石破首相「マイナポータルで給付の事務費大幅削減」? 自治体からは批判【#参院選ファクトチェック】

石破首相「マイナポータルで給付の事務費大幅削減」? 自治体からは批判【#参院選ファクトチェック】

石破茂首相は7月2日の党首討論で、2万円給付にともなう事務経費について「マイナポータルの活用で大幅に減らせる」と発言しましたが、根拠不明です。給付金事業の実施主体である自治体は「負担感は変わらない」と述べています。また、マイナポータルを使うことで、どのぐらい経費が削減できるかという見積もりは、総務省もデジタル庁も出していません。

検証対象

7月2日、参院選を控え、日本記者クラブで党首討論が行われた。与党公約の2万円給付について、国民民主党の玉木雄一郎代表は、自民党の石破茂首相に次のように質問した。

「ばらまき2万円、これはいつ配られるのか。そして配るための事務経費をどれぐらいかかると考えているのか。税収の上振れを使うとおっしゃったが、去年の補正から比べると1.9兆円しか上振れありませんが、2万円全員に配るだけでも2兆円 以上かかる。財源は足りていますか」

これに対し、石破氏は次のように回答した。

「マイナンバーを持っていらっしゃる方が8割、口座と紐づけていらっしゃる方が5割、これ紐づけはマイポータルで簡単にできますから、そうすると経費というのがガタンと減るわけですね。財源は税収の上振れ、扶養を活用する、そして税外収入、そういうものできちんと手当てはできます」(共同通信 ”【ノーカット】日本記者クラブ主催の党首討論会”)

マイナポータルの利用で、給付金事業の経費は大幅削減できるのか、検証する。

検証過程

マイナポータル利用しても自治体の負担大

2万円給付について、千葉県知事の熊谷知事は6月11日、自身のXアカウントで、現金給付の実施は自治体職員の負担が大きいと批判した。マイナポータルの活用で省力化できるという意見については、以下のように課題を指摘した。

「『マイナポータルの公金届け出口座に振り込めば市町村の負担が軽くなりますよね?』と言った国会議員がいらっしゃったので、『公金届け出口座を登録した国民にだけ給付する、ということであれば負担は軽減されますが、そんな度胸はないでしょう? そうすると公金届け出口座の人の消し込み処理をした上で、残りの全員に給付するから、作業量は減らず、むしろ手間が増えるだけです』と申し上げたこともあります」(熊谷俊人氏 6月11日のX投稿)。

給付金事業にかかる自治体の負担を訴える声は、他の自治体からもあがっている。福岡市の高島宗一郎市長は、7月1日の記者会見で次のように述べた。

「自治体丸投げというのを、いい加減やめていただきたい」「福岡市の事務手数料(正しくは、事務費)って、いくらだと思います?コロナ中に全市民に対して、今回と同じパターンでやっているんですよね。10億かかるんです、お金が」(福岡市”7月1日視聴会見”)。

毎日新聞は「与党公約の現金給付案に、支給事務を担う自治体首長たちから不満の声が上がっている」と報じている(毎日新聞”2万円給付金、自治体は赤字に?住民サービス低下させかねない事情”7月9日)。

マイナポータルと公金受取口座の活用で、給付金事業における自治体の負担は軽減できるのか。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、千葉県に取材した。県報道室からの回答は次の通りだ。

「これまでの給付制度ですと、郵送(紙)での通知が必要となります。また、公金受取口座については、既存の方法と並行する方法であれば、あまり負担感は変わらないですし、仮に公金受取口座に限ったとしても、紙での通知は必要となり、変わらず作業負担は残ります。(中略)市区町村職員には、郵送物の作成・発送、返送を受けての確認・給付、業者への発注、問合せ対応などの事務負担が発生すると考えており、これを各自治体がバラバラに動いていることが問題であると、知事は考えております」

総務省・デジタル庁の事務費の見積もりはない

現金給付を実施するための事務費や職員の負担は、マイナポータルの利用によって、どの程度軽減できるのか。

JFCの取材に対し、総務省地域政策課の担当者は次のように回答した。「今般の与党公約の給付金については政府から指示は出ておらず、見積もりもない」

また、マイナポータルを運営するデジタル庁の広報担当者は次のように回答した。「具体的にどのような給付を行うのか指示がない状況のため、回答は差し控えさせていただく」

判定

石破首相は、2万円給付にともなう事務経費について「マイナポータルの活用で大幅に減らせる」と発言した。マイナポータルと公金受取口座が十分に普及すれば、大幅な経費削減は可能かもしれないが、各自治体によると、現状はそこまでいっておらず、「紙での通知は必要で、変わらず作業負担は残る」と述べている。また、マイナポータル活用によっていくら経費が削減できるかという見積もりは、総務省もデジタル庁も出していない。実際にやってみれば、ある程度の削減効果がある可能性も考慮して、根拠不明と判定する。

出典・参考

共同通信. ”【ノーカット】日本記者クラブ主催の党首討論会”.2025/07/02.
https://www.youtube.com/live/jqX-6jImFjQ?si=wxLWUOsQaGiFK36P, (閲覧日2025年7月9日).

熊谷俊人6月11日のX投稿.https://x.com/kumagai_chiba/status/1932784806460600337, (閲覧日2025年7月9日).

読売新聞."自公公約2万円給付、市の事務費は10億円…福岡市長「とんでもない負担」「自治体任せにしないで」”7月2日.https://news.yahoo.co.jp/articles/73e76d7713c2a1459c082a45922bc55ec11d6a4d, (閲覧日2025年7月9日).

毎日新聞.”2万円給付金、自治体は赤字に?住民サービス低下させかねない事情”.7月9日.https://mainichi.jp/articles/20250704/k00/00m/010/282000c, (閲覧日2025年7月9日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

青森の地震は人工地震? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

青森の地震は人工地震? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

2025年12月8日、青森県東方沖を震源とする地震があり、青森県で震度6強の激しい揺れを観測しました。この地震が人工地震であると示唆する投稿が多数拡散していますが、誤りです。大きな地震が発生したり、震災からの節目の日を迎えたりするたびに「地震は人工的な兵器」というような人工地震説が拡散しますが、専門家は大きな地震を人工的に起こすのは「非現実的」と否定しています。 検証対象 拡散した言説 2025年12月8日夜遅く、青森県東方沖を震源とする地震があり、青森県で震度6強の激しい揺れを観測した。この地震が人工地震であると示唆する投稿が多数拡散した(例1,2)。 検証する理由 こうした投稿は、大きな地震のたびに繰り返し拡散している。「他国からの攻撃だ」というような陰謀論に使われることもある。 検証過程 専門家「人工地震で震災級の地震は非現実的」 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、人工地震について、東京大学地震研究所の古村孝志教授にたびたび取材をしている。人工地震について、2023年3月に実施したインタビューを以下に再掲する。 古村教授は、

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
A Tsukiji Restaurant Lower Prices Due to Tourist Drop Following PM Takaichi's Remarks over Taiwan? Prices Lowered Before Remarks [Fact Check]

A Tsukiji Restaurant Lower Prices Due to Tourist Drop Following PM Takaichi's Remarks over Taiwan? Prices Lowered Before Remarks [Fact Check]

Amid reports of a wave of cancellations by Chinese tourists following Prime Minister Sanae Takaichi's remarks over Taiwan, an image circulated online alleging that a Tokyo restaurant popular among tourists had implemented “emergency price cuts.” However, this claim is inaccurate: the restaurant had already reduced its prices before

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
高市発言後に急増した国境を超える偽情報とアジア全体での取り組みの重要性/JFC検証9本など【今週のファクトチェック】

高市発言後に急増した国境を超える偽情報とアジア全体での取り組みの重要性/JFC検証9本など【今週のファクトチェック】

高市早苗首相の台湾有事をめぐる発言後、日中に関わる偽・誤情報が激増しています。日本語でだけではありません。日本発の動画に「琉球は日本の一部ではない」などの偽の字幕を載せた動画などが中国語圏のSNSで大量拡散しています。 情報を武器に人の考えや行動を操る戦いを「認知戦」と言います。ロシアからの影響を受けてきた欧州では「「Foreign Information Manipulation and Interference(FIMI、外国による情報操作と干渉)」と呼んで、官民を挙げた対策を進めています。 国境を超えるFIMIには、国境を超えた対策が必要です。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は国内では学生スタートアップのClassroom Adventure、海外では台湾、タイ、インド、モンゴルのファクトチェック団体と協力し、若者世代の情報検証スキルを競う「ユースファクトチェック選手権(英語名:GenAsia Challenge)2025」の国内大会を開催しました。 上位に入ったチームは他国のチームと戦う世界大会に進みます。実践的に情報検証能力を高めるこのような取り組

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
アルゴリズムとは【JFC用語解説】

アルゴリズムとは【JFC用語解説】

アルゴリズムとは、広義には「問題を解決するための手順」のことですが、。料理のレシピや楽譜も一種のアルゴリズムと言えますが、デジタル社会では主に「コンピューターが特定の目的を達成するための処理のルール」を意味します。 例えば、YouTubeやXなどの情報プラットフォームのタイムラインやオススメは、膨大な投稿から、ユーザーの行動履歴などに基づいて「最も関心がありそう」と思われる情報を並べます。大量の情報の中から効率的にユーザーに情報を届けるために必要不可欠です。 私たちは日々、アルゴリズムによって「見たいもの」を優先的に見せられています。非常に便利ですが、同時に気づかないうちに「自分が選んだもの」ではなく、「アルゴリズムが選んだもの」ばかりを見てしまう情報の偏りが発生します。これが「フィルターバブル」です。 フィルターバブルとは【JFC用語解説】フィルターバブルとは、フィルター(膜)がバブル(泡)のように周りをつつみ、そのフィルターを通ってきたコンテンツ(記事や動画など)ばかりを目にする状態を意味します。 ここでフィルターとなっているのが、YouTubeやXなどインターネットの情報プ

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)