「衆院補選、8時に当確はおかしい、不正選挙だ」は誤り 出口調査や事前の取材によるゼロ票打ち【ファクトチェック】

「衆院補選、8時に当確はおかしい、不正選挙だ」は誤り 出口調査や事前の取材によるゼロ票打ち【ファクトチェック】

衆院補選について「開票が始まっていないのに当確が出たのは不正選挙」という言説が拡散しましたが、誤りです。報道各社が事前取材と有権者への調査などに基づいて投票締め切り直後に当選確実を報じたもので、一般的な手法です。

検証対象

4月28日午後8時、3つの選挙区で実施された衆院補選で、投票締切時刻の夜8時に報道各社が当選確実を出したことから「開票が始まっていない段階の当確はおかしい」「不正選挙」だという言説が拡散しました。

当確が出た直後から、SNSには「ハッシュタグ不正選挙」がついた投稿が次々と広がった。開票されていないのに当選確実が出るのはおかしいという内容のほか、「ある候補が落ちるのはあり得ない、票の操作が行われた」などの書き込みも数多くある(例1例2)。

検証過程

投票締め切り直後の当確報道

今回の3つの衆院補選の結果は以下の通りだ(東京15区は当選者と次点の立候補者のみ)。当選者と他候補とは大きく差が開いた。

東京15区 酒井菜摘   4万9476票  須藤元気  2万9669票
島根 1区  亀井亜紀子  8万2691票  錦織攻政  5万7897票
長崎 3区     山田勝彦   5万3381票  井上翔一朗 2万4709票

3区とも投票締め切り直後にNHKなど各報道機関が当選した3氏が「当選確実(当確)」と報じた。

報道各社は有権者にどの候補者に投票するか事前に聞く「情勢調査」、投票所の出口で誰に投票したかを聞く「出口調査」、各陣営への取材などに基づいて、誰が当選するかの予想を立てている。

開票が進むにつれて、1位と次点の差が逆転不可能なほど差がついた段階で、最終結果が出ていなくても「当確」と報じる。開票が始まる前でも、明らかに大きな差がついていることが見込まれる場合には「当確」を報じる。これを「ゼロ票打ち」ともいう。過去の選挙でも何度も見られた報道だ。

票の操作はあるのか?

有権者が投票用紙を投票箱に入れると、開票作業まで開けられることはない(山形県・投票所ってどんなところ?)。

開票作業がはじまるときに鍵が開けられ、公開の場で票が数えられる。開票管理者のもと開票立会人が監視しており、書き換えや票の操作は不可能だ(川崎市・開票の流れ)。

不正選挙の言説については、NHKも投票から開票までの厳重な管理について検証記事を出している(不正選挙?選挙に関する”偽情報”を調べてみると)。

判定

「衆院補選の当確は早すぎる、選挙は不正だ」は誤り。事前の情勢取材、出口調査を踏まえて明らかに優勢な立候補者について当確を報じたもの。

あとがき

投票締め切り直後に当選確実が出ると「票が開いていないのにおかしい、不正選挙だ」という投稿が拡散します。

日本ファクトチェックセンターは、これまでも不正選挙だとする言説の拡散についてはファクトチェック記事を出しています。参考にしてください。

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検証:宮本聖二
編集:古田大輔

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