電子レンジは食べ物の栄養を破壊し、発がん物質を発生させる?【ファクトチェック】

電子レンジは食べ物の栄養を破壊し、発がん物質を発生させる?【ファクトチェック】

「電子レンジは食べ物の栄養を破壊、発がん物質を発生させる」という言説が繰り返し拡散し続けていますが、これは誤りです。

検証対象

「電子レンジは食べ物の栄養を破壊、発がん物質を発生させる」という言説がTwitterなどで拡散(例1例2)した。
例1のツイートは、「電子レンジで調理したものを子どもに食べさせちゃダメ」と主張する根拠として電子レンジ調理の危険性を唱えている。

例1のツイートは2300回以上引用され、700件以上のいいねを獲得している(2023/07/30現在)。リプライには「衝撃的」「怖いですね」などの反応の一方で、「『何年以内に』『どれだけの確率で』亡くなったか言えない文章は啓発ではなくタダのデマ」「もし発ガン性物質が出ているのであれば、厚生労働省が動くはず」といった指摘もある。

「電子レンジは栄養素を損なう」「電磁波によって病気になる」などの言説は過去にも繰り返し拡散してきた。European Journal of Cancerが2018年に実施した調査によると、約5人に1人が「電磁波ががんの原因になる」と信じている。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は

  1. 電子レンジは食べ物の栄養を破壊する
  2. 電子レンジは発がん性物質を発生させる

の2点について検証した。

まず、電子レンジの仕組みを説明する。電子レンジは周波数が2,450MHz(=1秒間に24億5000万回振動する)の電磁波を利用して食品を温める。この電磁波は「マイクロ波」とも呼ばれる。電子レンジ内部に放出されたマイクロ波が食品内部の水分を細かく振動させることで摩擦熱が発生し、この熱が広がることで食品全体の温度が上がる。このようにして電子レンジは食品を温めている。

1. 電子レンジは食べ物の栄養を破壊する

WHOは「Radiation: Microwave oven(放射線:電子レンジ)」というページでQ&A形式で以下のように疑問に答えている。

「電子レンジで調理した食品は、従来のオーブンで調理した食品と同様に安全で、栄養価も同じである」「電子レンジで調理した食品が放射性物質になることはないと理解することが重要だ」という見解を示している。

ただし、加熱により栄養成分が壊れることはある。例えば、福井県は「電子レンジで加熱すると栄養素は壊れないの? 」という質問に対して「栄養成分の中には熱に弱いものもあり、電子レンジで調理をした場合、電磁波ではなく温度の上昇により栄養成分が壊れると考えられます」「従来の加熱方法では、食品の表面の急激な温度上昇(焦げ)による栄養成分の破壊が発生する場合もありますが、電子レンジを使うとこのような破壊を避けることが出来ます」と説明している。

また、管理栄養士の平井千里氏はハウス食品のサイトで「電子レンジによる調理は加熱が短時間で仕上がり、その分、野菜の栄養素が分解されずに残る可能性が高い」との見方を示している。さらに「茹でたり煮たりするのと違い、野菜が水に触れていない状態で加熱ができる(水溶性ビタミンなどが逃げない)ことからも、栄養素が残りやすい加熱方法」と説明している。

2. 電子レンジは発がん性物質を発生させる

WHO「Radiation: Microwave oven(放射線:電子レンジ)」で、「電子レンジの設計は、マイクロ波をレンジ庫内に封じ込めること、そしてスイッチが入り、かつ扉が閉じている状態でしかマイクロ波を発生させないことが確認されている。ガラス製の扉周りや扉を通り抜けてのマイクロ波漏れは、国際基準に推奨されるレベルより十分に低いレベルを限度とするように設計されている」「スイッチを切った後、空間や食品にマイクロ波エネルギーが残ることもない」と報告している。

また、WHOは電磁場(電場と磁場の総称)とがんの因果関係については、これまでの研究で「小児または成人のがんリスクの大幅な増加は見つかっていない」と説明している。

判定

電子レンジでの調理による安全性や栄養価は従来のオーブンで調理するものと同様だ。がんリスクの大幅な増加も見つかっておらず、誤りと判断する。

検証:住友千花、高橋篤史
編集:藤森かもめ、宮本聖二、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

米トランプ大統領「サナエをイジメた奴はアメリカを敵に回す」と野党に警告? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

米トランプ大統領「サナエをイジメた奴はアメリカを敵に回す」と野党に警告? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

米トランプ大統領が「サナエをイジメた奴はアメリカ合衆国を敵に回すという事だ」と日本の野党に警告したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。トランプ氏がそのような発言をしたという情報も報道もありません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月28日、「トランプ大統領 日本の野党に警告『サナエをイジメた奴はアメリカ合衆国を敵に回すという事だ』」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月31日現在、この投稿は4900回以上リポストされ、表示は147万件を超える。 投稿には「これ本当ですか❓」等の指摘もあるが、「高市首相自体高支持率 更にトランプ大統領のバック 鬼に金棒」「素晴らしい👍正直トランプはジャイアンかよってずっと思ってたけど、弁えてたんだと見直した」など同調のコメントも多い。 検証過程 投稿はまとめサイトによるもの 参照記事に該当する記述なし 検証対象のリンクは、まとめサイト「Tweeter Breaking News —ツイッ速!」の記事だ。タイトルは掲示板サイト2ちゃんねるのスレッド「トランプ大統領 日本の野党に警告『サ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】

宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】

宮城県知事選について「期日前投票が前回の31倍だったのに、当日の投票率の低さは不自然」「不正選挙」などの言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。期日前投票の最初の3日間に投票した有権者数は前回の31倍でしたが、前回は投票日が衆院選と重なるダブル選挙でした。知事選は選挙期間が17日間、衆院選は12日間。「31倍」だったのは、知事選のみの投票期間である最初の3日間のデータで、今回とは比較条件が大きく異なります。期日前投票の総数は、前回の約1割増にとどまっており、不正選挙を示すデータとは言えません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月26日から27日頃にかけて、26日投開票の宮城県知事選で、「期日前投票が前回の31倍だったのに、当日の投票率の低さは不自然ではないか」と、選挙で不正があったのではないかと示唆する趣旨の言説が拡散した(例1,2,3)。 検証する理由 選挙で不正があったのではという指摘は国政選挙のたびに拡散する。今回の宮城県知事選は異例の注目を集めたことで、不正選挙の指摘も出た。 検証過程 期日前投票最初の3日で「前回の31倍

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

「安倍元首相が日本の年収を下げていた」という文言とともにグラフ付きの画像が拡散しましたが、誤りです。グラフで年収が下がっていると強調されている時期は小泉純一郎政権です。第一次や、第二次安倍政権発足以降の年収はともに上昇傾向にありました。 検証対象 2025年10月27日、「【悲報】安倍晋三、凄まじい勢いで日本人の平均年収を下げていたことが判明wwww」という画像つき投稿が拡散した。 10月30日現在、この投稿は削除されているが、同じ画像を使った投稿が拡散している。 検証過程 画像のグラフは 画像のグラフをGoogleレンズで検索すると、2011年3月2日に「ITmedia ビジネスオンライン」が投稿した「コツコツお金を貯める人が、減っている理由」という記事がみつかる。拡散したグラフは、この記事に添付された内容と同じだ。 記事は「1998年を境に日本の平均年収が減少し、コツコツと貯金する人も減っている」と書いている。拡散したグラフは「ビジネスパーソンの平均年収(横軸は年、出典:年収ラボ)」というタイトルで記事内で紹介され、1998年以降にビジネスパ

By 木山竣策
南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アフリカなど10か国の在留資格を持つ外国人の再入国を禁止するかのような言説が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画は2021年末、松野博一官房長官(当時)が、新型コロナウィルスの水際対策について説明しているものです。 検証対象 拡散した言説 2025年10月27日、「それが当たり前 今までの石破や岩屋のクズぶりが 分かる🤣‼️」という文言付きの動画がXで拡散した。 動画には「10カ国が対象 在留資格持つ外国人 再入国を禁止」とあり、首相官邸で松野官房長官が内容を説明している。 検証する理由 10月29日現在、投稿は3800回以上リポストされ、表示は89.7万件を超える。 投稿には「これ昔の動画ですよね?」「よくこんな数年前の動画持ってきたね」等の指摘もあるが、「今来ている外国人も減らしてください 子を産み選挙権を与えたら日本は終わります」「移民受け入れ反対運動を決行された全国の皆様もきっと喜んでいると思います」など同調のコメントが多数ある。 検証過程 動画は2021年の新型コロナ対策に関するニュース 拡散した動画は52秒で、NNNの

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)