生活保護受給者の71.9%が女性?【ファクトチェック】

生活保護受給者の71.9%が女性?【ファクトチェック】

「生活保護受給者の71.9%が女性」という言説が画像とともに拡散しましたが、誤りです。女性が71.9%を占めるのは介護者であり、生活保護受給者における女性の割合は50.5%です。

検証対象

2024年1月15日、「生活保護受給者の割合は男性28.1%、女性71.9%」とする画像を添付した投稿が拡散した。

投稿は2024年1月23日時点で1000回以上リポストされ、表示回数は58万回を超える。「女と言うだけで優遇するのは辞めた方が良い」「女性の方が長生き」などの声の一方、「ちゃんとリンク先開いて確認したか?その比率は介護してる人の比率だぞ」と、根拠との整合性も指摘されている。

検証過程

添付画像にある資料のタイトル「生活保護受給者(被保護人員)は増加傾向 - 内閣府」を検索すると、内閣府が2011年に公表した「平成23年度版 高齢社会白書(概要版)」が検索結果のトップで出てくる。

資料を確認すると、高齢者の健康・福祉に関する説明の項目で介護の担い手が同居家族とりわけ女性になっているとの説明があり、「性別では男性が28.1%、女性が71.9%と女性が多い(図1-2-10)」と書かれている。

       「平成23年度版 高齢社会白書(概要版)

つまり、拡散した言説にある「女性が71.9%」という数字は生活保護受給者ではなく、介護者に占める女性の割合だ。

ただし、拡散した言説に添付されている画像は捏造ではない。実際に「生活保護受給者の男女比」などと検索すると同じような検索結果の画面が出てくる。

これはGoogle検索の機能で「強調スニペット」と呼ばれるものだ。検索語句に関して、関連するページを検索結果として並べるだけでなく、そのページの内容を抜粋(スニペット)した文言が表示される。

今回の場合、検索結果に出てきた内閣府の資料には生活保護受給者に関するデータと、高齢者の介護者の性別に関するデータが両方掲載されており、Googleのスニペットには前者に関する検索結果として後者のデータが掲載されていた。

また、生活保護受給者の性別ごとの最新の統計がある「令和3年度被保護者調査」(2021年度)によると、総数は200万8950人で、そのうち女性は101万3744人だった。この結果から日本ファクトチェックセンター(JFC)が計算したところ、生活保護受給者に占める女性の割合は50.4%だった。

判定

女性が71.9%を占めるのは介護者であり、生活保護受給者における女性の割合は約5割。よって誤りと判定する。

検証:住友千花、高橋篤史
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

Temuの倉庫が炎上したけど被害額7000円? 何度も拡散するAI画像【ファクトチェック】

Temuの倉庫が炎上したけど被害額7000円? 何度も拡散するAI画像【ファクトチェック】

中国発のECサイト「Temu」の倉庫が炎上したが被害額は7000円という投稿が拡散しましたが、事実ではありません。画像はAIで生成され、低価格をネタにした風刺として拡散しているものです。 検証対象 拡散した言説 2025年11月25日、「Temu倉庫が炎上したけど被害総額7000円らしい」という文言とともに倉庫のような建物が燃えている画像が拡散した。 画像には「TEMU」と書かれた建物が燃える様子が写っている。 検証する理由 11月27日現在、この投稿は4300件以上リポストされ、表示回数は1123万回を超える。投稿について「明らかにAIってわかって、かつgrokのロゴも書いてある」というコメントもある一方で、「倉庫燃えたか」「Is this real?」など、日本だけではなく外国からも注目を集めている。 検証過程 画像の文字は崩壊 画像を確認すると、燃えている建物に描かれている「TEMU」の文字のうち、オレンジ色 の文字が崩れて「TEHU」と読める。また、オレンジと白の四角いロゴのような看板も写っているが、模様が形をなしていない。 画

By 木山竣策
AIを活用し、監視する世界の調査報道/JFC検証など5本【今週のファクトチェック】

AIを活用し、監視する世界の調査報道/JFC検証など5本【今週のファクトチェック】

世界中から調査報道記者が集まるGlobal Investigative Journalist Canferenseがマレーシア・クアラルンプールで開かれています。5日間にわたって、様々な社会問題に関する、多種多様な取材手法や成果などを共有する調査報道の祭典。日本ファクトチェックセンターから筆者(古田)が参加しています。 特に目立つのはAIを活用した報道、逆にAIの問題点を指摘する取材です。AIを活用した調査や分析はすでに報道に欠かせなくなっています。同時に、世界で注目を集める「Empire of AI(AIの帝国)」の著者Karen Haoは、現在のAI開発が社会、経済、環境など地球規模の問題を引き起こしていることを鋭く指摘しました。 ファクトチェックの分野では、個々の偽・誤情報の検証にとどまらず、なぜ、どのように拡散しているのか、いわゆる影響工作に関する調査報道のセッションに大勢の記者が詰めかけました。 GIJC2025の内容については、帰国後に改めて記事を書く予定です。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本人の93.5%が台湾有事をめぐる高市首相の発言を「問題なし。野党や中国が悪い」と回答? 統計的な信頼性が低いデータ【ファクトチェック】

日本人の93.5%が台湾有事をめぐる高市首相の発言を「問題なし。野党や中国が悪い」と回答? 統計的な信頼性が低いデータ【ファクトチェック】

高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁に中国が反発している問題で、日本人の93.5%が、高市首相の発言を「問題なし」と考えているという投稿がXで拡散しましたが、ミスリードで不正確です。拡散した投稿が引用しているデータは、「産経ニュースの1コーナー」という週刊フジが、Xで実施したアンケート結果で、統計的に正確な調査とは言えません。同じ質問ではないですが、この話題に関する世論調査では、賛否が分かれています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月19日、「【朗報】日本人の93.5%『高市発言は問題なし。野党や中国が悪い』」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 11月21日現在、投稿は2.2万回以上リポストされ、表示は392.2万件を超える。 投稿には「日本人の93%ってどこから?」「この数字でハッキリしました。この手のプロパガンダ世論調査はデタラメってね」という指摘もあるが「要するに高市やめろとか発言撤回しろとか言っている日本人の左翼は6.5%しかいないという事ですね」や「そりゃそうだ。ヤクザの要求飲み続けたら、終わりなくエスカレートする。それを

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
新型コロナワクチンは人類に対する犯罪? 米トランプ政権がその被害を認めた? 接種の推奨範囲を縮小【ファクトチェック】

新型コロナワクチンは人類に対する犯罪? 米トランプ政権がその被害を認めた? 接種の推奨範囲を縮小【ファクトチェック】

新型コロナウィルスについて、ワクチン接種が「人類に対する犯罪」で、米トランプ政権がその被害を認めたという趣旨の投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。米疾病対策センターが、2025年10月6日付でウェブサイトに「接種は個別判断に切り替えた」と掲載したことは事実ですが、米政府がワクチン被害を犯罪だと認めたわけではありません。またトランプ大統領は、10月に新型コロナウィルスワクチンの追加接種を受けています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月7日、「コロナワクチン接種は、人類に対する犯罪。米国もトランプ政権がその被害を認めている」などという投稿がXで拡散した。 検証する理由 2025年11月17日現在、投稿は530回リポストされ、表示は30.8万件を超える。 投稿には「つい先日、トランプ大統領はファイザーを讃えて、自身もブースターを接種したばかりですよ」「デマはやめましょう」などの指摘もあるが、「あれだけの甚大な薬害が生じているにも関わらず、それを認めず、未だ接種を中止しないというのは、高市さんが所詮グローバリストだということを如実に表して

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)