中国人が「コノ先日本國憲法通用セズ」という看板を勝手に作っている? フィクションが元ネタのいたずら看板

中国人が「コノ先日本國憲法通用セズ」という看板を勝手に作っている? フィクションが元ネタのいたずら看板

中国人が「コノ先日本國憲法通用セズ」という看板を勝手に作っているなどと主張する画像付きの投稿が拡散しましたが、根拠不明です。拡散した画像の看板は、都市伝説や映画をモチーフにしたいたずらと推測され、中国人が作ったと示す証拠はありません。

検証対象

2025年6月10日、「中国人が勝手にこんな物を作っている」などの文言とともに、「日本國憲法通用セズ」などと書かれた看板の写真がXで拡散した。

2025年6月11日時点で表示回数は100万回を超えていた。6月13日現在、投稿は削除されているが、拡散した投稿には「日本全国で日本の法律に縛られないやつが溢れてこない事を切に祈る」や「イタイバラバラにしてバイバイしてないだろうね」のコメントのほか、心霊スポットの写真ではという指摘もある。

検証過程

画像は有名な「心霊スポット」の看板

拡散した画像をグーグルレンズで検索すると、よく似た画像が添付されたX投稿(例1例2)や「コジツケ君がゆく」というアメーバブログの「コノ先日本國憲法通用セズ」という記事が表示される。

ブログの2024年10月17日付の記事には「以前から気になっていた旧火葬場の心霊スポットへ向かいました。心霊スポット巡り第113話 旧一宮火葬場」などと書かれている。

山道の画像や動画と、グーグルマップのスクリーンショットが掲載されており、画像の一枚が、拡散した画像と一致した。木製の看板に赤い字で「先日本國憲法通用セズ」、白い字で「私有地ニテ一宮火葬場立チ入りシ者」と書かれている。

文字の一部は、青いビニールテープのようなものでさえぎられているが、記事によると、看板には「私有地ニテ一宮火葬場立チ入リシ者 コノ先日本國憲法通用セズ」と書いてあるらしい。看板の先に何があったかや、設置者の情報などは書いていない。

「旧一宮火葬場」でグーグル検索すると、このブログ以外にも複数のサイトが表示される。その一つである「全国心霊マップ 旧一宮火葬場」によると、所在地は徳島県徳島市で、心霊スポットとして知られているようだ。

看板は「犬鳴村伝説」になぞらえた、いたずら?

拡散した画像のリプライに「これは徳島の『旧一宮火葬場』という心霊スポットに付けられてたもので、福岡の犬鳴トンネルの有名なネタを真似て悪戯で作られた看板(4月に行った時には撤去されてました)」(2025年6月11日)とある。

「福岡の犬鳴トンネルで有名なネタ」とは何か。

「犬鳴 看板」で調べると、「きけん この先、日本国憲法通じません」という文字の看板が写った画像や動画が複数表示される(例1例2)。

いずれも「福岡県に犬鳴村という地図に載っていない村がある」「入り口に『この先日本国憲法通用せず』という看板がある」などという内容だ。

旧犬鳴トンネルは福岡県の宮若市と久山町にまたがる実在するトンネルだが、現在は閉鎖されている。2020年に東映が、このトンネルを舞台にしたホラー映画「犬鳴村」を公開し、夜間に訪れる若者と住民がトラブルになる事例が相次いだ(西日本新聞「“心霊スポット”で迷惑行為 映画公開の影響?旧犬鳴トンネル」)。

そのため宮若市は「映画『犬鳴村』は、 フィクション(架空)の内容であり、犬鳴ダム建設と集団移転、新道建設による旧道犬鳴トンネルの廃止等についても、映画の内容は事実と異なります。フィクション(架空)映画として、お楽しみください」と呼びかけている(宮若市「旧犬鳴トンネルについて(映画『犬鳴村』)」)。

つまり、拡散した看板の画像は、このフィクションが元ネタのいたずらであると推測される。

判定

中国人が「コノ先日本國憲法通用セズ」という看板を勝手に作っている、などと主張する画像が拡散したが、根拠不明だ。拡散した看板は、都市伝説やフィクションの映画をモチーフにしたいたずらと見られ、中国人が作ったものであると示す証拠はない。

出典・参考


西日本新聞."“心霊スポット”で迷惑行為 映画公開の影響?旧犬鳴トンネル”.2020年6月1日.https://www.nishinippon.co.jp/item/612952/,(閲覧日2025年6月16日).


コジツケ君.コジツケ君がゆく."コノ先日本國憲法通用セズ”.2024年10月17日.
https://ameblo.jp/kojitukekun/entry-12871514472.html,(閲覧日2025年6月16日).


全国心霊マップ."旧一宮火葬場” https://ghostmap.jp/spotdetail.php?spotcd=1528#google_vignette, 2023年5月30日.(閲覧日2025年6月16日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


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