兵庫の内部告発で元県民局長が不服申し立てできなかったのは怪文書だったから? 百条委など「一定の事実を確認」【ファクトチェック】

兵庫の内部告発で元県民局長が不服申し立てできなかったのは怪文書だったから? 百条委など「一定の事実を確認」【ファクトチェック】

兵庫県の斎藤元彦知事らが内部告発された問題で「(元県民局長は)告発文書が怪文書だったから不服申し立てできなかった」という主張が拡散しましたが、誤りです。百条委員会と第三者委員会は告発に一定の事実があったと認定しています。また、元局長は百条委で「後輩や職員に迷惑をかけたくなかった」ことを申し立てしなかった理由と説明しています。

検証対象

2025年9月1日、日本維新の会・奈良県第1選挙区支部長の高野あつし氏が内部告発問題についてXに投稿した。以下のような内容だ。

「県民局長か不服申立てできなかったのは、告発文書に事実がほぼ無いただの嫌がらせの怪文書だったから当然なだけ」

9月10日現在、この投稿は220件以上リポストされ、表示回数は8万回を超える。投稿について「ほんまに」「いつまで元県民局長を利用すれば気がすむんだか」というコメントの一方で「これこそがデマ」という指摘もある。

検証過程

兵庫県の内部告発問題とは

一連の問題は2024年3月、「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」という告発文が一部の報道機関などに送付されたことから始まった。

県は文書を作成したのは当時の西播磨県民局長だとして解任。斎藤知事が記者会見で「うそ八百」などと厳しく批判したのに対し、元局長は今度は県の公益通報制度を利用して内部通報したが、公益通報の保護対象とされなかった。

県は内部調査の結果、告発文は「事実無根」だとして、元局長を停職3カ月の懲戒処分とした。元局長は7月に死亡し、自殺の可能性があると報じられた(以上、NHK.”兵庫県知事 内部告発文書めぐる問題とは”)。

懲戒処分に不服がある場合、県職員は不服申し立てができるが、元局長はしなかった。

百条委員会「一定の事実が確認された」

2024年6月、県議会は告発文書の事実関係を調べるため、百条委員会を設置。2025年3月、百条委は「一定の事実が確認された」とする報告書をまとめた。

報告書は告発文書の7つの項目について、調査結果を報告している。

1 五百旗頭真理事長ご逝去に至る経緯について
2 令和3年の知事選挙における県職員の事前選挙活動等について 
3 次回知事選挙に向けた投票依頼について 
4 知事が贈答品を受け取っていることについて 
5 知事の政治資金パーティー実施にかかるパーティー券の購入依頼について 
6 阪神・オリックス優勝パレードにかかる信用金庫等からのキックバックについて 
7 知事のパワーハラスメントについて

このうち、2「事前選挙活動」と3「投票依頼」については「違法行為を裏付ける証言等は確認できなかった」と結論づけている。一方で、1,4,5,6,7については一定の事実が確認されたと書いている。

7「知事のパワーハラスメント」については、以下のように指摘している。

「『パワハラを受けた』との証言は無かったものの、パワハラ防止指針が定めるパワハラの定義である『①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの』に 該当する可能性があり、不適切な叱責があったと言わざるを得ない(以上、兵庫県.”兵庫県議会 文書問題調査特別委員会 調査報告書”)。」

つまり、「告発文書に事実がほぼ無いただの嫌がらせの怪文書だった」わけではなく、一定の事実が含まれていたと百条委によって認定されている。

第三者委「パワハラにあたる」

内部告発文書をめぐっては、県も弁護士6人による第三者委員会を2024年9月に設置している。

2025年3月、第三者委は告発文書をめぐる県の対応が公益通報者保護法に違反しているほか、知事の言動をパワハラと認める報告書を公表している。

第三者委は斎藤知事の行為を16の項目に分け、パワハラや不適切な言動があったかを調査し、16のうち10の項目で「パワハラにあたる」と認定した。

また、告発文書については「本件文書の事実関係に関する本調査委員会の結論は、事実と異なる部分もあるが、複数の事実については、真実であるか、真実相当性があると認められたというものである」と評価している(以上、兵庫県.”「文書問題に関する第三者調査委員会」調査報告書”)。

不服申し立てをしなかった理由

2024年6月27日の百条委で、元局長は不服申し立てをしなかった理由について、コメントを発表した。コメント全文は下記の通り。

(以下、引用)
今回の告発文書の作成、配付に対する処分について、「本人に不服があれば人事委員会へ申立てするはず」といった趣旨の発言を仄聞します。

自分は人事課のOBです。自分の後輩たちが今回の件で深く関わっています。一緒に苦労してきた仲間もいます。この間、人事課の職員たちがどんな思いで仕事をしているか、分かっているつもりです。その後輩たちを訴えることがどんなに辛いことかご理解いただきたいと思います。

不服申立てをしなくても済む可能性が少しでも残っているのなら、それをギリギリまで待ちたい、そういう思いです。

私の願いは兵庫県という組織がより良くなるため、真実が明らかになることです。お手数をおかけしますが、どうか、よろしくお願いいたします。

(引用ここまで)

つまり、元局長は公の場で、不服申立てをしなかった理由について、自身が人事部のOBであるため、後輩や職員に迷惑をかけたくなかったと説明している(以上、文書問題調査特別委員会(百条委員会)2024年6月27日 33p)。

判定

元局長の告発文は、百条委によって一定の事実が確認されたと認定されている。また、元局長は不服申し立てをしなかった理由について「後輩や職員に迷惑をかけたくなかった」と説明している。よって「県民局長が不服申立てできなかったのは、告発文書に事実がほぼ無いただの嫌がらせの怪文書だったから当然なだけ」は誤りと判定した。

出典・参考

FNNプライムオンライン(関西テレビ). “知事の「パワハラ疑惑」告発で懲戒処分受けた県幹部 「自分の後輩たち訴えたくない」不服申し立て行わない理由明かす”. 公開日 2024年6月27日. https://www.fnn.jp/articles/-/720350?display=full , (閲覧日 2025年9月5日).

兵庫県.文書問題調査特別委員会(百条委員会)2024年6月27日 33p.https://web.pref.hyogo.lg.jp/gikai/iinkai/index/tokubetsu/bunsho/shingi/documents/bunshoshiryou060627.pdf ,(閲覧日2025年9月5日).

兵庫県.”「文書問題に関する第三者調査委員会」調査報告書”.公開日 2025年3月19日.https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk19/bunsho_daisansya.html ,(閲覧日2025年9月5日).

産経新聞.”百条委員会って何? 虚偽の証言をすると禁錮や罰金が科される”.公開日 2024年9月2日.https://www.sankei.com/article/20240902-IZKXDLK5YFJSBA43QBW2PEQVBI/ ,(閲覧日 2025年9月5日).

NHK.”兵庫県知事 内部告発文書めぐる問題とは”.公開日 2025年7月4日.https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250704/k10014853861000.html ,(閲覧日2025年9月5日).

サンテレビ. “知事批判文書問題 元西播磨県民局長の男性が死亡”. サンテレビニュース. 公開日 2024年7月8日. https://www.suntv.co.jp/suntvnews/news/2024/07/08/79610/ , (閲覧日 2025年9月5日).

検証:木山竣策
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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