「誤り」と言える理由は 何を根拠に判定しているのか 【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証作業の舞台裏を語るコラム。今回は、判定を「根拠不明」「不正確」「誤り」で迷って、「誤り」にした事例を紹介します。「事実なんて見方によって変わるでしょ」という批判も受けますが、なぜ、明確に「誤り」と言えるのか。
JFCの判定基準
JFCはファクトチェックの透明性を高めるために、判定基準を公開しています。「正確」「ほぼ正確」「根拠不明」「不正確」「誤り」の5段階。それぞれの基準は以下のとおりです。
正確:誤りがなく、重要な要素が欠けていない
ほぼ正確:一部に誤りを含むが、重要な部分を含む大部分は正しく、概ね正確
根拠不明:根拠がないか不十分であり、事実の検証ができない
不正確:一部は正しいが、重要な部分に誤りや欠落がある、またはミスリード
誤り:誤りである、または重要な要素が大きく欠けている

(JFCのサイトより)
過去の映像の使い回し →「誤り」
2025年7月、ロシアのカムチャツカ半島沖で地震が発生した際に、「日本の津波だ」と書かれた動画が拡散しました。

JFC”カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】”
拡散した動画をGoogleレンズで検索すると、津波の形状や建物、木の位置が一致する動画が見つかりました。2017年に南アフリカ共和国のダーバンで発生した津波の映像でした。
このダーバンの津波の映像は過去に何度も使い回されており、2023年にトルコ地震が起きた際にも、トルコを襲った津波として拡散して、JFCやインドのファクトチェック団体が「誤り」と判定しました。
カムチャッカ地震に関連した投稿についても、JFCは「誤り」と判定した上で、「あとがき」に「災害が起きると過去の災害やAI生成の動画などの誤情報が拡散する」という一文を添えて、記事を公開しました。
映像が改変されていたり、過去のものを現在のものと偽るような投稿は、間違いなく「誤り」だと判定することができます。一方で、「不正確」か「誤り」かで迷う事例もあります。
投稿に誤った資料を添付 →「誤り」
2025年8月、国際協力機構(JICA)が、日本の4市をアフリカの「ホームタウン」に認定した件をめぐって、新潟県三条市とJICAが外国人を定住させる協定を結んだかのように誤解させる画像付きの投稿が拡散しました。

JFC”JICAと三条市が外国人定住の協定? 対象は日本人の協力隊員【ファクトチェック】”
JFCが調べたところ、JICAが三条市をアフリカの「ホームタウン」に認定したことと、添付された資料は本物でした。ただ資料は、認定の1年前に公開された別の事業のもので、定住の対象も、投稿者が主張する「外国人」ではなく「日本国籍を有する人」でした。
投稿主が根拠とした資料は、確かにJICAが作っていましたが、別の事業について書かれたもので、その内容も「外国人の定住」と「日本国籍を有する人の定住」を真逆にとらえていたため、JFCは「誤り」と判定しました。
実際の映像をAIで加工 →「誤り」
2025年8月、竜巻が燃えだしたという映像がXで拡散しました。

JFC竜巻が燃えだす? 生成AIによる映像【ファクトチェック】
編集部は、まず、拡散した動画の元画像が米国海洋大気庁のウェブサイトに掲載されていることを確認。そこからイリノイ州に住む撮影者を割り出して、撮影者のフェイスブックから、竜巻が2014年7月6日にアイオワ州のTraerという町で起きたことを特定しました。
さらに調べると、別の角度から竜巻を撮影した動画も複数見つかり、いずれも竜巻が燃えだす様子はありません。また、それぞれのキャプションから、夕日が反射して、竜巻がオレンジ色っぽく見えていることがわかりました。補完的に使ったAI生成検出ツールも「99.9%の確率でAI生成かディープフェイク」と判定しました。
これらの検証から、JFCは「本物の竜巻の映像ではなく、実際の画像をAIで加工した動画である可能性が高い」と判断して「誤り」と書きました。
党の公式サイトや取材結果→「誤り」
2025年7月には、国民民主党が2025年の参院選で公約に掲げた「消費税5%への減税」と「インボイス廃止」を選挙後に撤回した、と主張する投稿が拡散しました。

JFC”国民民主党が選挙後に消費税5%への減税とインボイス廃止を撤回? どちらも撤回していない【ファクトチェック】”
JFCが調べたところ、国民民主党は、公式サイトに引き続き同じ政策を載せていました。また、JFCの取材に国民民主党は「総務省に届出ている政策パンフレットにも『実質賃金が持続的にプラスになるまで消費税は一律5%』という内容を明記しており、消費税減税を撤回し、現金給付へと方針を変えた事実は一切ありません」などと回答しました。
当事者の言い分だけでは裏付け取材にならないこともありますが、このケースは、一般人が誰でも見られるウェブサイトで公開されていることや、総務省に届け出ていることからも、「誤り」と判定しました。
このように、根拠にする資料が誤っていたり、本物の映像を加工していたり、公的に確認できる事実と食い違う主張をしたりして、多くの人を誤解させていると客観的・科学的に示せる場合は「誤り」と判定しています。
出典・参考
日本ファクトチェックセンター.”JFCファクトチェック指針”. https://www.factcheckcenter.jp/guidelines/ .閲覧日2025年9月11日
”カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター.2025年7月31日 https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/disasters/false-kamchatka-japan-tsunami-video/ .閲覧日2025年9月11日
”JICAと三条市が外国人定住の協定? 対象は日本人の協力隊員【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター. 2025年8月29日 https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/false-jica-sanjo-foreign-residents/ .閲覧日2025年9月11日
“竜巻が燃えだす? 生成AIによる映像【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター. 2025年9月2日 https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/international/false-tornado-ignition/ .閲覧日2025年9月10日
“国民民主党が選挙後に消費税5%への減税とインボイス廃止を撤回? どちらも撤回していない【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター. 2024年9月13日 https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/false-dpfp-policy-withdrawal/ .閲覧日2025年9月10日
編集:古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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