「惣菜に昆虫が混入」?バッタミックス粉は小麦粉などが原料【ファクトチェック】

「惣菜に昆虫が混入」?バッタミックス粉は小麦粉などが原料【ファクトチェック】

スーパーの惣菜の原材料表記「バッタミックス粉」から、「粉末状のバッタが混入している」という情報が拡散しましたが、誤りです。溶き卵の代わりに小麦粉や大豆タンパクなどを混ぜた食品用の「バッターミックス粉」が揚げ物に使われており、それの略称です。

検証対象

3月下旬ごろ、市販されたエビフライの原材料に「バッタミックス粉」と表記されている画像が拡散した。元のツイートは既に削除・訂正済みとなっているが、画像は他のTwitterユーザーにも利用されている。「気持ち悪すぎだろ」という言葉とともに画像が添付されたツイートは、リツイート・引用リツイート数が4300回、表示回数は176万回を超えた。(例1例2) (2023年4月27日現在)

画像

リプライ欄には、「バッタとコ○ロギのミックス粉?」「何も買えなくなってきますね」といった不安を訴える反応があった。一方で「水で溶くタイプのバッターミックス粉です」など、昆虫のバッタとは無関係だとの指摘もあった。

BuzzFeedは2023年3月30日にファクトチェック記事を配信して、「バッタミックス粉」は、揚げ物に使用する小麦粉などの粉類を主な原料とした「バッターミックス粉」を指していると考えられる、としてバッタが混入しているという言説は「根拠不明」と判定した。

また、毎日新聞の2023年4月13日付のファクトチェック記事では、「バッタミックス粉」は「バッターミックス」である蓋然性が高いとし、画像を投稿したユーザーたちがツイートを削除したことなどを根拠に誤りと判定している。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、惣菜の原材料に、同様に「バッタミックス粉」と表記しているスーパー(検証対象の画像とは無関係)に取材した。

この業者は「『バッタミックス粉』とは小麦粉や大豆タンパク質などを主原料としているバッターミックス粉のこと。コロッケなどを作る際、パン粉をつける前に使用している。私たちは日頃から『バッタ粉』といった呼び方をしており、『バッタミックス粉』という表記は常識の範囲内だと思う」と答えた。

業者の説明では、「バッタミックス粉」も「バッタ粉」も同一で、「バッターミックス粉」の別称・略称というわけだ。

バッターミックス粉とは、揚げ物などを衛生的に大量に作る際に用いられる粉だ。バッター(batter)について、デジタル大辞泉には「料理で、揚げ物の衣にするための生地。小麦粉と牛乳・卵などを水で混ぜ合わせたもの。バッター液」とある。

一方で、バッタなどの昆虫が原材料の「バッタミックス」は存在し、ネットでも昆虫食として販売されている。ただ、惣菜や揚げ物に使用するバッターミックスの省略形のバッタミックス粉とは異なる。

食品表示法に基づく食品表示基準には、『原材料に占める重量の割合の高いものから順に、その最も一般的な名称をもって表示する』とある。

BuzzFeedの記事では「バッタミックス粉」の表記について「バッタミックス粉はネットの検索でも出てこない言葉で、『最も一般的な名称をもって表示する』という食品表示基準から外れている」という消費者庁のコメントを紹介している。

「バッタミックス粉」という表記は不適切で、「バッターミックス粉」とすべきなのか。JFCが消費者庁食品表示企画課に取材したところ、以下のような回答を得た。

「『パイナップル』と『パインアップル』、『トマトピューレ』と 『トマトピューレー』のように、事業者によって『最も一般的な名称』の判断が異なる例はいくつか存在する。消費者庁のほうで『何が最も一般的な名称であるか』を判断することは難しい」

つまり、「バッタミックス粉」であっても、その表記だけで表示基準から外れているとは言い難い。

バッターミックス粉のような2種類以上の原材料から構成される複合原材料の表記については次のように答えた。

「複合原材料は主要な原材料を明らかにする必要があるが、マヨネーズのように原材料が広く一般に知られている場合は、原材料を省いて表記することができる。バッターミックス粉のように判断に迷う場合は、小麦粉など個別の原材料ごとに記載したほうが、消費者にとってわかりやすくなる場合もあると考える」

判定

画像内の「バッタミックス粉」という文言は、揚げ物などを大量生産する際に用いられるバッターミックス粉。揚げ物などの惣菜にバッタなど昆虫が混入しているという根拠はなく、「惣菜に昆虫が混入」という言説は、誤り。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

メガソーラーにまつわる情報、すべて「誤り」とは言えない理由/JFC検証など11本【今週のファクトチェック】

メガソーラーにまつわる情報、すべて「誤り」とは言えない理由/JFC検証など11本【今週のファクトチェック】

猛暑が続いた今年の夏は、太陽光発電に関わる誤情報が大量に拡散しました。「メガソーラーが温暖化の原因だ」というような投稿です。日本ファクトチェックセンター(JFC)は専門家らに取材して、すでにこれらの投稿が誤りであると検証しています。 一方で難しいのが「水害の原因だ」というような投稿です。被害の発生地と明らかに異なっている場合は「誤り」と言えますが、災害発生直後で、原因がはっきりしないことも多く、そのような場合は「根拠不明」、または、さらなる調査を待つ必要があります。 こういった情報は、太陽光発電など再生可能エネルギーに否定的な人たちの間で拡散する傾向がありますが、生態系の破壊を懸念する人たちの間でも広がります。メガソーラーが環境に与える影響については、慎重な検討が必要でしょう。 今週の解説記事は、ファクトチェックにとどまらず、メガソーラーが抱えるそういった課題も紹介しています。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターで

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本国籍じゃないと党員になれないと明記しているのは参政党だけ? 他政党にも同様の規定【ファクトチェック】

日本国籍じゃないと党員になれないと明記しているのは参政党だけ? 他政党にも同様の規定【ファクトチェック】

党員や構成員が「日本国籍を有する者のみ」と明記している日本の政党は参政党だけという投稿が拡散しましたが、誤りです。他政党にも同様の規定があり、公式サイトに掲載されています。 検証対象 2025年9月9日、「日本の政党で党員や構成メンバーが『日本国籍を有する者のみ』と明記している政党は『参政党のみ』」という投稿がXで拡散した。 9月12日現在、投稿は3800回以上リポストされ、表示は17.3万件を超える。 投稿には「それが1番大事です」「他の党は候補者が帰化一世でも平気で国会議員にしてしまう」や「帰化人も日本国籍を有します」という指摘もある。 検証過程 参政党公式サイトの「入党資格」の欄には、「日本国籍を有する方」という記載がある。これは拡散した投稿が指摘している通りだ(参政党”党員規約および利用規約”)。 他の政党はどうか。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、他の政党の党員資格を調べた。 自民党公式サイトの「入党」ページには入党資格として「満18歳以上で日本国籍を有する方」と書いてある(自民党”入党”)。 立憲民主党公式サイトの党員申し込

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
自民・茂木氏「日本を韓国のような多様性のある多民族社会に変える事が必要!外国人に地方参政権を与える」と発言? 過去の発言を改変【ファクトチェック】

自民・茂木氏「日本を韓国のような多様性のある多民族社会に変える事が必要!外国人に地方参政権を与える」と発言? 過去の発言を改変【ファクトチェック】

自民党総裁選に立候補を表明している茂木敏充衆院議員が「日本を韓国のような多様性のある多民族社会に変える事が必要!外国人に地方参政権を与える」と発言したという情報が拡散しましたが、不正確です。2000年に「定住外国人に地方参政権を与える意見には賛成」と発信していますが「韓国のような多様性のある多民族社会」という発言はありません。 検証対象 2025年9月9日、「自民党総裁選へ出馬表明した茂木敏充『日本を韓国のような多様性のある多民族社会に変える事が必要!外国人に地方参政権を与える!』←なんで自民党ってこんなカスしかいないの?」という投稿が拡散した。 9月12日現在、この投稿は9980件以上リポストされ、表示回数は171万回を超える。投稿について「茂木終了」「国会議員の帰化人6割ってのもデマじゃないかも」というコメントの一方で「ハム速の付け足し」という指摘もある。 検証過程 引用されている発言は 検証対象のアカウントは、まとめサイト「ハムスター速報」の記事だ。記事は2000年7月13日に茂木氏の公式サイトに掲載された「e-デモクラシー ~若手政治家の気

By 木山竣策
米NYタイムズ「自民・高市氏が首相になった」と報じた? 4年前の記事を誤訳【ファクトチェック】

米NYタイムズ「自民・高市氏が首相になった」と報じた? 4年前の記事を誤訳【ファクトチェック】

米メディア「ニューヨークタイムズ」が、自民党・高市早苗氏が首相になったとすでに報じているという投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿が引用したのは4年前の総裁選に関する記事で「高市氏が首相になった」ではなく「初の女性首相になることを望んでいる」という見出しです。 検証対象 2025年9月10日、「ニューヨークタイムズは既に高市早苗さんが総理大臣になったと報じています‼️」という投稿がXで拡散した。 9月12日現在、投稿は2200回以上リポストされ、表示は17.3万件を超える。 投稿には「頑張ってその通りになる様にしましょう」「NYTは良く分かってる😆もう総裁選は始まってます」や「えー…あのパヨクゴリゴリのNYTが?フェイクだな…」という指摘もある。 検証過程 拡散した投稿にはピースサインの高市氏と、記事の見出しらしい英文の画像が添付してある。 英文は見出しが「強硬な保守派 初の女性首相を狙う」で、記事の冒頭に「高市早苗氏が勝てば、日本にとって画期的な出来事となる。しかし、一部のフェミニストはそれを望んでいない」と書いている。 見出しの「A

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月20日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0920.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどの

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)