選択的夫婦別姓が実現すると戸籍制度が崩壊する? 国籍や親族関係などの証明機能に変化なし【ファクトチェック】

選択的夫婦別姓が実現すると戸籍制度が崩壊する? 国籍や親族関係などの証明機能に変化なし【ファクトチェック】

選択的夫婦別姓が実現すると戸籍制度が崩壊するという主張が、XやTikTok、YouTube、Threadsなど複数のプラットフォームで拡散していますが、誤りです。選択的夫婦別姓が実現しても、国籍や家族関係を公的に証明する戸籍の機能が変わるわけではありません。

検証対象

「選択的夫婦別姓が実現すると戸籍制度が崩壊する」などと主張する投稿が、XやTikTok、YouTube、Threadsなど複数のプラットフォームで多数拡散した(例1例2例3例4)。

こうした投稿に「夫婦別姓は選択的でも国民全体に多大な負の副作用があります」「戸籍の破壊日本人には全く必要なし!!!」といったコメントの一方で、「なぜ戸籍が選択的夫婦別姓によってなくなると思っているのでしょうか?」「選択的夫婦別姓が戸籍の廃止と、どう繋がるか謎すぎ」などの批判が寄せられている。

検証過程

選択的夫婦別姓制度とは

法務省は、選択的夫婦別姓制度を次のように説明している。

「夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度」
「この制度は一般に『選択的夫婦別姓制度』と呼ばれることがありますが、民法等の法律では、『姓』や『名字』のことを『氏(うじ)』と呼んでいることから、法務省では『選択的夫婦別氏制度』と呼んでいる」(法務省「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」)。

「選択的」とあるとおり、従来通り、結婚後に夫婦どちらかの名字に変更することも可能だ。

名字が変わると、日常生活や仕事で不便になる、名字を変更する手続きが負担である、アイデンティティが損なわれる、などさまざまな不利益があるため、希望者は別姓を維持する「選択的夫婦別姓制度」が長年議論の対象になってきた。

2025年の通常国会に提出されている年金改革法案や税制改正関連法案などとともに、重要な議案の一つとして注目されていた。

戸籍制度とは

法務省は、戸籍制度を次のように説明している。

「戸籍制度は、日本国民の国籍とその親族的身分関係(夫婦、親子、兄弟姉妹等)を戸籍簿に登録し、これを公証する制度です。また、人の身分関係の形成(婚姻、離婚、縁組、離縁等)に関与する制度でもあります」(法務省「 戸籍のABC」)

戸籍制度の記録が登録されている戸籍簿は、出生届や婚姻届や死亡届などに基づいて婚姻や死亡などの事項を記載する公文書となっている。

歴代法務大臣「戸籍が壊れる」を否定

選択的夫婦別姓制度になると戸籍制度が「廃止される」「壊れる」などの批判は古くから繰り返されてきたが国会で、過去の法務大臣が否定している。

2024年2月28日の衆議院予算委員会で「選択的夫婦別姓を導入すると戶籍は壊れると思いますか」という立憲民主党・吉田晴美議員の質問に対し、小泉龍司法務大臣(当時)が以下のように答えている。

「日本国の親族的身分関係を登録、公証する唯一の公簿であり、仮に選択的夫婦別氏制度が導入された場合であっても、その機能や重要性は変わるものではなく、そのことによって大きな問題が生ずることはないと考えております」(衆議院「予算委員会第3分科会」動画3:00:20~3:02:13)

2023年2月2日の衆議院予算委員会では、斎藤健法務大臣(当時)が説明している。

「戸籍は、日本国民の親族的身分関係を登録、公証する唯一の公簿であり、仮に選択的夫婦別氏制度が導入された場合でありましても、その機能や重要性が変わるものではなく、そのことによって大きな問題が生じるとは考えておりません」(衆議院「第211回国会予算委員会会議録本文」)。

2021年4月9日衆議院法務委員会では、上川陽子法務大臣(当時)が以下のように説明した。

「戸籍は、日本国民の親族的身分関係を登録、公証する唯一の公簿でございます。仮に、選択的夫婦別氏制度が導入された場合でありましても、その機能、また重要性、これは変わるものではございません」(衆議院「第204回国会法務委員会会議録本文」)

つまり、日本政府は一貫して戸籍制度について「日本国民の親族的身分関係を登録・公証する唯一の公簿」と説明し、選択的夫婦別姓で変わることはないと答えている。

立憲民主党法案「氏の強制なくし多様な家族観に対応」

立憲民主党は、2025年4月30日に法案を衆議院に提出した。概要は次の通りだ。

「夫もしくは妻の氏で統一か、各自婚姻前の氏を使用するかを選択」
「別氏夫婦の子の氏は婚姻時に決定」(「選択的夫婦別姓を実現」

立憲民主党の法案は、個人の尊重や多様な家族観を重んじる内容だ。

一方で、日本維新の会は2025年5月19日、制度の導入ではなく、戸籍に旧姓を記載するなど、結婚後も旧姓を通称として使用できることを規定した法案を国会に提出した(NHK)。

国民民主党は、公式サイトに「選択的夫婦別姓制度を導入します。多様な家族のあり方を受け入れる社会をめざします」などと記載している(政策各論3. 人づくりこそ、国づくり)。だが、2025年5月21日現在、国民民主党から夫婦別姓に関する法案は提出されていない。

立憲民主党案は「戸籍を壊す」のか?

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、選択的夫婦別姓法案をすでに出している立憲民主党に取材した。

「選択的夫婦別姓が実現すると戸籍制度が破壊されるという主張が広く拡散しています。こちらの主張に対して、どのようにお考えですか。また、立憲民主党の案は戸籍制度の改変につながるのでしょうか」という質問に対する回答は次の通りだ。

「選択的夫婦別姓制度を導入しても戸籍制度は破壊されません。1996年の民事行政審議会答申でも、戸籍制度はこれまでと同様とされ、別姓夫婦とその子どもについても、一つの戸籍に在籍することが前提とされていました。戸籍簿の『戸籍に記載されている者』の【名】を【氏名】に改め、戸籍内の各人について氏名を記載すればいいということになります」

「立憲民主党が提出した法案も、同様に戸籍制度はこれまでと同様であることを前提としており、『戸籍制度の改変につながる』ものではありません」

2025年5月21日現在、大手メディアは「今国会での法改正は難しい」と報じている(NHK朝日新聞時事通信)。

判定

選択的夫婦別姓が実現すると、戸籍制度が崩壊するかのような主張がXやTikTok、YouTube、Threadsなど複数のプラットフォームで拡散したが、誤り。選択的夫婦別姓が実現しても、国籍や親族関係を公的に証明する戸籍の機能が変わることはない。

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

パリで移民2世、3世が暴動? 連覇を祝うサッカーファンの動画【ファクトチェック】

パリで移民2世、3世が暴動? 連覇を祝うサッカーファンの動画【ファクトチェック】

「パリのいま 移民の2世、3世による暴動 移民国家の末路を見る」という投稿がThreadsで拡散しましたが、誤りです。映像は2026年5月にフランスのサッカーチームが欧州のチャンピオンズリーグで連覇を果たした際のファンの様子を撮影したものです。 検証対象 拡散した投稿 2026年5月31日、「パリのいま 移民の2世、3世による暴動 移民はもういらん」という動画付き投稿がThreadsで拡散した。 動画には興奮した人々が、花火をあげたり信号に登ったりする様子が映っている。 検証する理由 この投稿は1万件以上いいねがあり、1200件ほどリポストされている。「パリサンジェルマンが勝っての騒ぎでしょ。移民関係ないから」「サッカーの盛り上がりですよね」というコメントの一方で、「世界中で国文化を壊した移民ビジネス」「誰もとめる人もいない。狂ってますね」と誤解したコメントもあるため検証する。 検証過程 動画には広場のような場所に集まった人々が花火を打ち上げる様子が映っている。Googleレンズで検索すると、5月31日にYouTubeやXに投稿された動画が見

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
スイスが世界で初めてマンモグラフィを禁止? 該当する発表はなく、当局は否定【ファクトチェック】

スイスが世界で初めてマンモグラフィを禁止? 該当する発表はなく、当局は否定【ファクトチェック】

乳房X線検査マンモグラフィを、スイスが世界で初めて禁止したと主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。そのような発表はなく、スイス当局はJFCの取材に対して「50歳以上の女性に対し推奨している」と述べています。 検証対象 拡散した言説 2026年6月3日、「速報:スイスが世界で初めてマンモグラフィ禁止の国になった―世界的な医療スキャンダルが白日の下にさらされた!」などと主張する英語の投稿がXで拡散した。 検証する理由 6月8日現在、投稿は7500回以上リポストされ、表示は59.4万件を超える。 投稿には「出典は?」や「スイスはマンモグラフィを禁止していません」などの指摘もあるが「神に感謝します。私は何年も前からこう言ってきました」「サーモグラムはマモグラムよりもはるかに安全」など真に受けた反応も多い。 同様の主張は、日本語でも拡散している(例1、2、3)ため検証する。 検証過程 拡散した投稿は 拡散した投稿の自動和訳は次の通りだ。 「🚨 速報: スイスがマンモグラフィを禁止する世界初の国に — 暴露されたグローバルな医療スキャンダル!

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
「真理省はいらない」認知戦への対策は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

「真理省はいらない」認知戦への対策は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

1週間のドイツ滞在を終えて、帰国の途についています(その関係で今週もニュースレターの配信が一日遅れてしまいました)。 公共放送含む大手メディア、ファクトチェック団体、メディアリテラシー団体、政府機関など、様々な立場の専門家と偽・誤情報の現状と対策について議論しました。中でも話題の中心となったのは、ロシアからの認知戦の現状です。 ドイツで著名な事例と言えば、ドッペルゲンガー作戦です。ドイツの大手メディアのサイトを模倣したサイトが大量に作られ、偽記事をSNSで拡散させるという手口でした。CORRECTIVの調査報道などでその実態が明らかとなっています。 政府もこれらの現状に対して、外国からの影響工作に対する備えを強化しています。その動きは国家情報局を設置する日本にとっても参考になるでしょう。 印象的だったのは「ドイツはバルト3国や北欧などと比べて認知戦への対応が遅れた」という言葉です。海外からの影響工作について、ロシアの行動を明らかにする報道や政府対応などを見ると、日本よりもかなり先行しているように見えますが、自己評価は違うようです。 「真理省はいらない」という声も聞

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
経営ビザ取得者の「9割が不正」? 疑いがある事業者に対する調査【ファクトチェック】

経営ビザ取得者の「9割が不正」? 疑いがある事業者に対する調査【ファクトチェック】

厳格化された経営・管理ビザについて「外国人事業者の内9割が、経営実態のない会社、日本への移住目的、高度医療を受けるため悪用していた」という投稿がXで拡散しましたが、不正確です。全体の9割が不正だったかのように読めますが、不正が9割というのは「疑わしい事業者約300件を対象にした調査結果」で、経営ビザ取得者の9割という意味ではありません。 検証対象 拡散した投稿 2026年5月10日、「経営・管理ビザの厳格化により申請が96%減少。また既存の会社を調査した結果、9割が不正。つまり外国人事業者の内9割が、経営実態のない会社、日本への移住目的、高度医療を受けるための悪用していた」という投稿がXで拡散した。投稿は、ニュース番組の動画も添付している。 検証する理由 6月2日現在、この投稿は1万回以上リポストされ、表示回数は66万回を超える。投稿について、「『9割が不正』は扱いに注意がいる」という指摘もあるが、「9割不正って大問題ですよ」「これが外国人が集まる理由」などと誤解しているコメントも多いため、検証する。 検証過程 経営・管理ビザの厳格化 政府

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は6月27日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0627.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)