしょう。

この瞬間は、公的サービスとしてのジャーナリズムへの資金提供の必要性を強調しています。ファクトチェックは、アメリカ国内と世界の両方で、共有された現実と証拠に基づく議論を維持するために不可欠です。慈善分野は、この重要な時期にジャーナリズムへの投資を増やす機会を持っています。

最も重要な点として、Metaが第三者ファクトチェックプログラムを終了するという決定は、正確で信頼できる情報を優先するインターネットを目指す人々にとって、後退であると私達は考えます。私たちは、何とかしてこの失地を回復できることを願っています。そして、日常生活に関して情報に基づいた意思決定をするために、人々に必要な情報を提供するツールとしてファクトチェックを活用することに関心を持つMetaや他のテクノロジープラットフォームと再び協力する準備ができています。

真実へのアクセスは表現の自由を支え、コミュニティが価値観に沿った選択をする力を与えます。私たちはジャーナリストとして、真実の追求が民主主義の礎として存続することを確実にするために、報道の自由への献身を揺るぎなく保持し続けます。

敬具

訳:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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政治に関する偽・誤情報には、対象となっている政党や政治家にとってプラスになるものもあれば、マイナスになるものもあります。単純に言えば、「褒める」か「貶す」のどちらかです。 自民党の高市早苗新総裁は、ネット上でも人気が高かった安倍晋三元首相の路線の継承者を自認し、高市氏自身もネットで人気の高い保守系政治家です。総裁に選ばれて注目度がさらに上がったことで、当然、偽・誤情報が流れています。 現在のところ、「褒める」傾向の拡散が多いのが特徴です。日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証したまとめサイトからの偽・誤情報の見出しの冒頭に「朗報」とついているところが象徴的です。「貶す」方向性であれば、これが「悲報」になりがちです。 公明党が連立離脱を発表し、高市氏はいきなり厳しい立場に立たされています。少数与党で政権運営に苦労すれば、支持率が伸び悩み、批判も増えてくるでしょう。そうすると、偽・誤情報は「貶す」方向に転じていきます。その方が拡散するからです。 褒める内容であれ、貶す内容であれ、間違っているものは間違っています。まずは、事実関係の確認が不可欠です。(古田大輔)

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総理大臣が高市氏に代わるからトランプ政権が態度を変えた? 軽減措置など総裁選前から報道【ファクトチェック】

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