高市首相が外国人を大量に国外退去させる省庁を設立? 新省庁も大量退去の情報もない【ファクトチェック】

高市首相が外国人を大量に国外退去させる省庁を設立? 新省庁も大量退去の情報もない【ファクトチェック】

高市早苗新首相が、外国人を大量に国外退去させるための省庁を設立すると表明したかのような投稿が、英語で拡散しましたが、誤りです。高市氏は、一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に毅然と対応すると述べ、外国人政策を担当する大臣を置きましたが、10月27日現在、省庁を新設したり、外国人を大量に国外退去させたりという情報はありません。

検証対象

拡散した言説

2025年10月22日、「日本の新首相が最初の政策として大量国外退去を決定 高市早苗が就任し、即座に大量国外退去のための省庁を設立」という英語の文言付きの動画がXで拡散した。

検証する理由

拡散した投稿は、10月27日現在3.9万回以上リポストされ、表示は945万件を超える。

投稿には「首相の高市氏が『大量国外追放省』を創設したという、信頼できる報道や公式発表は確認できない」という指摘の一方、「反大量移民の動きが高まっている!」や「日本にできるなら、我々もやらねば」など同調する英語のコメントが多数ある。

検証過程

動画は高市首相ではなく小野田経済安保担当相

拡散した動画は18秒。「高市早苗が就任し、即座に大量国外退去のための省庁を設立」という文言が付いているが、動画に映っているのは小野田紀美氏が首相官邸に入ってくる様子だ。

小野田氏は高市内閣で「経済安全保障担当大臣(経済安保担当相)」や「外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣(外国人政策担当相)」などを兼務する。動画内で、小野田氏は「大量国外退去」や「省庁設立」などの発言はしていない。高市氏も動画に登場しない。

外国人の国外退去を目的とした省庁の新設はない

高市首相は、10月24日の所信表明演説で、人口政策・外国人対策について次のように述べている。

「日本の最大の問題は人口減少であるとの認識に立ち、子供・子育て政策を含む人口減少対策を検討していく体制を構築します。人口減少に伴う人手不足の状況において、外国人材を必要とする分野があることは事実です。インバウンド観光も重要です」

「しかし、一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に対し、国民の皆様が不安や不公平を感じる状況が生じていることも、また事実です。排外主義とは一線を画しますが、こうした行為には、政府として毅然(きぜん)と対応します」

「政府の司令塔機能を強化し、既存のルールの遵守を求めるとともに、土地取得等のルールの在り方についても検討を進めてまいります。そのため、新たに担当大臣を置きました」(首相官邸”第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説”)

つまり、「外国人による違法行為には毅然と対応」と明言する一方で「人口減少に伴う人手不足の状況において外国人材を必要とする分野がある」「インバウンド観光も重要」「排外主義とは一線を画す」とも述べている。

首相から小野田氏ら閣僚への指示は

拡散した動画は、小野田氏が外国人政策担当相に起用されたことを指していると考えられる。しかし、10月27日現在、首相が省庁を新設するという情報も報道もない。

首相は10月21日の内閣発足にあたり、18人の閣僚に指示書を出している。

外国人政策に関しては、全閣僚に対し「外国人問題に関する司令塔機能を強化し、総合的な対策を推進する。組織犯罪対策等を講じ、治安の維持・向上を図る」と指示した。小野田氏には「外国人との秩序ある共生社会に向けた施策を総合的に推進する。そのために、必要な推進体制の強化を図る」と指示した。

その他、法相・平口洋氏に対し「外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣と協力して、不法滞在対策の強化、出入国の管理の徹底等、共生社会の実現に必要な環境整備を着実に進める」という指示や、外相・茂木敏充氏への「外国人との秩序ある共生社会に向けて、ビザ(査証)に関する事務を適切に実施するとともに、国際人材の育成、在日外国人を含めた幅広い分野での人材交流を進める」などの指示があるが「外国人の大量退去」という指示はない(以上、日経新聞”高市早苗首相の18閣僚への指示書、全文明らかに”)。

NewsweekやAFP=時事も高市首相が外国人を大量に国外追放する省を設置したという情報を検証し、「偽情報」と報じている(Newsweek”高市早苗が「大量国外退去省を設置」というニセ情報、24時間の閲覧回数が800万回に”、AFP=時事”高市氏が「外国人大量追放省」設置との偽情報、SNSで拡散”)。

判定

高市首相が外国人の大量国外退去を目的とする省庁を新設すると表明したかのような投稿が英語で拡散した。高市氏は所信表明演説で「政府の司令塔機能を強化し、既存のルールの遵守を求めるとともに、土地取得等のルールの在り方についても検討を進める。そのため、新たに担当大臣を置いた」と述べているものの、10月27日現在、外国人を大量に国外退去させるという情報も、省庁を新設するという情報もない。よって、誤りと判定する。

出典・参考

首相官邸.”第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説”.2025年10月24日.https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1024shoshinhyomei.html,(閲覧日2025年10月27日).

日経新聞.”高市早苗首相の18閣僚への指示書、全文明らかに”.2025年10月23日.https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA230EU0T21C25A0000000/,(閲覧日2025年10月27日).

Newsweek.”高市早苗が「大量国外退去省を設置」というニセ情報、24時間の閲覧回数が800万回に”.2025年10月23日.https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/10/575873_3.php,(閲覧日2025年10月27日).

AFP=時事.”高市氏が「外国人大量追放省」設置との偽情報、SNSで拡散”.2025年10月24日.
https://news.yahoo.co.jp/articles/b597546d66a01861b6d773fe0afc23ae80a2c558(閲覧日2025年10月27日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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