「岸田首相、少子化対策に異次元の移民政策を公表」は誤り【ファクトチェック】

「岸田首相、少子化対策に異次元の移民政策を公表」は誤り【ファクトチェック】

「岸田首相、少子化対策に異次元の移民政策を公表」という情報が拡散されましたが誤りです。岸田首相らが出席した政府の経済財政諮問会議で、有識者として招かれた経済学者の意見です。

検証対象

2023年1月21日に拡散されたツイートでは「岸田、少子化対策に異次元の移民政策を公表」という見出しとともにまとめサイト保守速報へのリンクが掲載されている。このツイートは2月1日現在、56万件以上の表示と3500件以上のいいねを獲得した。

画像

このツイートのリンク先であるまとめサイト内では共同通信がYahoo! Newsに配信した記事が貼られていた。返信欄では「異世界になるぞ」や「ちがう そうじゃない・・・」といった反応があった。

検証過程

このツイートのリンク先は共同通信の記事を引用している。共同通信の記事の見出しは「清滝氏、移民促進論を展開 政府の経済財政諮問会議」(2023年1月19日配信)。記事内に「移民政策を公表した」という記述はなく、保守速報の見出しとも異なる。

元記事は、2023年1月16日に官邸であった第1回経済財政諮問会議を報じた内容で、有識者として会議に出席した米プリンストン大の清滝信宏教授(マクロ経済学)が「持続的な成長には移民の受け入れ促進による高度人材の確保が必要だとの持論を展開した」と伝えている。

経済財政諮問会議議事要旨を確認すると、清滝氏は以下のように発言している。

人材や資本は日本から海外へ進出するとともに、海外から日本へも来てもらわなくてはならない。私は移民を促進することは、技術進歩を促すだけでなく、少子高齢化に対する切り札にもなると思う。(中略)これらの政策の中で、移民の促進、増税、炭素税の導入には政治力が必要なので、岸田総理の政治指導力を期待している。 

議事要旨全体で「移民」とあるのは、ここで引用した清滝氏による2回のみ。この会議に岸田首相は出席しているが、最後に報道関係者の前で発言した際も、移民の受け入れに関連する発言はなかった。

高度人材の受け入れ促進については2022年秋に日経新聞が報じており、2023年の施政方針演説でも「世界に伍する高度人材の新たな受け入れのための制度を創設するなど、外国人材が活躍できる環境整備も行います」と発言している。しかし、「こども・子育て政策」の項目では移民には触れていない。

判定

保守速報が引用した記事などで、岸田首相が少子化対策のために異次元の移民政策を公表した事実はなく、誤り。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔、藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

「遺族厚生年金が廃止」は誤り 制度改正を議論しているが廃止の検討ではない【ファクトチェック】

「遺族厚生年金が廃止」は誤り 制度改正を議論しているが廃止の検討ではない【ファクトチェック】

「遺族年金廃止とか馬鹿じゃないの?」という言説が拡散し、Xのトレンドにも入りましたが誤りです。引用されたNHKの記事は2023年7月のもので、遺族厚生年金受給の男女差について2025年に向けて議論を始めるという内容です。 検証対象 2024年4月23日、「遺族年金廃止とか馬鹿じゃないの?」という言説が拡散した。その後、遺族年金を巡って様々な投稿が拡散し、Xで「遺族年金」がトレンド入りした(例1、例2)。 投稿には、2023年7月のNHKの記事「『遺族厚生年金』再来年の制度改正に向け議論へ 厚労省審議会」のリンクがついている。 拡散したポストは4月30日現在で5500件以上リポストされ、表示回数は55万回を超える。遺族年金について「頭おかしい」「なんでこんなことになるんだ」というコメントの一方で「選挙前の不安煽り」という投稿もある。 検証過程 遺族年金とは 遺族年金とは、一家の生計の中心者である被保険者が死亡した時、その人によって生計を維持していた遺族に支給される年金だ。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、亡くなった人の年金加入状況や、受けと

By 日本ファクトチェックセンター(JFC), 宮本聖二
「ドイツ政府、新型コロナ・パンデミックはなかったと認める」は誤り ドイツ大使館が否定【ファクトチェック】

「ドイツ政府、新型コロナ・パンデミックはなかったと認める」は誤り ドイツ大使館が否定【ファクトチェック】

「ドイツ政府が新型コロナ・パンデミックはなかったと認めた」とする言説が拡散しましたが、誤りです。ドイツ大使館が否定しました。また、情報の発信者は誤情報の発信を繰り返すサイトです。 検証対象 2024年4月4日、「ドイツ政府、パンデミックは存在しなかったと認める」とする投稿が拡散した。この投稿は2024年4月30日現在、146万回以上の表示回数と3600件以上のリポストを獲得している。 検証過程 拡散した投稿はThe People’s Voice(TPV)というサイトの記事「German Gov’t Admits There Was No Pandemic(ドイツ政府がパンデミックはなかったと認める)」を引用している。 記事は「ドイツ政府のデータによると、パンデミックはまったくなく、悲惨な結果をもたらす実験用ワクチンを大衆に受け入れさせるために綿密に仕組まれた軍事級の心理作戦が行われただけだった」と伝えている。 TPVは「大手メディアの扱わないニュースを扱うことで読者に真実を伝える」と自称するサイトで、米国に拠点を置く。日本ファクトチェックセンター

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「衆院補選、8時に当確はおかしい、不正選挙だ」は誤り 出口調査や事前の取材によるゼロ票打ち【ファクトチェック】

「衆院補選、8時に当確はおかしい、不正選挙だ」は誤り 出口調査や事前の取材によるゼロ票打ち【ファクトチェック】

衆院補選について「開票が始まっていないのに当確が出たのは不正選挙」という言説が拡散しましたが、誤りです。報道各社が事前取材と有権者への調査などに基づいて投票締め切り直後に当選確実を報じたもので、一般的な手法です。 検証対象 4月28日午後8時、3つの選挙区で実施された衆院補選で、投票締切時刻の夜8時に報道各社が当選確実を出したことから「開票が始まっていない段階の当確はおかしい」「不正選挙」だという言説が拡散しました。 当確が出た直後から、SNSには「ハッシュタグ不正選挙」がついた投稿が次々と広がった。開票されていないのに当選確実が出るのはおかしいという内容のほか、「ある候補が落ちるのはあり得ない、票の操作が行われた」などの書き込みも数多くある(例1、例2)。 検証過程 投票締め切り直後の当確報道 今回の3つの衆院補選の結果は以下の通りだ(東京15区は当選者と次点の立候補者のみ)。当選者と他候補とは大きく差が開いた。 東京15区 酒井菜摘   4万9476票  須藤元気  2万9669票 島根 1区  亀井亜紀子  8万2691票  錦織攻政  5

By 宮本聖二
衆院補選をめぐる偽情報/政治家のなりすまし/コミュニティノートの効果【注目のファクトチェック】

衆院補選をめぐる偽情報/政治家のなりすまし/コミュニティノートの効果【注目のファクトチェック】

✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 2024年4月22-28日のファクトチェック週報です。4月28日に投開票が行われる衆院補選をめぐって様々な誤情報/偽情報が拡散しました。詐欺サイトに誘導する政治家のなりすましアカウントが今も次々に出現しています。新型コロナワクチンの誤情報に関してコミュニティノートが正確に機能しているという研究も。 JFCのファクトチェック記事 四国の地震で過去映像など拡散 2024年4月17日深夜、豊後水道を震源とする大きな地震が発生し、愛媛県と高知県で震度6弱を観測しました。地震発生後、無関係な過去の映像や画像が拡散しました。これは被害状況の把握や避難、救護活動に悪影響を及ぼしかねません。 四国の地震で過去映像など拡散 画像検索などで確認を2024年4月17日深夜、豊後水道を震源とする大きな地震が発生し、愛媛県と高知県で震度6弱を観測しました。地震発生後、無関係

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)