縄を跳ぶ少女の影は原爆でできた?/生成AIで世論工作/WHOパンデミック条約をめぐる陰謀論など【注目のファクトチェック】

縄を跳ぶ少女の影は原爆でできた?/生成AIで世論工作/WHOパンデミック条約をめぐる陰謀論など【注目のファクトチェック】
✉️
日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら

原爆の熱線によってできた影だとして「縄を跳ぶ少女」の画像が拡散。Open AIがロシアや中国などを拠点にする団体が生成AIを世論操作に利用していると指摘。NHKがWHOのパンデミック条約をめぐる陰謀論について報じています。

JFCのファクトチェック記事

自国民の奨学金の予算70億円、外国人留学生の予算180億円?

2022年以降「自国民の奨学金の予算70億円、外国人留学生の予算180億円」という言説が何度も拡散していますが誤りです。70億円は給付型奨学金制度創設時の予算であり、現在は大幅に増額されています。

自国民の奨学金の予算70億円、外国人留学生の予算180億円?【ファクトチェック】
2022年以降「自国民の奨学金の予算70億円、外国人留学生の予算180億円」という言説が何度も拡散していますが誤りです。70億円は給付型奨学金制度創設時の予算であり、現在は大幅に増額されています。 検証対象 2024年5月21日、「自国民の奨学金の予算→70億、外国人留学生の予算→180億」という言説が拡散した。投稿には2022年6月の参議院決算委員会で小野田紀美氏が留学生、学生支援について語る動画が添付されている。 2024年5月31日現在、このポストは3500件以上リポストされ、表示回数は65万件を超える。投稿について「日本人に無関心な日本政府」というコメントの一方で「デマ情報に注意」と指摘する声もある。 検証過程 動画は2022年6月の参議院決算委員会の様子 拡散した動画は2022年6月13日に開かれた参議院決算委員会で、自民党の小野田紀美参議院議員の質問と文科省の増子宏高等教育局長(当時)や岸田文雄首相が答弁している様子だ。 この動画や、動画の一部を切り取ったスクリーンショットは繰り返し拡散している。2022年7月には、早稲田大学政治経済

WHOや日本医師会のロゴは「悪魔の手先として人間を支配する」という意味?

WHO(世界保健機関)や日本医師会のヘビを使ったロゴマークについて、「悪魔の手先として人間を支配する意味だ」という言説が拡散しましたが、誤りです。杖に蛇が巻き付いた紋様は、ギリシャ神話に登場する治療の神様「アスクレピオス」に由来しており、医術や医療の象徴です。

WHOや日本医師会のロゴは「悪魔の手先として人間を支配する」という意味?【ファクトチェック】
WHO=世界保健機関や日本医師会のヘビを使ったロゴマークについて、「悪魔の手先として人間を支配する意味だ」という言説が拡散しましたが、誤りです。杖に蛇が巻き付いた紋様は、ギリシャ神話に登場する治療の神様「アスクレピオス」に由来しており、医術や医療の象徴です。 検証対象 2024年5月7日、「『WHO』のロゴも「日本医師会」のロゴも同じで『ヘビ』が広く使われている。旧約聖書で『ヘビ』とは、サタン = 悪魔の象徴であり、ヘビをロゴにするということは『悪魔の手先として人間を支配します』ということを意味する」と主張する言説が拡散した。WHOと日本医師会のロゴの画像も添付されている。 5月31日現在、150万以上の閲覧と1800以上のリポストがあるが、「デマはいけない」「ギリシャ神話の医術の神だ」という内容を否定するコメントが数多くついている。 また、海外のアカウントでも、このロゴを使って、「なぜ地球をターゲットにしているのか、なぜピンで刺しているのか、なぜ舌をだす蛇なのか、WHOの意図は一目瞭然だ」という英文の投稿がある。 検証過程 WHOや日本医師会をはじ

JFCのファクトチェックコラム

「原爆による少女の影」はCGで作った画像

人の影が壁に写ったモノクロの画像が、「原爆が爆破した日、被災者の『人の影』が壁に残されていました」という文言と共に拡散しました。爆心地には「人の影」が残った建物もあります。しかし、ネットで拡散した画像の中にはCGで作られた画像も混じっていました。

「原爆による少女の影」はCGで作った画像【ファクトチェックコラム】
人の影が壁に写ったモノクロの画像が、「原爆が爆破した日、被災者の『人の影』が壁に残されていました」という文言と共に拡散しました。爆心地には「人の影」が残った建物もあります。しかし、ネットで拡散した画像の中にはCGで作られた画像も混じっていました。 検証対象 2024年5月22日、「爆心地となった場所の近くでは被災者の『人の影』がのこされています」という文言とともに、人の影などが建物に映った複数の画像がX(旧Twitter)で拡散した。 投稿のスレッドには他の人影の画像も並んだ。そのうちの一つが、少女が縄跳びをしているような影だ。 画像にはコミュニティノートがついており、「CGで描かれた『Innocent Shadow』という作品です」という説明とともに、制作過程の説明へのリンクがついている。 検証過程 資料館に残る実物の写真 広島と長崎では、原爆の熱線によって階段に人影が残ったり、ハシゴの影が塀に黒く残った。 拡散した画像のうち、少女が縄跳びをしているような画像以外は、原爆投下時に広島や長崎で、階段や板塀などに残された本物の画像だ。下の二点は

今週のJFC動画

「福島第一原発事故の処理水の海洋放出によって日本の水産業が崩壊寸前だ」とインフルエンサーが語る動画が中国で拡散しました。

その他の関連記事

パンデミック条約に関する誤情報が拡散

感染症対策を世界的に強化する「パンデミック条約」について、「国家の主権や基本的人権が損なわれる」「ワクチンの強制接種が実施される」などの誤った情報が広がっているとNHKが報じました。

“強制接種進む”など パンデミック条約に関する誤情報が拡散 | NHK
【NHK】感染症対策を世界的に強化するための「パンデミック条約」について、国家の主権や基本的人権が損なわれるとか、ワクチンの強制接…

オープンAI “ロシアなど拠点のグループ 生成AIで世論操作”

ChatGPTを手がけるアメリカ企業オープンAIは、ロシアや中国などを拠点とする5つのグループが自社の生成AIを世論操作に利用していたと発表しました。

オープンAI “ロシアなど拠点のグループ 生成AIで世論操作” | NHK
【NHK】生成AI、ChatGPTを手がけるアメリカの企業オープンAIは、ロシアや中国などを拠点とする5つのグループが自社の生成A…

影響工作へのAIの利用阻止について(OpenAIの発表)

そのOpen AIの発表の詳細はこちらでお読み下さい。

台湾総統選への中国からの偽情報拡散、AIが容易に作るバイデン大統領の音声

日経ビジネスの連載「瀕死のインターネット」で、中国からの台湾総統選への世論操作や生成AIによって作られる偽情報の拡散について特集しています。

中国、台湾世論操作へ偽情報ばらまき AI悪用で氾濫する「現実」
米国で1月に起きたバイデン大統領の偽音声事件。その声を作ったのは、デジタル・ノマドを自称する40代の男だった。個人から中国のような権威主義勢力まで、生成AI(人工知能)の技術進化で容易になった偽情報のばらまきが、世界の分断に拍車をかける。

ロシアによるフランスへの影響工作

ロシアの様々な機関による情報操作が急増しており、フランスに大きな影響を与えていると仏の新聞社「リベラシオン」が専門家のインタビューとともに伝えています。

Actions d’influence russes : «Les opérations clandestines connaissent une réelle intensification, qui touche en particulier la France»
Depuis la guerre en Ukraine, les organes d’influence russes, en profonde réorganisation, font l’objet d’une reprise en main de la part de l’Etat, explique le chercheur Maxime Audinet.

EUがロシアの影響工作に対して一層の規制を発表

EUの欧州理事会は、ウクライナとの戦争に関してヨーロッパに対する情報操作など影響工作を仕掛けている人物や組織の名前を挙げて制限措置を加えると発表しました。EUは、6日から始まる欧州議会選挙を前にロシアによる情報操作への警戒感を強めています。こちらでお読みください。

Facebook上でイタリアやポーランドに対して親ロシア系の広告が拡散

欧州議会選挙直前、フランスやドイツに続いてイタリアやポーランドに対してFacebook上で親ロシアの広告が拡散しているとポリティコが報じています。

Pro-Russian Facebook ads spread to target Italy, Poland elections
Days before the European election, disinformation campaigns still abound on the Meta-owned platform.

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

飛行機雲は「ケムトレイル」でワクチン混じり? 世界で繰り返し拡散する陰謀論【ファクトチェック】

飛行機雲は「ケムトレイル」でワクチン混じり? 世界で繰り返し拡散する陰謀論【ファクトチェック】

飛行機雲は実は雲ではなく、闇の勢力が危険な化学物質を散布する「ケムトレイル」だという陰謀論が存在します。最近ではワクチン成分が含まれているという情報が拡散しましたが、誤りです。「ケムトレイル」は存在せず、飛行機雲は航空機の飛行で生じる水蒸気や二酸化炭素などによる線状の雲です。各国の公的機関やファクトチェック機関などが「根拠のない主張」として、度々、否定しています。 検証対象 拡散した言説 2025年10月18日、「最近ではワクチン成分が撒かれているらしい」という文言付きの動画がXで拡散した。動画は飛行機雲は、実は危険な化学物質の「ケムトレイル」だという陰謀論に基づいている。 検証する理由 10月22日現在、投稿は860回以上リポストされ、表示は6万件を超える。 投稿には「なんでここの人達はこんな陰謀論を信じ込むんだよ」などの指摘がある一方、「ケムトレイルの恐怖😰」「岸田が コロナワクチンが大量に余って 捨てた と言ってたから 捨てるって空しかないでしょ」など同調するコメントも多数ある。 ケムトレイルは根拠のない陰謀論として、何度も繰り返し拡散し

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
中国人留学生は学費がほぼ無料?  政府奨学金は各国からの留学生の2.8%【ファクトチェック】(修正あり)

中国人留学生は学費がほぼ無料? 政府奨学金は各国からの留学生の2.8%【ファクトチェック】(修正あり)

「日本人が奨学金を借りると、就職後に借金を返さなければならないが、中国人留学生は学費がほぼ無料」という趣旨の投稿が多数拡散していますが、ミスリードで不正確です。日本政府の奨学金をもらって入学金や授業料が免除される国費留学生は留学生全体の2.8%、中国人はそのうち1割弱です。ほとんどの留学生は学費を負担しています。 検証対象 拡散した言説 日本へ来た中国人留学生は学費が免除されて不公平だという趣旨の投稿が多数拡散している(例1,2,3,4)。 例1は2025年9月25日にTikTokへ投稿され、閲覧回数は3.5万回を超えている。42秒間の動画では、若い男女が登場し、「中国人留学生爆増!」「日本に移住すれば大学までほぼ学費が無料」「教育無償化の政策と移民受け入れとの政策とのコンボで合法的に無料にできる」「在留外国人の人数が 400 万人を超えています」などと訴えている。 例2,3,4は「中国人留学生は、生活困窮をでっち上げるだけで学費免除」「中国人留学生に毎月17万円の現金を渡し 学費は免除」「自民党による中国人留学生への援助 凄いことになってる」などと主

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
これまでの方法論が通用しない動画の偽・誤情報の急増にどう対応するか/JFC検証など6本【今週のファクトチェック】

これまでの方法論が通用しない動画の偽・誤情報の急増にどう対応するか/JFC検証など6本【今週のファクトチェック】

数年前までは偽・誤情報が拡散するソーシャルメディアと言えば、日本ではTwitter(現在のX)が中心でした。しかし、現在はそうではありません。YouTube、TikTokで大量の真偽不明情報が拡散するようになっています。 動画の検証は厄介です。100字程度の文字情報と違い、ショート動画でも1分程度、長いものなら1時間を超える動画は、全体を見るだけでも苦労します。その中でどこが間違っているかを特定し、検証しないといけない。 もう一つ、難点があります。文字情報であれば、そこには間違っているとしても論拠や論理がある程度は存在します。そうしないと文章として読みにくいものになるからです。 一方で動画は、抽象的な話が続いて、論拠をはっきり示さず、論理もあやふやという事例が数多くあります。「意見」なのか「事実の提示」かもはっきりしない。同じような分析は海外のファクトチェッカーからも聞かれます。 これまでのファクトチェックの方法論が通用しない動画の急増にどう対応するか。喫緊の課題です(古田大輔)。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

参政党の神谷宗幣代表が「在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍だ」とする画像をXに投稿して拡散しましたが、ミスリードで不正確です。画像は警察庁の資料をもとにしていますが、警察庁は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に「外国人と日本人を正確に比較できる統計の特定は困難」と説明しています。警察庁は神谷氏から求めがあったため、注釈付きで「統計を便宜的に分母・分子に当てはめて算出した数値を提供した」と話しています。拡散した画像は、そういった注釈を省き、単純に比較できないデータを並べています。 検証対象 拡散した言説 2025年9月20日、神谷氏が「大量の移民の受け入れは治安の維持にも影響します。警察や入管の体制ももっと強化せねば、今のやり方は必ず問題を大きくします」という文言とともに、「外国人の検挙割合は、日本人の約2倍」と書かれた画像を投稿した。 検証する理由 政党代表の投稿であり、2025年10月16日現在、この投稿は1.2万回以上リポストされ、表示回数は238万回を超える。投稿について「ほんとこれ」「移民はいったんストップして欲しい」というコメン

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)