ファイザー役員が「コロナワクチンに感染予防効果があるか未検証だった」と認めた?【ファクトチェック】

ファイザー役員が「コロナワクチンに感染予防効果があるか未検証だった」と認めた?【ファクトチェック】

SNSで「ファイザー社役員が『コロナワクチンに感染予防効果があるかどうかは未検証だった』と認めた」という言説が拡散していますが、不正確です。アメリカ食品医薬局(FDA)が緊急使用許可を発表した時点で「十分なデータはない」と声明を出していました。新型コロナワクチンは、発症や重症化を防ぐため使用が認められ、感染予防効果もその後に検証されています。

検証対象

欧州委員会の証人喚問に呼ばれた米製薬大手ファイザー社の役員が、「『コロナワクチンが感染拡大を防ぐことができるかどうか検証していなかった』と認めた」という内容のSNS投稿が拡散している。この画像を引用したnoteの記事には6050件以上の「スキ」がついた。

画像
noteに投稿された記事の一部

検証過程

言説の対象となる会議は2022年10月10日に開かれたSpecial Committee on COVID-19 pandemicだ。

オランダの欧州議会議員Robert Roos議員が「ファイザー製のワクチンが市場に流通する前に感染を防ぐかどうかのテストをしたか、この件に関してデータを提出するつもりはあるか」(15:22:50)と質問した。

ワクチンの効果には、接種した人が感染しない感染予防と、感染しても発症を防ぐ発症予防、さらに重症化を防ぐ重症化予防がある。Roos議員はこのうち、感染予防効果を、ファイザーがワクチンを流通させる2020年12月より以前に確かめていたのかを問うた。

質問に対し、ファイザー社役員のSmall氏は「いいえ、市場で何が起こっているかを理解するためには科学のスピードで動かなければなりませんでした」(15:31:45)と答えた。これを受けて、Roos議員はTwitter上で以下のビデオメッセージを発信した

速報:新型コロナのヒアリングで、ワクチンが感染を防ぐかテストされてなかったとファイザー役員が認めた。「他の人のためにワクチンを打とう」は常に嘘だった。新型コロナパスポートの目的はただ人々にワクチン接種を迫るためだった。世界は知る必要がある。このビデオを共有してほしい!

この投稿は2022年12月6日時点で24万件以上のいいねと計17万件以上のリツイート・引用リツイートを獲得した。

ワクチンの流通には、FDAの緊急使用許可が必要だが、その発表があった2020年12月11日時点で「ワクチンが人から人への伝染を防ぐ(感染予防効果の)十分なデータはない」とFDAが当初から認めていた。また、NBCが実施したファイザーのブーラCEOへのインタビューでも、感染予防効果は2020年12月時点では「わかっていなかった」と述べていた。2022年3月に米科学誌Scienceに掲載された論文では、伝染への影響など「間接的な影響の推定は通常、ワクチンが認可された後に(中略)行われます」と記されている。

こうした説明は、日本でも同様にされてきた。

日本ファクトチェックセンター(JFC)が厚労省の新型コロナワクチンコールセンターに問い合わせたところ、担当者は資料「ワクチンの副反応に対する 考え方及び評価について」(2021年2月15日付)の8ページを元に、「感染予防効果は実証しにくく、臨床試 験で確認することは稀。新型コロナは発症しない感染者も多いため、実証が難しい」と説明。臨床試験の段階で、ワクチンに発症や重症化を防ぐ効果があることを確認し、ワクチン接種者が増えた段階で、予防効果も分かってきたという。

現在の厚労省の新型コロナワクチンQ&Aには「日本で接種が行われている新型コロナワクチンは、新型コロナウイルス感染症の発症を予防する高い効果があり、また、感染や重症化を予防する効果も確認されています」と3つの効果がすべて書かれている。

このQ&Aを、アーカイブサイトWayback Machineを用いてたどると、2021年4月の時点では発症予防効果についてのみ説明しており、感染予防効果には触れていない。感染予防効果に触れた記述が登場するのは遅くとも21年7月11日時点である。ここでは「感染を予防する効果については、(中略)承認前の臨床試験では確認されていません」とあり、FDAなどと同じ説明をしていた。

判定

「コロナワクチンが感染拡大を防ぐことができるかどうか検証していなかった」という情報について、ワクチンの承認前の臨床試験で行われていなかった点は事実。しかし、この情報は当初から公開されており、ファイザー社役員が答えた欧州委員会で新たに明らかになった新事実ではない。よって、この言説は不正確(ミスリード)。

あとがき

このファクトチェック記事は海外ファクトチェックサイトであるFactcheck.org記事It's Not News, Nor 'Scandalous,' That Pfizer Trial Didn't Test Transmission - FactCheck.org、「こびナビ」副代表、木下喬弘さんのYouTubeチャンネル動画、【真相】ファイザーはコロナワクチンを市場に出す前に感染予防効果を確認していたのか?、Yahoo!JAPAN記事「『専門家の徹底解説』ワクチン接種の効果や新たな変異ウイルスへの有効性まで、不安・疑問を解消」を参考にしています。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

川口市の刑法犯で検挙された7割が外国人? データの読み間違い【ファクトチェック】

川口市の刑法犯で検挙された7割が外国人? データの読み間違い【ファクトチェック】

川口市内で発生した刑法犯(路上強盗、不同意わいせつ、ひったくりなど)の検挙人員の7割が外国人であるかのような主張がXで拡散しましたが、誤りです。2024年に川口市内で、刑法犯で検挙された外国人のうち、トルコ・中国・ベトナムの3国籍が7割を占めるというデータを誤って解釈しています。 検証対象 2025年6月15日、川口市内で発生した刑法犯罪について「検挙の7割が外国人」という趣旨の投稿がXで拡散した。 2025年6月18日現在、投稿は9800回以上リポストされ、表示回数は290万回を超える。投稿には「移民は日本人が育んだ世界で稀なる世界を打ち壊す」や「終わっとるなぁ 川口市」などのコメントのほか「川口は平和で夜中でも安心して歩けるのが現実」という反論もある。 検証過程 根拠とされた記事の内容は 拡散した投稿には、産経新聞の2025年6月15日付けの記事がついている。「川口の外国人犯罪『トルコ国籍比率ずば抜けている』クルド人に追跡された市議が議会で訴え 『移民』と日本人」という見出しで、6月13日の埼玉県川口市議会の質疑を報じている。 自民党の奥富精

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
中国軍機が自衛隊機に異常接近する動画? 無関係な航空祭の映像【ファクトチェック】

中国軍機が自衛隊機に異常接近する動画? 無関係な航空祭の映像【ファクトチェック】

自衛隊機に対して「中国軍機が異常接近」という説明と共に、戦闘機2機が低空飛行する動画が拡散しましたが、不正確です。中国軍機が自衛隊機に異常接近する事件があったことは事実ですが、拡散した動画は2024年の自衛隊の航空祭のもので事件と関係ありません。 検証対象 2025年6月12日、自衛隊機に対して「中国軍機が異常接近」したという説明と共に戦闘機2機が低空飛行する動画が拡散した。 2025年6月17日現在、この投稿は4500件以上リポストされ、表示回数は210万回を超える。投稿について「こんなスレスレ飛んでるんだね」「これ威嚇してるの?」というコメントの一方で「勘違いする動画のあげ方は良くない」という指摘もある。 検証過程 拡散した投稿にある「中国軍機が異常接近、自衛隊機に45メートル 太平洋上で空母監視中」という文言をGoogle検索すると、日本経済新聞の記事が見つかる。 記事は2025年6月7、8日に太平洋上で、中国軍機が海上自衛隊の哨戒機に異常接近したことを報じている(日本経済新聞. “中国軍機が異常接近、自衛隊機に45メートル 太平洋上で空母監視

By 木山竣策
空爆されたテルアビブの国際空港の動画? 生成AIによるもの 【ファクトチェック】

空爆されたテルアビブの国際空港の動画? 生成AIによるもの 【ファクトチェック】

イスラエルのテルアビブにあるベングリオン国際空港が空爆を受けた様子として動画が拡散しましたが、誤りです。動画はAIで生成されたものです。 検証対象 イスラエルとイランの軍事紛争の中で、2025年6月15日、イスラエルの空港が空爆の被害を受けたという動画が拡散した。「これはAIではなく、本物のテルアビブ空港です。Grokで確認できます」という説明も付けられている。 2025年6月19日現在、この投稿は449件以上リポストされ、表示回数は134万回を超える。投稿について「イラン強い」「マジか」というコメントの一方で「これはAI動画では?」という指摘もある。 検証過程 2025年6月13日未明にイスラエルがイランの首都テヘランなどを攻撃、14日にはイランがミサイルなどで報復した。双方の攻撃はその後も続き、緊迫した状況が続いている。 テルアビブとベングリオン国際空港 テルアビブはイスラエル中部の大都市で経済の中心。拡散した動画で言及されている「テルアビブ空港」は、テルアビブにあるベングリオン国際空港を指していると思われる。 拡散した動画にある空港のター

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は6月21日(土)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfckousiyousei0621.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)