(能登半島地震)志賀原発から海上に油19800リットルが漏れ始めた?【ファクトチェック】

(能登半島地震)志賀原発から海上に油19800リットルが漏れ始めた?【ファクトチェック】

「志賀原発から海上に油19800リットルが漏れ始めた」という言説が拡散しましたが、誤りです。北陸電力によると、施設内で1万9800リットルの油が漏れましたが、海面で確認されたのは約6リットルで、すでに中和剤等で処理しています。

検証対象

2024年1月8日、「志賀原発さん、突然海上に油19800リットルが漏れ始めてしまう…」という投稿がX(旧Twitter)で拡散した。投稿したアカウントは独立系ニュースメディアを名乗るNews Sharingでまとめサイトだ。

この投稿は2024年1月18日時点で4500回以上リポストされ、表示回数は100万回を超える。返信欄には「油田かな?」「電源とか大丈夫なんだろか」との意見の一方で「よく読むと海に1万9800リットルの油が流れた、とは発表してない」と指摘する声もある。

拡散した言説について、ファクトチェック団体リトマスは、海へ流出したのは6.1リットルであり、「ミスリード」と判定している。

検証過程

言説の根拠は読売新聞の記事

Xの投稿に添付されているURLはNews Sharingの記事で、これはYahoo!ニュースに掲載された2024年1月7日付の読売新聞の記事を引用して作られている。読売新聞の記事にはこう書かれている。

「北陸電力は7日、志賀原子力発電所前面の海上で縦約5メートル横約10メートルにわたって油膜が浮いているのを確認したと発表した。能登半島地震で破損した変圧器から漏れた油が、雨で側溝から流れ出た可能性が高いという。油膜は0.1リットル程度と発表した」

「能登半島地震で2号機の変圧器が破損し、本体や配管から絶縁用の油約1万9800リットルが漏れ出ていた」

2号機の変圧器から19,800リットルの油が漏出

2024年1月1日の地震発生後、北陸電力は、志賀原子力発電所への影響について複数回にわたって発表している。

絶縁油の漏出について、 1月2日付では1号機起動変圧器で「約3600リットル(推定)」、2号機主変圧器で「約3500リットル(推定)」で、いずれも「堰内に収まっており、外部への影響はありません」と発表していた。

さらに1月5日には「(2号機で)漏えいした絶縁油約19,800リットル(水分も含め約24,600リットル)の回収が完了」と、2日付の推定よりも漏出量が多かったことを公表した。量が推定よりも大幅に増えた理由については「漏えい箇所より高い位置にあるコンサベータ(油劣化防止装置)内の保有量のみの漏えいを想定していましたが、変圧器本体等の一部も漏えい箇所より高い位置にあり、この範囲にある絶縁油も合わせて漏えいしたことによるもの」と説明した。

令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報)」1月5日付

7日には、志賀原発前面の海面上に、油膜(約5m×10m)が浮いていることを確認、量は0.1リットルだと発表した。読売新聞の記事はこの発表をもとにしたものだ。

流出した油のうち6リットルが海面で見つかる

10日にも、原発前面の海面上に油膜(約100m×約30メートル、推定約6リットル)を確認したと発表。変圧器周辺の側溝で油膜を確認したため、漏れ出た油が側溝から雨水用の排出ゲートを経て海に流れ出た可能性があるという。

2号機の変圧器付近と、油膜を確認した海面までの距離は約470mだという。

「令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第7報)」添付資料1より

北陸電力は「この油膜は放射線管理区域内のものではないため、外部への放射能の影響はない」としている。なお18日現在、新たな油膜の発表はない。

判定

拡散した言説は「志賀原発から海上に油19800リットルが漏れ始めた」と書いている。実際には海面上で確認されたのは6.1リットルで、1万9800リットルは2号機から漏出した絶縁油の総量であり、志賀原発の発表も、拡散した言説が根拠とした読売新聞の記事にもそう書いてあり、志賀原発の発表ではすでに回収ずみとしている。よって、「志賀原発から海上に油19800リットルが漏れ始めた」は誤り。

検証:住友千花、木山竣策、高橋篤史、鈴木刀磨
編集:宮本聖二、藤森かもめ、古田大輔

災害で拡散する偽情報の5類型

(能登半島地震)災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか
地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。 災害時の偽情報の5類型 実際と異なる被害投稿 災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1、例2、例3、例4、例5 、例6)。 例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。 例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

世界のファクトチェッカーの年次総会がリオで開催/検証7本・関連11本など【今週のファクトチェック】

世界のファクトチェッカーの年次総会がリオで開催/検証7本・関連11本など【今週のファクトチェック】

世界中のファクトチェッカーが集まる年に1度の総会「グローバルファクト」第12回大会がブラジル・リオデジャネイロで開かれました。筆者(古田)は第9回から4年連続の参加。3日間にわたる会合で主なテーマになったのは、アメリカのトランプ第2次政権誕生後のファクトチェックへの逆風、経済的な支援が細る中で、いかに生き残るか、そしてAIをいかに活用するかでした。今後、解説記事で内容を紹介していきます。(古田大輔) ※冒頭にミニコラムをつけるようにしました。ご意見・ご感想などはこちら。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
東京新聞が都議選の開票不正を報じた? そのような記事はない【ファクトチェック】

東京新聞が都議選の開票不正を報じた? そのような記事はない【ファクトチェック】

「東京新聞が都民ファーストの開票不正を暴露した」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年6月27日時点で、そのような報道はありません。 検証対象 2025年6月26日、「6月24日、東京新聞デジタルは都民ファの不正集計疑惑を報じた」「練馬区の開票所で実際に作業していたスタッフによると速報値と実票数が100票近くズレていたんです」という内容の動画がTikTokで拡散した。 この動画は1.2万件以上のいいねを獲得している。この動画はXでも投稿され、2025年6月27日現在、2050件以上リポストされ、表示回数は6.4万回を超える。 投稿について「何で地上波のニュース出ないのかな」「やっぱり不正はあるのだろうやぁ、、参議院選」というコメントの一方で「元記事を貼ってない情報は嘘」という指摘もある。 検証過程 2025年6月22日に投開票を迎えた東京都議会議員選挙は小池百合子都知事が特別顧問を務める都民ファーストの会が31議席を獲得して第1党に返り咲く一方、自民党は30議席から9減らし、過去最低の議席数となった(NHK"都議選2025 開票結果 全42

By 木山竣策
介護福祉士の国家資格は外国人だと不合格でも取得OK? 国籍関係なしの特例運用【ファクトチェック】

介護福祉士の国家資格は外国人だと不合格でも取得OK? 国籍関係なしの特例運用【ファクトチェック】

介護福祉士の国家資格について「外国人は不合格でも取得できる特例がある」という投稿が拡散しましたが、不正確です。特例が適用された外国人が多いのは事実ですが、国籍に関係なく日本人にも適用されます。 検証対象 2025年6月13日、2ちゃんねる開設者のひろゆき氏が、介護福祉士の国家資格について「日本人だと試験に不合格だと資格が取れないが、外国人だと不合格でも資格が取れる。特例適用8000人は外国人が中心。外国人だけ有利にして日本人が損する措置」という趣旨のポストをXに投稿した。 2025年6月25日現在、リポスト数は1.5万、表示回数は323.9万を超える。投稿には「日本人の職場がどんどん奪われている」や「選挙に行かねーとマジでこの地獄から脱却出来ねーぞ」などの反応のほか、誤りを指摘するコミュニティーノートもある。 検証過程 「特例措置適用者の多くが外国人」は事実 拡散した投稿には、読売新聞の記事「介護福祉士の国家資格『不合格でもOK』特例適用8000人超、外国人が中心…継続に賛否」へのリンクがついている。 記事は「介護分野の国家資格『介護福祉士』につ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
統一教会前で撮られた参政党の集合写真? 画像は合成【ファクトチェック】

統一教会前で撮られた参政党の集合写真? 画像は合成【ファクトチェック】

「参政党は統一教会が母体のカルト」という趣旨の情報が、統一教会前で撮影したかのような画像とともに拡散しましたが、この画像は合成です。また、画像に写っているのは参政党の神谷宗幣代表も参加する政治団体「龍馬プロジェクト」のメンバーです。 検証対象 2025年6月20日、「この写真を見ると参政党は悪質カルトの統一教会と近いようですが、それでもよろしいのでしょうか」という画像付きの投稿が拡散した。この投稿は削除されたが、その後も同様の画像が「参政党は統一教会と関係している」という言説と共にXなどに投稿されている(例1、例2)。 画像では、神谷氏が複数の人物とともに世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の建物の前に並んでいるように見える。 検証過程 画像に不自然な点 世界平和統一家庭連合の施設をGoogleマップで検索すると、渋谷にある施設の外観が拡散した画像の背景と一致する。しかし、画像を細かく確認すると、不自然な点が多い。 背景の建物にある「世界平和統一家庭連合」の文字にはピントが比較的合っているが、その前に並ぶ参政党の神谷宗幣代表らには、前列・後列ともに

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月22日(火)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0722.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)