参政党・神谷代表「戸籍がシンプルに」「選択的夫婦別姓で治安が悪化」? 戸籍の根幹に影響なし【#参院選ファクトチェック】

参政党の神谷宗幣代表が「戸籍がシンプルになって家族関係がわかりにくくなっている」「選択的夫婦別姓制度で日本の治安が悪くなる」などと発言しましたが、不正確です。戸籍の主要な要素は1947年以降変わっていません。また、選択的夫婦別姓の導入で家族関係が複雑になる、治安が悪化するという主張は根拠不明です。
検証対象
参院選公示前の6月30日、神谷氏がテレビの党首討論で、選択的夫婦別姓に関して「戸籍がどんどんシンプルになって」「ルーツや家族関係が分かりにくくなってきて」「お年寄りが認知症になると家族関係の証明が難しくなってる」「選択制(選択的夫婦別姓)を入れてしまうと、より複雑な家族関係になってきますので、そういったことは日本の治安を悪くする」などと発言した(動画21分15秒~21分39秒)。

検証過程
戸籍制度とは
法務省は、戸籍制度を次のように説明している。
「戸籍制度は、日本国民の国籍とその親族的身分関係(夫婦、親子、兄弟姉妹等)を戸籍簿に登録し、これを公証する制度です。また、人の身分関係の形成(婚姻、離婚、縁組、離縁等)に関与する制度でもあります」(法務省” 戸籍のABC”)
戸籍の記録が登録されている戸籍簿は、出生届や婚姻届や死亡届などに基づいて婚姻や死亡などの事項を記載する公文書となっている。
戸籍はどんどんシンプルになっている?
戸籍法は1947年に施行された後、何度も改正されてきた(法務省 “戸籍法”)。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、戸籍法を所管する法務省に「シンプルになっている」という点について取材した。
民事局の担当者は「1947年以後、戸籍簿に記載される出生・婚姻などの身分事項や、名・生年月日、配偶者区分などの主要な項目に変化はない」と回答した。
主な改正の内容は、行政手続きの電子化への対応や、差別や不平等につながる記載の見直しだという。
94年の法改正で、新しい戸籍を作る際に記載する事項が法令で定められ、死亡・離婚などで除籍になっている人の記録は移記(新しい戸籍に記載を移すこと)しないことになった。
しかし、死亡や離婚などで、その戸籍から全員が抜けた後も記録は150年間市区町村のデータに保存されるため、除籍簿で確認することは可能だ。
これらを総合的に見ると「家族関係が分かりにくくなってきている」という主張は不正確だ。
選択的夫婦別姓で治安が悪くなる?
神谷氏は「選択制(選択的夫婦別姓)を入れてしまうと、より複雑な家族関係になってきますので、そういったことは日本の治安を悪くする」とも述べている。
しかし、「家族関係がより複雑になる」という主張に根拠は示されていない。家族関係と日本の治安の因果関係も説明されていない。
「選択的夫婦別姓が実現すると戸籍制度が崩壊する」「戸籍を廃止すると犯罪歴を管理する公募がなくなる」「移民が日本人に成りすませる」などという主張はSNSでたびたび拡散している(例1,2)。
しかし、こうした主張は歴代の法務大臣が否定している。
2024年2月28日の衆議院予算委員会で「選択的夫婦別姓を導入すると戶籍は壊れると思いますか」という立憲民主党・吉田晴美議員の質問に対し、小泉龍司法務大臣(当時)が以下のように答えている。
「日本国の親族的身分関係を登録、公証する唯一の公簿であり、仮に選択的夫婦別氏制度が導入された場合であっても、その機能や重要性は変わるものではなく、そのことによって大きな問題が生ずることはないと考えております」(衆議院”予算委員会第3分科会”動画3:00:20~3:02:13)
2023年2月2日の衆議院予算委員会では、斎藤健法務大臣(当時)が説明している。
「戸籍は、日本国民の親族的身分関係を登録、公証する唯一の公簿であり、仮に選択的夫婦別氏制度が導入された場合でありましても、その機能や重要性が変わるものではなく、そのことによって大きな問題が生じるとは考えておりません」(衆議院”第211回国会予算委員会会議録本文”)。
2021年4月9日衆議院法務委員会では、上川陽子法務大臣(当時)が以下のように説明した。
「戸籍は、日本国民の親族的身分関係を登録、公証する唯一の公簿でございます。仮に、選択的夫婦別氏制度が導入された場合でありましても、その機能、また重要性、これは変わるものではございません」(衆議院”第204回国会法務委員会会議録本文”)
つまり、日本政府は一貫して戸籍制度について「日本国民の親族的身分関係を登録・公証する唯一の公簿」と説明し、選択的夫婦別姓で変わることはないと答えている。
この点については、JFCですでに検証している。
JFC”選択的夫婦別姓が実現すると戸籍制度が崩壊する? 国籍や親族関係などの証明機能に変化なし【ファクトチェック】”
なお、琉球新報は、7月4日に神谷氏の発言に関するファクトチェック記事を公開し、「不正確」と報じている。
琉球新報”【ファクトチェック】選択的夫婦別姓導入で日本の治安は悪くなる? 参政・神谷氏発言”
判定
参政党の神谷氏は「今戸籍がどんどんどんどんシンプルになって」「ルーツや家族関係が分かりにくくなってきている」「選択的夫婦別姓の導入で、より複雑な家族関係になり、日本の治安を悪くする」などと発言した。しかし、戸籍の主要な要素は1947年以降変わっておらず、家族関係が分かりにくくなっているというのは不正確。制度の導入で家族関係が複雑になることや、治安が悪化するという主張は根拠が示されていない。選択的夫婦別姓が導入されても、戸籍制度の根幹に影響はない。よって、全体として、不正確と判定する。
出典・参考
法務省.” 戸籍のABC(Q1~Q5)”. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00031.html, (閲覧日2025年7月7日).
法務省 .“戸籍法改正の沿革”. https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?lawId=0000039517, (閲覧日2025年7月7日).
衆議院.インターネット審議中継.”予算委員会第3分科会” https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54926&media_type= ,(閲覧日2025年7月7日).
衆議院.”第211回国会予算委員会会議録本文” https://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001821120230202005.htm#p_honbun, (閲覧日2025年7月7日).
衆議院.”第204回国会法務委員会会議録本文”. https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000420420210409012.htm, (閲覧日2025年7月7日).
琉球新報."【ファクトチェック】選択的夫婦別姓導入で日本の治安は悪くなる? 参政・神谷氏発言”.2025年07月04日.
https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-4409316.html, (閲覧日2025年7月7日).
検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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