【追記あり】「会社負担分」の厚生年金は個人も会社ももらえない?【ファクトチェック】

【追記あり】「会社負担分」の厚生年金は個人も会社ももらえない?【ファクトチェック】

「『会社負担分』の厚生年金は個人も会社ももらえない まさに消えた年金」という言説が拡散しましたが、誤りです。現役世代と会社(事業主)が負担した保険料は、受給資格のある高齢者に年金として支払われます。

検証対象

2024年3月14日、「みなさんの賃金から勝手に没収されている『会社負担分』の厚生年金は個人も会社ももらえません。まさに消えた年金」との投稿が拡散した。「賃金総額」や「社会保険料」などと書いた表の一部の画像も添付されている。

この投稿は2024年3月18日時点で1900回リポストされ、表示回数は130万回に達している。返信欄には、「えっ詐欺?」「サラリーマンはもっと怒った方がいい」との声の一方、「そもそも、被保険者と事業主の人格は別です。事業主負担はあなたの賃金ではない」「年金は貯金じゃないし、払った分が返ってくるって制度でもないから論点がおかしい」との指摘もある。

検証過程

拡散した投稿には、年金に関するQ&Aのスクリーンショットが添付されている。この画像の文字のうち「ねんきん定期便 事業主負担分」をGoogle検索にかけると、画像と同じページがヒットし、日本年金機構のウェブサイトからの引用だと分かる。

スクリーンショットは、日本年金機構のウェブサイトの解説ページの一部だ。

ねんきん定期便」は、日本年金機構が国民年金および厚生年金保険の加入者(被保険者)を対象に、保険料納付の実績や将来の年金給付に関する情報を知らせるために送るものだ。添付された画像は、年金についてのQ&Aで、ここには、「ねんきん定期便の『これまでの保険料納付額』の記載は事業主負担分を含まない金額だ」と書いてある。「事業主負担分の厚生年金は個人も会社ももらえない」とはどこにも書いてない。

厚生年金は、個人が負担する額と会社が負担する額を合わせて、国(日本年金機構)に納付され、受給資格を持つ高齢者に支払われる。以下の図表の通りだ。「半分は会社が負担」という部分がそれに当たる(厚労省・公的年金制度の概要)。

「厚労省・公的年金制度の概要」」より 真ん中が厚生年金の流れ 個人負担分と会社負担分を合わせて年金として支給される

判定

給与明細は会社(事業主)負担分の保険料支払額を記載していないだけで、会社負担分と現役世代が負担した保険料は受給資格のある人に支払われる。よって「みなさんの賃金から勝手に没収されている『会社負担分』の厚生年金は個人も会社ももらえません。まさに消えた年金」は、誤り。

追記(3月25日)

検証過程に、厚生年金が個人負担分と会社負担分を合わせて支給されることを伝える記述と図表を加えました。

検証:住友千花
編集:宮本聖二、藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

今年からインフルエンザワクチンはmRNAに? まだ承認されていない【ファクトチェック】

今年からインフルエンザワクチンはmRNAに? まだ承認されていない【ファクトチェック】

「今年からインフルエンザワクチンは mRNAになりました」という投稿が拡散していますが、誤りです。製薬会社はインフルエンザのmRNAワクチンを開発中ですが、まだ承認されておらず、接種できません。 検証対象 2025年9月27日、「今年からインフルエンザワクチンは mRNAになりました」という投稿がXで拡散した。 10月2日現在、投稿は4400回以上リポストされ、表示は143.7万件を超える。 投稿には「mRNAは分解させないために特殊な脂質の膜で覆われています これは毒蛇の毒成分と同じです」「明治ファルマの社員さんが出版した書籍にも書いてありました📚 打たないでほしいと」や「この時点で承認済みのものはまだ無さそうです」などの指摘がある。 検証過程 インフルエンザ用mRNAワクチンとは 国際的なワクチンの開発・製造を担うCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)によると、mRNAワクチンとは、タンパク質をつくる指令を出すメッセンジャーリボ核酸(mRNA)という物質を使い、細胞に特定の病原体由来のタンパク質やその一部を作る方法を教えることで誘発さ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
厚労相が新型コロナワクチンの感染予防効果について「承知していない」と発言? 恣意的な切り貼り【ファクトチェック】

厚労相が新型コロナワクチンの感染予防効果について「承知していない」と発言? 恣意的な切り貼り【ファクトチェック】

福岡資麿厚生労働相が新型コロナワクチンについて「感染予防効果については承知していない」と発言したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。福岡氏は記者会見で「感染予防効果はあります」と前置きしたうえで「個別のワクチン製造販売業者がワクチンの効果をどのように認識しているかについては、私どもとしては承知していません」と述べています。 検証対象 2025年9月30日、「厚生労働省が裏切りました。『感染予防効果については承知していない』とのこと」という投稿がXで拡散した。 10月3日現在、投稿は9400回以上リポストされ、表示は71.3万件を超える。 投稿には「これは厚労省がこれまでメディアを通して国民に伝えてきたことが嘘であったと、誤情報であったと認めたということです」「じゃあ、なんで国民に勧めたの?(笑)って話ですよね」や「引用元では『製造販売業者の認識』を承知していないと言っているかと」という指摘もある。 検証過程 拡散した動画の内容は 拡散した投稿は別のアカウントの投稿を引用している。引用元は「9月30日の厚生労働大臣記者会見より」などの文言とと

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
自民党総裁選とファクトチェック 討論会発言はほぼ「正確」、話題のシカと外国人不起訴は【解説】

自民党総裁選とファクトチェック 討論会発言はほぼ「正確」、話題のシカと外国人不起訴は【解説】

自民党総裁選(9月22日告示・10月4日開票)をめぐって、候補者の発言やネット上の誤情報を検証した記事がいくつか出ています。しかし、ファクトチェック団体だけでなく、全国の新聞社も積極的に検証記事を出した参院選と比べると少なめです。候補者討論会のAIによる分析も加えて、自民党総裁選をめぐる誤情報やファクトチェックの状況を解説します。 AIで分析すると候補者発言の多くは「正確」 日本ファクトチェックセンター(JFC)では自民党総裁選の中で、9月22日の「立会演説会」、9月23日の「自民党青年局・女性局主催公開討論会」、9月24日の「日本記者クラブ主催公開討論会」をGoogleのAIツール「NotebookLM」で分析しました。討論のデータは、NHKの全文文字起こしやYouTube上のノーカット動画などを活用しました。 NotebookLMに「各候補者の発言のうち、客観的・科学的に発言内容の真偽や信頼性を検証できそうな箇所を抜き出し、判定結果の予想も出して」と指示をしました。その結果、検証候補として示されたのは、各候補者が言及した数字や引用の真偽に関する箇所がほと

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
自民党・小泉進次郎氏の陣営が規則に違反してチラシ配り? 総裁選管「違反ではない」【ファクトチェック】

自民党・小泉進次郎氏の陣営が規則に違反してチラシ配り? 総裁選管「違反ではない」【ファクトチェック】

自民党総裁選に立候補している小泉進次郎農林水産相の陣営が、総裁選の規則に違反してチラシ配りをしているという投稿が拡散しましたが、誤りです。自民党・総裁選挙管理委員会は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に対し、違反ではないと回答しています。 検証対象 2025年9月24日、「チラシ配りは自民党の総裁選挙規則違反にあたりますね。ルールを守って正々堂々と戦いましょう。前回、高市早苗陣営のリーフレットを問題視した小泉陣営の #平将明 衆議院議員、どう思われますか?」という投稿がXで拡散した。 9月30日現在、投稿は1.4万回以上リポストされ、表示は259.3万件を超える。 「総裁選のチラシ配りって違反なんですね!」「これってどこに通報したら良い?」や「前回、高市陣営が問題視されたのはビラを“郵送”で全国に送ったからじゃなかったけ」などの指摘もある。 検証過程 小泉氏事務所「規則違反には全く該当しません」 拡散した投稿の添付画像には、小泉氏の顔写真と名前、右上に「総裁選2025」という文字が入ったチラシのようなものが写っている。どこで誰が配ってい

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は10月18日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1018.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)