参政党・和田知久氏「総理大臣は天皇陛下の臣下のトップ」? 現在の憲法と異なる【#参院選ファクトチェック】

参政党・和田知久氏「総理大臣は天皇陛下の臣下のトップ」? 現在の憲法と異なる【#参院選ファクトチェック】

参院選沖縄選挙区に立候補した参政党・和田知久氏が「総理大臣は天皇陛下の臣下の1番トップ」などと発言しましたが、誤りです。日本国憲法では天皇は日本と国民統合の象徴であり、総理大臣を含む国民は臣下ではありません。

検証対象

参政党から参院選沖縄選挙区に立候補している和田氏はテレビ討論会で「総理大臣は天皇陛下の臣下の1番トップ」「陛下が国民の平和を願っているわけですから、安泰を願っているわけですから、そういう気持ちをくんで、思い切って減税対策を政権には打っていただきたい」などと発言した(沖縄タイムス公式動画チャンネル.”参院選2025 最大争点に物価高に対応する経済政策 沖縄選挙区から立候補予定3氏が討論会”)。

琉球新報は、7月5日に和田氏の発言に関するファクトチェック記事を公開し、「首相が『天皇陛下の臣下』というのは誤り」「『陛下が国民の平和を願っているから政権は減税対策を打つべき』は根拠不明」と報じている。

琉球新報”【ファクトチェック】「総理は天皇の臣下」→誤情報 「天皇の気持ちくんで減税を」→根拠不明 天皇に政治的権能なし 沖縄選挙区・参政候補の発言

検証過程

明治憲法と現在の憲法

明治時代の1889年に発布された大日本帝国憲法では、国民は「臣民」と記され、第1章で以下のような条文で天皇の存在が位置づけられていた。

第1条「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」、第3条「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」、第4条「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」など(国立国会図書館”大日本帝国憲法”)。

国家の主権が天皇にあることや、天皇の地位は神聖なもので、侵すことはできないことが強調されている。しかし、1946年に公布された日本国憲法は、前文で「主権が国民に存することを宣言」している。

第1条では「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と記しており、国民と主従関係にはない(e-gov”日本国憲法 ”)。

参政党の新日本憲法構想案

参政党は公式サイトで「新日本憲法構想案」を公開している。その前文では天皇と国民の関係について「(天皇は)国民を慈しみ、その安寧と幸せを祈り、国民もまた天皇を敬慕し、国全体が家族のように助け合って暮らす」と記している。

また、第一章「天皇」には第一条「日本は、天皇のしらす(2)君民一体(3)国家である」、「天皇は、国民の幸せを祈る神聖な存在(5)として侵してはならない」など明治憲法に近い表記はあるが、「臣民」とは明記されていない(参政党"新日本憲法構想案")。

判定

参政党の和田知久氏が「総理大臣は天皇陛下の臣下の1番トップ」などと発言した。しかし、現在の日本国憲法では天皇は日本国民統合の象徴で、総理大臣は臣下ではない。よって、誤りと判定する。

出典・参考

沖縄タイムス公式動画チャンネル.”参院選2025 最大争点に物価高に対応する経済政策 沖縄選挙区から立候補予定3氏が討論会”. 2025/07/01.https://youtu.be/_OLCAwjNSpM?si=nSbZGKzVoyXgBxdl, (閲覧日2025年7月8日)

国立国会図書館.”大日本帝国憲法” https://www.ndl.go.jp/constitution/etc/j02.html#s1, (閲覧日2025年7月8日)
e-gov.”日本国憲法”.https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION, (閲覧日2025年7月8日)

琉球新報.”【ファクトチェック】「総理は天皇の臣下」→誤情報 「天皇の気持ちくんで減税を」→根拠不明 天皇に政治的権能なし 沖縄選挙区・参政候補の発言” 2025年07月05日, https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-4412978.html, (閲覧日2025年7月8日)

政党"新日本憲法構想案", https://sanseito.jp/new_japanese_constitution/(閲覧日2025年7月8日)

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

医療従事者はマイナ保険証にしない人が大多数? 根拠となるデータなし【ファクトチェック】

医療従事者はマイナ保険証にしない人が大多数? 根拠となるデータなし【ファクトチェック】

「医療従事者はマイナ保険証にしない人が大多数」という情報が拡散しましたが、根拠となる資料などでは示されておらず、根拠不明です。一方で、医療従事者専用サイト「m3.com」のアンケートでは、半数以上の医師がマイナンバーカードに保険証を登録していると回答しています。 検証対象 検証する投稿 2025年11月29日、「実は医療従事者はマイナ保険証にしない人が大多数だという事実、一般の人はあまりご存知ないでしょうね。私も資格確認証を利用していて、マイナ保険証にする予定はありません」という投稿がThreadsで拡散した。 検証する理由 12月2日現在、この投稿は400件以上のいいねを獲得している。投稿について「自分、医療従事者ですが、そんな情報どこから?」「医療従事者ですが、周りもマイナ保険証」という指摘が多くついている。 米メルトウォーターの分析ツールで調べると、12月2日のマイナ保険証への本格移行の数日前からソーシャルメディアへのマイナ保険証関連の投稿が急増し、否定的な内容が目立つ。その中には真偽が不確かな情報も含まれている。 検証過程 マイナ保

By 木山竣策
日本は世界一の重税国? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

日本は世界一の重税国? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

日本は世界一の重税国だという投稿が拡散しましたが、誤りです。国民所得で割った租税負担率や社会保障も加えた国民負担率は、OECD加盟国の中でも比較的低い水準にとどまります。同様の誤った言説は、過去に何度も拡散しています。 検証対象  検証する投稿 2025年11月27日、「日本は世界一の重税国です。皆さん知ってますか?日本は世界一の重税国です。その税金は正しく使われてません。」という投稿が拡散した。 検証する理由 12月1日現在、この投稿は5500件以上リポストされ、表示回数は27万回を超える。投稿について「使い方の説明と改善をしてほしい」「その通りです」というコメントの一方で「OECD平均以下の負担率で助かる」という指摘もある。 検証過程 日本の税負担は諸外国と比べて重いのか。国税や地方税を合計した租税収入金額を国民所得で割った「租税負担率」だけでなく、租税負担に年金や国民健康保険などの社会保障負担を加えた「国民負担率」の両方を比べた。 経済発展や途上国援助などを目的とした国際機関「経済協力開発機構(OECD)」などのデータをもとに、財務省は

By 木山竣策
日本ファクトチェックセンター エディター募集【JFC採用】

日本ファクトチェックセンター エディター募集【JFC採用】

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、ファクトチェックやメディアリテラシー教育などの活動を強化するため、エディターを募集しています! インターネットやソーシャルメディアは、私たちの世界を大きく広げてくれました。一方で、拡散する不確かな情報や、悪意ある偽・誤情報によって、社会の分断や混乱が生まれているのも事実です。 「インターネット上の情報を、誰もが安心して活用できる社会にしたい」 そんな思いを共有し、日本ファクトチェックセンター(JFC)の活動をさらに加速させてくれる新しい仲間(エディター)を募集します! 明るく、前向きに、デジタル空間の健全化に取り組んでくれる方を待っています。 検証とリテラシー教育の「両輪」を強化する 総務省の情報通信白書などのデータを見るまでもなく、私たちが日々接する情報量は爆発的に増え続けています。 JFCは、日々拡散する疑わしい言説を検証する「ファクトチェック」とともに、情報の受け手が自分自身で情報の真偽を見極める力を養う「メディアリテラシー教育」の強化にも務めています。 検証と教育。この「両輪」を回すことで、情報の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ロシアではイスラム教は禁止? 法律で伝統的な宗教の一つと認定【ファクトチェック】

ロシアではイスラム教は禁止? 法律で伝統的な宗教の一つと認定【ファクトチェック】

ロシアでイスラム教が禁止されているという投稿が拡散しましたが、誤りです。ロシアは憲法で宗教の自由を認めています。連邦法でもイスラム教がキリスト教などと並ぶ4つの伝統的な宗教の一つだとしており、イスラム教徒が多数暮らしています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月21日、「ロシアではイスラム教が禁止されている」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 12月2日現在、投稿は1900回以上リポストされ、表示は20万件を超える。投稿には「ロシアで禁止されているのは,イスラム原理主義。イスラム教自体は禁止されていない」「デマ流すなよ。ロシア国民の15~20%はイスラム教徒だよ」などの指摘もあるが、「正しい対応。イスラム教は普通の宗教とは違う」「プーチンさんさすが👍それに比べて日本人は?」など同調するコメントも多い。 検証過程 ロシアは法律で宗教の自由とイスラム教を尊重 ロシア憲法は、ロシア語、英語、フランス語、ドイツ語で公開されている。第28条に以下のような条文がある。 「すべての人は、良心の自由および宗教の自由を保障される。これには、個

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)